いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

スクエニの凋落とゲーマーとしての「老い」の感覚と


togetter.com


 スクウェアエニックス(以下「スクエニ」)が苦しんでいる。
 業績も株価も低迷しているし、ソーシャルゲームもサービス終了が続いている(これは、長い目でみれば、必要な選択と集中、ではあるのだろうけど)。

『エルデンリング』に夢中になっている息子に、僕自身が遊んで面白かった『FF16』を奨めてみたのだが、全く食指が動かないようだ。
 まあ、僕も『エルデンリング』は、人がプレイしているのを見るだけで、あまりにも難しそうでお腹いっぱいになるのだけれど。

 楽しみにしていた『FF7リバース』も、3D酔いが酷いし、こちらは物語を味わいたいのにミニゲームやらサブクエストやら宝探しやらカードゲームが出てきて興醒めしてしまう。
 序盤でいきなりけっこうややこしいピアノを弾くミニゲームがはじまったのには、正直うんざりした。
 オマケなんだから、やりたくなければやらなければいい、はずなのだけれど、なんかやり残した感があって、気になるんだよなあ、こういうのって。
 制作サイドは「寄り道やミニゲーム、オマケ要素も豊富!」って思っているのかもしれないけれど、僕にとっては「こんなめんどくさいことがやりたくてこのゲームを買ったんじゃないのに」と思ってしまう。

 その一方で、『エルデンリング』は僕には難しすぎて早々に挫折した。最初の敵があんなに強いと困る。先が思いやられる。こちとら、もうそんなに余命はないし、他にやりたいゲームもあるのだ。でも、息子は嬉々としてその堅い敵と闘っている。

 『8番出口』をスイッチでやったときもけっこう驚いた。
 ニンテンドースイッチのダウンロードランキングではずっと上位に入っているゲームなのだけれど、開始すると、タイトル画面も操作法の説明もなく、いきなり地下街にプレイヤーが立たされているのだ。ちなみにこれもかなり3D酔いしながら、なんとか一度出口に辿り着いて、そこで終わりにした。違和感を最初は一生懸命探していたけれど、これは「いろんなわけがわからないことが起こる一発芸を楽しむバカゲー」というのが本質ではなかろうか。価格も安いし、とりあえず1時間くらいやっていれば、ひとまずのゴールはできる。やっぱり「クリア」すると嬉しい。本来は、すべての違和感を発見するまでのゲームなのだろうけど。
 スイカゲームや8番出口のような隙間時間に遊べるカジュアルなゲームと、『エルデンリング』のようなプレイヤーの集中と技術とそれなりのプレイ時間を必要とするゲームが大ヒットしているのは、「両極端」という感じがする。

 そんななかで、「誰でも一定の時間プレイし続ければ、ほぼ確実にエンディングにたどり着ける(逆にいえば、確実に一定の時間と「レベル上げ」的な時期が必要とされる)スクエニのゲームは、「どっちつかず」になっているのかもしれない。

 正直なところ、僕は今でも、『ファイナルファンタジー7』のリメイクや『ファイナルファンタジー16』は、一本道ではあるけれど、グラフィックもストーリー性も遊びやすさも素晴らしいと思うし、面白いと感じているのだ。
 でも、世間の評価は、そうではなくなっている。


fujipon.hatenablog.com
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 もちろん、売れない売れないとは言っても、かなりのセールスを記録しているゲームなので、「つまらない、売れてない、という人たちの声が大きくとりあげられすぎている」だけなのかもしれないが、会社としても、期待していたほどのセールスに至っていないのは、スクエニの決算資料をみれば事実だろう。


 僕は一つの仮説を立てている。

 もう、「ドラクエ』『FF(ファイナルファンタジー)』のような、レベルを上げてプレイヤーを育て、時間をかけて物語を追っていくようなRPG全体が、賞味期限切れなのではないか?

 思えば、ゴルフゲームや競馬ゲームが大ヒットしていた時代があった。
みんなのGOLF』や『ダービースタリオン』が、何百万本も売れていたのだ。


fujipon.hatenablog.com


 現在のゴルフゲームや競馬ゲームにかけられている手間やお金は、あの時代の比ではないはずだが、これらのジャンルは、すっかりメインストリームから外れてしまった。

 ゲームのジャンルには流行り廃りがあって、『ドラクエ』『FF』タイプのRPGは、ジャンルそのものが、もう賞味期限切れなのではなかろうか。
 スクエニの失敗は、つまらないゲームをつくってしまったというよりは、僕のように『ドラクエ』『FF』の黄金時代を知っているクリエイターたちが、あの頃ものすごく売れたゲームに、3Dやオンラインゲームの要素を取り入れつつ、より(グラフィックやサウンド的に)豪華にしていく方向に突き進んでしまったことではないか、という気がする。

 いまの中年世代のゲーマーたちがプロジェクトのリーダーとして「ぼくの考えた最強のFF7」をつくったのだから、僕の世代には刺さる、グサっとくる。
 でもそれは、今の若い世代には「結局、決められたストーリーをボタン押して追いかけるだけじゃん、YouTubeでプレイ動画見れば良くない?」なんだよなあ、たぶんだけど。
 
老害」という言葉はネットでは使われがちだけれど、自分が「老」の側に立ってみると、害になりたいという気持ちは微塵もなく、自分のこれまでのやりかたを続けている、なんだったら、若い人たちに少し配慮している、くらいの行動が、ことごとく「いまの時代の基準」に合わないのだ。

 正直、スクエニは、スクエニらしい作品をつくればつくるほど、制作陣が考える「豪華さ」を突き詰めるほど、コストばかりが上がって売れない、という負のループに陥ってしまっている。
 むしろ、「制作コストを下げて、昔からのRPGゲーマー、僕くらいの世代をターゲットに、そんなにバカ売れしなくても収益を上げられるようなゲーム」「安くて、プレイ時間も短い、間口が広いゲーム」にシフトしたほうがいいのかもしれない。まあ、それをやるにはスクエニは大企業になりすぎたし、後者はインディーズメーカーの領域ではあるけれど。

 実際は、スクエニの収益に関しては、ソーシャルゲームで新しいヒット作が出ていないことが大きいし、金持ちの道楽でやっていると思っていた出版事業が『薬屋のひとりごと』などの大ヒットで貢献しているので、これから何が流行るか、何が正解かなんて、「中の人」にも予測がつかないところはあるのだろうな、とは思う。


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 それにしても、『エルデンリング』とか『Hearts of Iron IV』とかを迷いなくガチャガチャやっている子どもたちをみていると、「もう僕とは積んでいるCPUが違うんじゃないか」としか言いようがない。


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