いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

アメリカ大統領選挙と日本の衆院選、そして「民主主義」について


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 共和党のトランプ候補の勝利に終わった、2024年のアメリカ大統領選挙
 アメリカではまさに「お祭り」的なイベントみたいですが、ほとんどの州は、あらかじめどちらの候補(党)が勝つかほぼ決まっていて、7つの「激戦州」の結果で勝負が決まる、なんて聞くと、「他の州の人たちは、あらかじめ予見された結果通りになるとわかっているのに投票しに行くのは偉いなあ」とか、つい考えてしまいます。それなら、最初から激戦州だけで投票すればよさそう。
 ときどき「番狂せ」がみられることもあるのだけれど。

 ネット上には、「トランプ大勝利!」と声高に叫ぶ人や「民主主義の危機」を嘆く人がいる。
 僕も、前回、バイデン候補にトランプ大統領が敗れたあと、トランプ支持者による国会襲撃事件が起こり、それをトランプ氏が煽動さえしていたのをみて、「これはひどい」と思いました。
 まさか4年後にトランプ大統領が「復活」するとは!



 今回の大統領選挙(あるいは日本の衆議院選挙)で僕が感じたことをとりとめもなく書いてみます。

 いろんな人が、トランプさんの「勝因」とハリスさん(民主党)の「敗因」を考えているのですが、僕は8年前、トランプさんが大統領に初めて選ばれたとき、「これは世界の転換点、民主主義の終わりなのではないか」と感じていたのです。


fujipon.hatenablog.com
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 では、実際に4年間の「トランプ政権」で、世界を大きく変えるような「何か」が起こったか、と思い返してみると、案外、そうでもなかった。
 エルサレムへの大使館移転とか、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱、北朝鮮訪問など、印象的な出来事はたくさんありましたし、トランプ大統領は気まぐれで、側近を次々にクビにしていきましたが、「トランプ大統領のおかげで、世界は破滅の危機にさらされた」という危機感もなかったのです。
 「この人はとんでもないことをする人だ」とあらかじめ身構えておけば、大概のことは想定内になってしまう。
「面白い話があるんだけど」と前置きされると、どんな話も「面白くない」ように。


 官僚機構が整えられた大国のトップなんて、誰がやってもそんなに変わらないのかもしれないな、と僕はトランプ政権で感じました。
 ホワイトハウスの内部は大変だったかもしれないけれど、結局、実務を行うのは官僚をはじめとする公務員ですし、トランプ大統領は「自分や自国の損になることはしない(イスラエル関係は除く)」というスタンスがはっきりしていて、対外的な野心を積極的に示しませんでした。

 「世界の平和」にとってはマイナスなのかもしれないけれど、「よその国の争いに、自分たちが『世界の警察』として命がけで踏み込んでいく必要があるのか?そもそも、アメリカは現時点で「最強の国」なのだから、他国もアメリカと戦うことは望まないだろう、それなら、自分たち自身にとっては、国際紛争に関わるのは損ではないのか?

 もちろん、中国との覇権争いとか、経済的な関係、なんのかんのいっても「グレートなアメリカ」への思い入れもあるでしょうし、そう簡単に「他国のことなんて知らないよ」とは言えないでしょうけど。

 本来の支持層であった「中流の人々」からどんどん乖離し、意識と学歴が高い「セレブの党」が、「弱者」とみなした人たちにだけ慈悲を与えて、「真面目にやっている普通の人たち」を見捨てている、と、民主党に反感を抱いた人は、けっこう多かったのかもしれません。
 
 いや、世の中が圧倒的に変わった、というわけじゃなくて、49対51が、51対49、あるいは52対48になった、というくらいの違いでしかないんですよね、実際は。
 でも、「過半数をとったほうが総取り」というのが、現在多くの国がとっている「民主主義の形態」なわけです。
 建前的には「少数意見の尊重」も付け加えられていますが。
 どこかで線引きをしなければならないのだけれど、民主主義というのは、きわめて合理的であり、理不尽でもある。
 多数派に従うことで流血を避けられる事例は多いけれど、「ほぼ半数の人」の意思は退けられる。

 「トランプはバカ、ひどいやつ」だと言う「知識人」は多いけれど、人は、自分を見下し、バカにしている人の言葉に耳を傾けない、傾けたくない。僕だってそうです。
 トランプさんはむしろ、「バカで、どうしようもないやつかもしれないけれど、俺たちと一緒にバカなことをやってくれる」存在なのかもしれません。
 
 選挙って、わからないですよね。裏金問題とか、統一教会の問題とかで落選した自民党の議員がたくさんいたけれど、それでも、「裏金議員」と言われながら、蓋を開けてみたら少なくない人が当選しました。
 人は、「正しさ」を支持するわけではなくて、「好きなもの」「自分にとって役にたつと思うもの」に投票する。


 僕が子どもの頃、20世紀の後半から終盤くらいは、まだ「建前の時代」でした。
 弱者はみんなで扶けなければいけない、世界にはまだまだ「かわいそうな人たち」がたくさんいる。人間は、人類は、人口・環境問題や宇宙開発に積極的に関わり、滅亡を防いでいかなければならない。絶滅するかもしれないし、もっと幸福になれるかもしれない。 未来の子どもたちのために、より良い世界を残そう!
 それが時代の空気だったのです(僕が当時子供だったからかもしれないけれど)。


 でも、いま、2024年の世界、僕が日本から見ている世界は、どんどん「個人主義」に向かっています。
 まずは、自分が幸せであることが大事なんだ、無理をして他人のために尽くす必要なんてないし、自己犠牲なんてバカバカしい。
 同僚が仕事を押し付けられて残業していても、自分は定時で切り上げるのが当たり前だし、世界にはもう「絶望的に不幸な子どもたち」なんてほとんど残っていないし、むしろ日本人のほうが海外に「出稼ぎ」に行き、「ビッグマックとディズニーランドが世界一安い国」なんて言われるようになっている。


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 育児なんて大変なこと、コスパが悪いこと、本当にやる必要ある?
 どうせ自分が死んだら世界は無くなってしまうんだから、自分がなるべく楽しく、豊かに生きられたら、自分の目に入らない他人や未来の人なんて、どうでもよくない?

 こういう「刹那主義・快楽主義的な個人主義」というのは、少なくとも僕が子どもだった20世紀の後半は「思っていても、口に出すのはためらわれること」だったのです。
 でも、2024年は、こういう言葉に、SNSで「いいね!」がたくさんつけられるようになりました。

 これはこれで、「古い家族制度」から解き放たれたり、「集団による同調圧力」がなくなり、「結婚しない自由」「子どもを持たない自由」がようやく認められるようになった、という面もあるのです。
 「みんなのために我慢しなさい」から、「自分が嫌なものは嫌だと言っていい」へ。

 そうなると、どんどん人は結婚しなくなるし、子どもの数は減っていく。
 いまの世界、少なくとも日本では、ひとりで生き、死んでいくことは、そんなに難事ではありません。
 これだけネットやサブスクが進化し、「推し活」を生活の中心にする人も珍しくない社会では、他者との差別化を捨てれば、生きるためのコスト(食費や生活費)も、人生の暇つぶしのための費用も、かなり低減することができるはずです。

 モテなくていい、見栄を張らなくていいのなら、そんなにお金はいらない。

 個人個人の「いまの幸福度」はある程度保たれながら、将来や未来への希望は薄れ、世界の人口は減っていく。


 今回のアメリカ大統領選挙でトランプさんが優位になったとき、僕はふと思ったのです。
 なんであんなとんでもない人がまた「世界のトップ」に選ばれたんだ、でも、ハリス大統領よりトランプ大統領のほうが「面白そう」ではあるな、って。

 不謹慎だ、と言われるかもしれないけれど、ハリスさんがやるであろう「政治的に正しい政治」よりも、「何かとんでもないことが起こるかもしれないトランプ政権」のほうが、エンターテインメントとしての興味は湧いてきます。

 先日の日本の衆院選にしても、「自民党の裏金議員に鉄槌を!」とか言うけれど、今の日本の政治活動には、みんなそれなりにお金が必要だし、似たようなことをみんなやっているんだろうな、いっそのこと、もっと公的に資金を分配して、その代わりに不透明な金稼ぎは厳罰にすべきではないか、とも思っていました。統一教会との深い関係があった議員には、さすがに「選挙のためならここまでやる人たちは酷すぎる」と呆れましたが。

 立憲民主党が党勢を伸ばしましたが、立憲民主党的なものをみんな支持しているというよりは、「調子に乗っている自民党の議員たちに思い知らせてやろう」とか「あいつら、選挙で落選したらどんな顔をするんだろう」という「自民党にお灸を据えてやる」感じで、そのためには最も効果的であろう最大野党に投票した、というだけのような気がします。
 それで、また、自民党に危機感を与え、野党が政権に手が届きそうでなかなか届かない、「ちょうどいい塩梅」くらいの議席数になるんだよね。集団としての人間のバランス感覚って、けっこうすごい。

 立憲民主党も、野田さんがトップなら、まあ、そんなムチャなことはやらないだろうし、とも思いましたし。
 石破さんと野田さんって、僕の目には「やりたいことはよく似ていて、そのために、自分の所属政党では浮いてしまっている」ように見えていました。


 誰かを応援するとか支持するとかじゃなくて、「気に入らないやつを落とす」ための選挙。
 あのガーシーさんが議席を得ていた国なのだから、トランプ大統領を「異常」なんて言えないのではないか。

 高市早苗さんを首相に推す声がとくにネットでは大きかったのですが、僕は高市さんって「威勢のいいことばかり言って敵味方をはっきりさせて、同調者を集めているだけ」で、実際に権力を持ったら、やらなくてもいい争いが増えるばかりではないかと思っています。
 でも、僕がずっと見ている株クラスタでは「高市首相のほうが株価が上がるはず」と待望論が多かった。
 いやちょっと待ってくれ、株価が上がっても、これ以上格差が広がり、政治・経済力がある他国を無用に挑発して日本の政治や社会が不安定になれば、株価どころじゃなくないか?
 株とかの掲示板を見ていると、何人リストラされようが、健康被害が出ようが、他国が戦争をはじめようが、手持ちの株価が上がりさえすれば(あるいは、株価が下がって「空売り」で稼げれば)、大歓迎、という人が世の中にはたくさんいるのではないか、と思えてきます。

 幸せ、ってなんなんだろう?
 お金は大事だけれど、どんどん「お金を稼いで幸せになる」から、「お金さえあれば幸せ」と、手段が目的化しているのを感じます。
 「お金がないと不幸になりやすい」のは、確かなのだろうけれど。


 「極端な利己主義」とか「排外主義」じゃなくても、「まず自分たちのことを最優先にするのが当たり前」という「本音」が許される世界であれば、人は「悪意」がないつもりでも、どんどん他者の都合や状況を「排除」していくようになっていきます。


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 この新書のなかで、ナチ党政権下のドイツ国民が、あからさまな人種差別政策を受け入れてしまった理由のひとつを、著者はこのように説明しています。

 国民が抗議の声をあげなかった理由に関連して、ナチ時代特有の「受益の構造」にふれておこう。それはいったいどんなものだったのだろうか。
 先にも雇用についてふれたように、ヒトラー政権下の国民は、あからさまな反ユダヤ主義者でなくても、あるいはユダヤ人に特別な感情を抱いていなくても、ほとんどの場合、日常生活でユダヤ人迫害、とくにユダヤ人財産の「アーリア化」から何らかの実利を得ていた。
 たとえば同僚のユダヤ人がいなくなった職場で出世をした役人、近所のユダヤ人が残した立派な家屋に住むことになった家族、ユダヤ人の家財道具や装飾品、楽器などを競売で安く手に入れた主婦、ユダヤ人が経営するライバル企業を安値で買い取って自分の会社を大きくした事業主、ユダヤ教ゲマインデ(信仰共同体)の動産・不動産を「アーリア化」と称して強奪した自治体の住民たち。無数の庶民が大小の利益を得た。


(中略)


 ユダヤ人財産の没収と競売、所有権の移転は、細部にいたるまで反ユダヤ法の規定にしたがって粛々と行われ、これに携わった国税庁・市役所などさまざまな部署の役人も良心の呵責を感じることなく仕事を全うできるシステムができあがっていたのだ。ユダヤ人の排斥を支える国民的合意が形成されていたとはいえないにせよ、ユダヤ人の排斥を阻む民意は見られなかった。


 「法律でそう決まっているから」という「他者に説明できる理由」と、自分にとっての「ちょっとした利益」があれば、少数派を排斥する、あるいは、「見捨てる」ことは、そんなにハードルが高いことではなかったのです。
 それは、いまの世の中でも、同じなのだと思う。

 不法移民だって、自分の国で幸せになれるのなら、わざわざそんなリスクをとって他国に来ることはないはず。
 それに対して、これまでの世界は「相手の立場や状況も考えましょう、配慮しましょう」と「建前」を「先進国」に求めていました。
 でも、それはもう、過去の話になってしまった。

 それはもう、正しいとか正しくないとかいうのではなくて、「短期的な視点で、個人の意思や利益を大事にしていけば、そうなるのが自然」なのだと思います。

 自立した中間層はどんどん薄くなっていき、圧倒的な力を持つか、その力を持つ人たちに従順なペットとして保護してもらうか。
 そして、人々の最大の娯楽は「権力者たちの転落を嘲笑すること」。


 それって、まさにギリシャアテネが転落していった「衆愚政治」だよなあ、という不安と、「個人の意思、民意が反映されていった結果そうなるのだから、それもまた『民主主義の最終・究極形態』なのかな」という納得感が僕には両立しています。

 「少子化対策」って言うけどさ、「自分のことが一番大事」で、「死んだら終わり」の世界で、子どもを持ちたがる人が減っていくのは、ごく当たり前のことじゃない?

 これからも、たぶん、「よりカッコいい人」「より面白い人」「より耳触りの良いことを言う人」が勝つよ。
 その人が梯子を外されて転落していくまでが、ワンセットだけど。


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