僕は小学生の頃、ケイブンシャの『マイコン大百科』(たぶん)で、Apple2の『ミステリーハウス』というアドベンチャーゲームの紹介記事を観たのがきっかけで、マイコン(パソコン)に興味を持つようになったのです。
当時から本を読むのが大好きだったので、「自分が主人公になって冒険(推理)できるゲーム」というのは、とても魅力的でした。
とはいえ、1980年代前半の小学生に、何十万円もするようなマイコンを買えるようなお金はなく(と言いつつ、数年後には「これからはコンピュータの時代だから!」「勉強に使えるから!」「お父さんもマイコンを使えるようになったほうがいいよ!」と必死で親を説得し、シャープX-1という30万円くらいしたマイコンを買ってもらったのですが)、Apple2にはオール英語というハードルの高さもあって、まさに「指をくわえて見ていた」のです。
実際に、マイコンでアドベンチャーゲームをプレイすることができたのは『デゼニランド』だった記憶があります。
それはそれで、あの「POLISH」がわからずに数年くらい行き詰まっていたのですが。
今ならば、攻略サイトで確認するだけ、なんですけどね。
結局、40年くらい、僕は「アドベンチャーゲーム(ADV)」(近年では「ノベルゲーム」というのもありますね)で遊び続けてきたのです。
ADVは「時間がかからずに解けてしまうのでコスパが悪い」とか「一本道で文章を延々と読まされるだけなので退屈」など、いまのテレビゲーム界ではあまり人気があるとは言えないジャンルなのですが、僕は文章を読むのが好きだし、そんなに時間がかからずに、ちゃんと「終わってくれる」のがけっこうありがたいのです。オープンワールドRPGなどは、あまりの道のりの長さに、序盤でいつもくじけてしまいます。
そんな僕を子どもたちは「マイクラやポケモンの面白さがわからないなんて」と不思議そうに見ているのです。
最近のノベルゲームって、どうしても「萌え絵」系が多いしなあ……親としては、子どもの前でやるのはちょっと恥ずかしい。
『街』『428 封鎖された渋谷で』のような「実写のADV」の傑作も出ているのですが、これらの作品でさえ、「実写であること」を理由に敬遠する人が少なくないのです。これらは掛け値なしの名作なのだけれど、前に進めるコツ、みたいなものを掴むまで、少し慣れが必要なのも確かなんですよね。ひとつボトルネックになっている部分を解決すると、スルスルと話が進んでいき、最後にはそれぞれの主人公のエピソードが繋がっていくのは素晴らしい体験なのですが。
最近、アドベンチャーゲームって、「萌え感動系」以外はほとんど出ないよなあ……と寂しがっていた僕にもたらされた朗報が『春ゆきてレトロチカ』の発売だったのです。
久々の、実写映像によるミステリ作品。
僕も発売直後にさっそく、PS5のダウンロード版を購入し、プレイしました(子どもたちは全く興味を示さなかったため、Switchではなく、PS版)。
実写を使用した推理型のアドベンチャーゲームで、「問題編」で起きた殺人事件を「推理編」で仮説を組み立て、「解決編」で真相を暴きだす。
とWikipediaには書かれているのですが、実際のプレイ感覚としては、船越英一郎さんが主演しているような実写の「2時間サスペンスドラマ」が、まず「問題編」として流れ(もちろん、2時間でなく、各章数十分くらいですが)、そこで起こった事件について、「推理編」で、「仮説」というか、総当たり穴埋め的に情報を整理し、それをもとに、また実写映像の「解決編」で犯人やトリックを指摘していく、という流れになります。
一部の章では、「推理」とは違った展開になることもあるのですが、基本的には一本道のADVで、「問題編」は、ムービーをただ観ているだけですし、「推理編」は昔のコマンド選択型アドベンチャーを思い出す「総当たり」になりがちで、プレイ時間引き延ばしっぽいなあ……と思えてきます。PS5版の「推理編」は操作性もいまひとつ。解決編は、間違ったときのリアクションが「NG集」みたいでけっこう面白くはあるのですが、最後まで遊んでみた感想としては「さすがにその犯人は強引すぎるというか、プレイヤーにとって『予想外』にしようとしすぎて、かえって白ける」ところはありました。
最後の最後までプレイすると「ここまでやってくれるのなら、これはこれで納得せざるをえないし、『実写で、ADVでしか味わえない作品』だと思えた」のですが。
そもそも「不老」なんてものがあるのか?とか言いはじめたらキリはないのですが、江戸川乱歩、横溝正史っぽい世界観に、大正レトロの世界に佇む桜庭ななみさんの着物姿の美しさには満足せずにはいられません。
けっこう強引な展開も含めて、好きな人にはストライクゾーンど真ん中ではなかろうか。
『街』や『428』のような登場人物が交わっていくパズル的な面白さはないけれど、『かまいたちの夜』の最初のスーパーファミコン版を映像的に進化させ、小説的なストーリーの面白さを重視した(その代わり、「自由度」は少なくなった)という感じです。
全部のトロフィーをコンプリートはしていませんが、ストーリーをひととおり味わうのに、10時間くらいはかかるので、予想した以上にボリュームもありました。
個人的には、このくらいの時間でちゃんと終わってくれて、反射神経や何度もやられても耐える力を求められないゲームは「ちょうど良かった」のです。僕には『エルデンリング』は、もうムリだ。
久しぶりに出た、実写推理ADVということもあり、これが売れて、もっとこういう作品が出てくれればいいなあ、と思っていたのです。
売上ランキングをみると、「うーむ」という感じであり、しかも、7月に入って、発売からまだ2ヵ月にもかかわらず、ダウンロード版は30%割引のセール対象となっています(2022年7月20日(水)まで)。
「初セール!」って、発売からまだ2ヵ月も経ってないのに!僕は定価で買ったのに!と言いたい気持ちもあるのですが、それよりなにより、「こんなに早くセール対象になるということは、あんまり売れていないのかな……」と考えずにはいられません。
まあ、いろんなランキングをみても、「大ヒット!」とは言い難いよね……大々的に宣伝されていたとも言い難いし、「刺さる」人が限られているジャンルでもある。
それでも、こういう作品が、このまま「遊んでみれば面白かった!」という人に見つかることもなく、実写系ADVは手間の割に売れない、商売にならない、ということになってしまうのは、とても無念なんですよ。
「テレビゲーム」で「実写」だからこそプレイヤーに伝わるミステリ体験だとも思いますし、映像と音楽も素晴らしい。キャストも豪華。
(実写作品の場合、キャストでその人の「重要人物度」を想像してしまう、という面もあるけれど)
というわけで、『エルデンリング』にはもう適応できないし、『モンハン』も3D酔いで辛い、という大人のミステリ好き、小説好きの皆さま、『春ゆきてレトロチカ』をプレイしてみていただけないでしょうか。繰り返し何度も遊べる、というタイプではありませんが、一度プレイしておくと話のネタにもなりますよ、きっと(現時点ではネットでの「ネタバレ厳禁」なのですが)。
※割引セールはダウンロード版だけですのでご注意ください。
もうクリアした!という方は、この記事をどうぞ(記事の後半はネタバレあり)。
あっ、最近遊んだゲームとしては『十三機兵防衛圏』(スイッチ版)についても語りたい!これも未プレイの方はオススメです。
こちらは、中学生くらいのときから自分のなかにくすぶっていた「SF少年マインド」に火がつく作品でした。