いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『秋田・男鹿ミステリー案内 凍える銀鈴花』は、『白夜に消えた目撃者』の夢を見るか?


ニンテンドースイッチのダウンロードソフト『秋田・男鹿ミステリー案内 凍える銀鈴花』をクリア。


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このゲーム、オールドゲームファンには懐かしい『ポートピア連続殺人事件』『オホーツクに消ゆ』の流れをくむ、推理アドベンチャーゲームなのです。
「推理」というか、実際は、コマンド総当たりでシナリオの流れを追っていくような感じなんですけどね。これもまた、昔馴染みのアドベンチャーゲームっぽい感じで懐かしい。

昔との違いといえば、捜査でスマートフォンが使えるようになったことでしょうか。実際の警察の捜査も、写真はスマホで撮ったりグーグルで検索したりしているのでしょうか?まあ、するよねたぶん。


相棒のケンが、やたらとIT系のマニアックな知識を披露して暴走しだすところは、『シュタインズ・ゲート』以降の科学アドベンチャーゲームの影響なのか、あえてそのパロディを狙っているのか。

前作の『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』は、まさに「昔の推理アドベンチャーゲーム+旅の情報番組」みたいな作品だったんですよ。

fujipon.hatenablog.com


前作は「いまの時代に『オホーツクに消ゆ』が蘇った!」という感動があったのです。
でも、正直、その続編となると、前作と事件が起こる場所だけを変えたんだろうな、まあ、「観光情報替え」だけでも、1年から2年に1本くらいのペースでこういう懐かしいテイストのゲームを出してくれるのなら、それで十分、だと思っていたんですよ。

ところが、実際にプレイしてみて驚きました。
まあ、朝はじめてお昼過ぎくらいには終わるだろう、と始めたのですが、予想外のボリュームで、なんか消化不良だな……から、驚きの展開が!


fujipon.hatenablog.com


このエントリで、僕はこんなことを書きました。

アドベンチャーゲームがその後、「ファミコンAVG的なコマンド総当たりのフラグ立てゲーム」から脱していったきっかけは、「魅力的なグラフィックと多数のキャラクターと膨大なテキストを用意して、物理的に『読む時間』をかけさせることによって、長いプレイ時間を提供する」というスタイルを確立したことだったんですよね。
その最高峰のひとつが『シュタインズ・ゲート』だったわけで、その作品が、ここで、「ファミコレADV」になったということには感慨深いものがあります。


昔のファミコンアドベンチャーゲームって、すぐ終わるものがほとんどだったのだけれど、僕はあの時代のAVGが、とても好きでした。


 ところが、この『秋田・男鹿ミステリー案内 凍える銀鈴花』は、昔のアドベンチャーゲームの焼き直しをしただけ、ではなかったのです。

 昔懐かしの「推理アドベンチャーゲーム」の容れ物に、「膨大なテキストを用意して、物理的に『読む時間』をかけさせることによって、長いプレイ時間を提供する」という、新たな試みがされているのです。

 ただ、「膨大なテキスト」といっても、『シュタインズ・ゲート』には分量的に程遠いですし、グラフィックも古き良きファミコンアドベンチャーを踏襲しています。「気分転換にこれをクリアして、『モンハン』やろう!」と思っていたのに、なかなか『モンハン』を始めることができなくなるほどのボリュームです。


 ただ、それには功罪があって、「もっと気軽にクリアできるくらいの長さで良かったんじゃないかな」とも感じました。
 「半日くらいでクリアできる」ゲームを求めているオールドゲーマーには、ちょっと長すぎたかもしれません。
 価格を考えれば、よくこれだけのものを本気でつくったなあ、と感心するばかりなのですが。
 
 「あの頃」を知らない今の若いゲーマー、「懐かしさ補正」がない人たちは、このゲームをどう評価するのだろうか。

 あと、どうしても触れておきたいのは、このゲームをプレイしていると、あの日本ゲーム史を代表する未発売ソフトの双璧のひとつ(僕の個人的な意見ですが)、『白夜に消えた目撃者』を思い出すのです。

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 『白夜に消えた目撃者』については、2016年に読んだ矢野徹さんの『ウィザードリィ日記』で、こんな話を読みました。

 宮野さんの話。ドラゴンクエストの作者とハバロフスク経由モスクワへ、ゲームの筋作りに行った。ただし、作れそうになかったという。そのときに話し合ったことというほうが面白かった。「いまの作家が小説にかける時間よりも、ファミコンやコンピュータ・ゲームを作る人のほうが、物語の筋を考える時間がはるかに長い」というのだ。編集部の人だから、実態をよく知っているのだろう。

 そもそも、シナリオハンティングの時点で、「作れそうにない」という感触だったんですね。それならそうと……まあ、早く言えない事情、みたいなのもあるんでしょうけど。


 『白夜に消えた目撃者』は、『ログイン』という雑誌の企画でドラゴンクエストの作家(言わずと知れた堀井雄二さん!)がロケハンをした新作アドベンチャーゲームとして紹介されていたのです。
 矢野さんの話からすると、現場的には、当初から「ゲームにするのは難しそう」という感触だったみたいなのですが、僕はずっと発売日を待っていたのです。
 この『秋田・男鹿ミステリー案内 凍える銀鈴花』には、その『白夜に消えた目撃者』を思い出させる展開があって、もしかしたら、「出すことができなかった幻のゲーム」へのオマージュなのかな、とも思ったのです。
 堀井さんは、「『ドラゴンクエスト』の作者」になってしまったけれど、『ドラゴンクエスト』があんなに大ヒットしなければ、『白夜に消えた目撃者』も出ていたかもしれないなあ。

 「前作の舞台を変えただけの二番煎じものだろう」とスルーしているオールドゲーマーには、ぜひ遊んでみてほしい作品です。
 個人的には「二番煎じ、三番煎じ」でも十分なんですけどね。あんまり大作化してしまうと、かえって魅力が薄れると思いますし。


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ファミコン発売中止ゲーム図鑑

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