いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

身長170㎝未満の「人権がない男」が考えた「好きなことを仕事にする憂鬱」について


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 僕も身長170㎝無い男なので、「ああ、人権ないのか……」と憤りました。
 ……というほどのこともないか。
 僕はこの身長と長年付き合ってきていて、この性格だと高身長でもモテないな、としか思わないし。
 ただ、人によって「逆鱗」みたいなものはあって、僕は「駅弁大学出身のくせに」とか「まともな論文一つ書いていないくせに」なんて言われると、けっこう傷つきます。だから、「低身長に『人権』はない」なんて言われて怒る人がいるのも想像はできます。
 というか、なんで「人権」なんて言葉を使ってしまったのかねえ。いやたぶん、この人は「人権」という言葉を「ゲーマーが仲間内で使うスラングとしての意味(ゲームが下手とか弱いキャラクターだとか)」で使うのが日常で、それを「みんなが観ることができるネット配信」で、そのまま使ってしまったのだろうと思います。
 こういう人に「『人権』を確立するために、人類がどれだけ苦闘してきたと思っているんだ!」と憤ってみても、暖簾に腕押し、みたいな感じではあるのです。
 差別は罪だとしても、無知は罪なのか?
 いやしかし、子どもならともかく、29歳を「無知」だったからという理由で免罪できるのか?


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 たぬかなさんについて、ネットでいろいろ調べてみた限りでは「無知だ、というよりは、基本的には賢い人、理論も駆使するゲーマーなのだけれど、キレやすいところがある」という印象を受けました。僕も「キレやすいオッサン」だから、偉そうなことは言えないな……


 実際のところ、所属チームもスポンサーも、イメージ低下を懸念して、彼女をクビにしてしまったわけで、それは組織としてはやむをえない対応だったとしか言いようがありません。
 彼女を守る理由もそのリスクを負う価値もない、と判断されたのでしょう。
 
 事務所から三行半を突き付けられた東出昌大さんが、あれだけの大被害を諸方面に与えつつも、それなりに再起の道を探ってもらえていたのに比べると、たぬかなさんの「暴言」は高くついたとも思います。

 もともと「キレるキャラクター」として認知されていて、みんなそういうキレっぷりを含めて面白がっていたのに、ある一線を越えたら、あるいは、ネガティブなきっかけがあれば、袋叩きにして抹殺、というのはまさにいまのインターネットの「星の運命」みたいなものです。日本ハムに所属していた中田翔選手とか、あの事件の前までは「やんちゃキャラ」として、粗暴な行為も「個性」扱いされていたようにみえますし。

 この話、個人的には「かつて自宅でかつて自宅でUber Eatsを利用した際、大学生くらいの年齢の男性配達員から連絡先を聞かれた」という「暴言」の前段のエピソードが気になっているのです。
 ああ、めんどくさいなUber Eats。
 そもそも、モテる若者である、ということそのものが、けっこうめんどくさいのかもしれない。


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 僕は、たぬかなさんにとっては、この「家を知っている配達員から、いきなり好意を向けられた」ということが、けっこうキツい体験だったのではないか、と思ったのです。
 相手の配達員だって、そんな「本気」じゃなくて、あわよくば、くらいの軽い気持ちだったのかもしれないけれど。
 配達員のプロ意識が足りない、と言えばそうなんだけれど、もともとそんなプロ意識を求められているとは考えていなかったのかもしれません。
 一度そういう目にあったら、Uber Eats頼むのも二の足を踏むようになるよなあ。
 そもそも、Uber Eatsって、かわいい女性だとチップをはずんでもらいやすいとか、そういう「好意」みたいなものがお金につながるシステムにもなっているのです。
 たぬかなさんも「プロゲーマーとして、チームの一員として、スポンサーに支えてもらっている立場として」のプロ意識に欠けていた。
 ただ、こういうのって、「そういう破天荒さを求め、称賛する人々」がいるのもまた事実です。


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 いまは、他者に好かれる、応援されることでお金を得られる世界になってきました。
 YouTubeライブ配信とかをみていると、スーパーチャットで5000円とか1万円とかが飛び交っている配信もあるのです。
 
 すごいな、うらやましいな、と思う以上に、僕は怖くなります。
 直接面識もない人に、いきなり1万円とかもらったら、その「太客」の意向に逆らえなくなりそうじゃないですか。
 少なくとも、その期待に応えなければ、というプレッシャーはあるはずです。
 ストーカーみたいな人であっても、大きなお金を受け取っていたら、そう簡単には排除できない。
(たぶん、そういう面があるからこそ、バーチャルなキャラクターでお金を受け取る仕組みがはやってもいるのでしょう)


 逆に、「嫌われること」「あらさがしをされること」で稼げる時代、でもあるんですけどね。

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 「劣化」「情弱」「飯テロ」みたいな言葉を、みんながネットスラングとして軽い気持ちで使っているのは知っているけれど、僕は極力
使わないようにしています。何度も言っているんですけど、夜中に美味しそうなものの写真を見せられるのと、人が死ぬ「テロリズム」は、絶対に違う。ただ、言葉の重さは時代によって変わる、というのもまた事実なのでしょう。
 こういうのも「何オッサン古い感覚でゴチャゴチャ『言葉狩り』しているんだよ」って不快になっている人もいるのではなかろうか。

 『シュタインズ・ゲート』をはじめてPSPでやったときには「こんなネットスラングばっかりのゲーム、みんな意味わかるのか?これで大ヒットしたのか?」と驚きました。
 最近は、「かつてネットスラングだった言葉」は、「若者にとっての普通の言い回し」になってきているのだな、と、いまの自分の子どもたちと話していて実感しています。

 いまの世の中では「調子に乗せて暴言吐かせて、叩き落すまでがワンセットのエンターテインメント」ではあるんですよね。本人が「無自覚」であれば、所属している組織やスポンサーを攻撃すれば、すぐに補給線を断つことができる。

 身長170センチ未満の「人権なし男」の僕でも、世の中の配信者が、すべて「政治的に正しすぎる、NHKのニュースキャスターみたいな人ばかり(自由奔放な人もいるみたいですけどね、NHKにも)」になると、面白くないなあ、とは思います。

 インターネットって、「現実で関わるには濃すぎて二の足を踏む人たち」をほぼノーリスクで観察できる、という魅力があるのも僕の実感ではあるのです。悪趣味なのは承知の上です。


 ああ、そういえば、1年半前にこんなエントリがあったな。
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 いま30歳くらいだとしたら、たぶん、ゲームをはじめた時期は、プロゲーマーという仕事が生まれるなんて想像もつかなかっただろうし、ただ、ゲームが上手くなれれば楽しかったはず。
 それを「仕事」にできるのは幸せなことだけれど、「仕事であるがゆえに、ゲームが上手い以外にも『社会性』や『立ち回りのうまさ』が求められてしまう」という苦しさもあるのかもしれません。

 たぬかなさんのUber Eatsでの不快な思いは理解できるとしても、そういう不安定な精神状態であればなおさら、自分の言葉に用心すべきだったのに。
「どんなに自分が傷ついていても、それが他者を傷つけていい理由にはならない。それは、相手がどんなに親しい人であっても」
 言われたほう、やられたほうは、忘れないし、許さないから。

 勿体ないよなあ、プロゲーマーって、そんなに簡単になれるわけじゃないのに。
 eスポーツにとっても、これから認知度を上げていこう、という時期なのに。


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