いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「オーケー」と「北の大地の水族館」の「正直」という戦略


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 前回、以下のエントリを書いたのですが、やっぱり、「宣伝のためには、ポジティブなことを書かなきゃいけない」という思い込みってあると思うのです。


fujipon.hatenablog.com


 「まあ、企業や店だって、売らなきゃいけないのだから、多少は『写真と実際の商品が違ってもしょうがない」と、客の側だって思う……はずだったのです。
 ところが、SNSなどで、売る側と買う側が直接結びつくようになってみると、冒頭の2つの例のような「率直さで、お客やユーザーとの信頼関係をつくる」ほうが、長い目でみればプラスになる時代になってきたと感じます。

 ただし、冒頭の2つの例にしても、ただネガティブな事実を並べるだけではなく、スーパーマーケットの『オーケー』は、「美味しいとは言えませんが、旬の味覚ということで」と、「旬のものである」ということに価値を置く人たちにアピールはしているし、『北の大地の水族館』の「俺も知りたい」には、もどかしさとともに、相手の子どもと同じ目線に立って「共感」を集めているのです。

 僕は2016年に『北の大地の水族館』を訪れたことがあるのです。
 広島カープ日本ハムファイターズ日本シリーズをどうしても観戦したかったのだけれど、マツダスタジアムもチケットが取れず、飛行機で札幌まで行ったついでに。


fujipon.hatenablog.com

 ……「ついでに」って書きましたけど、北海道は、本当に広い。札幌を朝に出て、旭山動物園をみて、この水族館にも寄って帰ってくる、という予定を立てたのですが、旭山に着いたのは閉館1時間前くらいだったし、水族館も閉まるギリギリくらいでした。札幌でレンタカーを借りるときに「雪道用のタイヤじゃないとダメですね」と言われて、まだ秋だし、ちょっと心配しすぎじゃないの?と思ったのですが、雪道用のタイヤのおかげで助かりました。


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 この水族館は、巨大淡水魚「イトウ」がたくさんいたり、「冬に凍る川を再現した水槽」があったりと、水族館好きには知られているのですが、行ってみると「道の駅」の休憩所のような小さな水族館で、よっぽどイトウに思い入れがないと、拍子抜けしてしまうかもしれません。
 というか、「展示されているものは貴重だし、他所では見られない」という希少価値はすごくあるのだけれど、規模とか辿り着くまでの手間を考えると、ここだけを目的にしたレジャーというのは、なかなか成り立ちにくい。とはいえ、北海道の他のレジャー施設ともけっこう離れています。
 
 館長は「俺も知りたい」と答えておられるけれど、そのあたりの現実は当然把握されているはずです。でも、この子に対して、「立地の問題もあるし、そんなに大きな水族館でもないからです」って回答しても、こんなに反響はなかったでしょう。

 「正直」「率直」だと世の中で評価されていることの大部分には、「演出」が含まれているのです。

 松たか子さんが、以前あるラジオ番組で、「自然体」と周囲から言われることについて、こんなふうに話していたのを思い出しました。

「周りからは自然体といわれることもあるけれど、私にとっての自然体というのは、その場の雰囲気を読んで、それにあった、相手が自分に期待しているであろう行動をすることなんです。それが『自然体』と言われているだけで」


 なんとも身も蓋も無い話ではあるし、子どもの頃から、「注目されてしまう人生」をおくってきた人ならではの「達観」であるような気もします。
 
 いまの世の中では、「正直」「率直」「自然体」というのもまた、「演技」の要素を含まざるをえない。
 本当の「正直」は、「空気を読んでいない」「発達障害?」などと排除されることがほとんどです。
 
 ただ褒める、ポジティブなことを言うよりも、ネガティブな部分も含めての「共感」みたいなものをうまく生み出せるかどうかが、今のマーケティングの勝負どころになっているようです。
 

fujipon.hatenadiary.com


 この本には、こう書かれています。

 例えば、新聞の売り込みでは、新規に購読すればビールや洗剤などのオマケをくれるのに、何十年も購読しているファンは何ももらえないみたいなことが慣習的に行われ、あまり疑問を持たれていない。そういう発想からいち早く抜け出さないとファンの気持ちは掴めない。「新規顧客ではなくファンを優先すること」を意識的に習慣化する必要があるだろう。
 また、いわゆる「囲い込んで刈り取ろう」みたいな失礼なマーケティング的発想も変えたほうがいい。「ファン・コミュニティを作ってファンを囲い込みましょう」みたいな発想だ。それは新規顧客を獲得するための方法論だ。ちょっと考えればわかるが、商品を愛してくれる20%のファンを「囲い込み」する必要はないし、発信力あるファンほど「囲い込み」を嫌う。
 常連さんの例をとればわかりやすい。
 あなたの店の価値をわかって支持してくれている常連さんを、他の店に行かないように囲い込もうとしたら、今までの共感や愛着や信頼を裏切るだろう。そのうえ「こいつから稼いでやろう」と刈り取ったら、もう二度と来てくれない。それどころか、今までの支持を裏切られた悔しさから、悪口を常連仲間や周囲に語りまくるであろう。
 顔がわからない新規顧客を相手にするのとは違って、ファンを相手にすることは、顔が見える者同士の「人間のつきあい」なのである。そこをよくよく意識しないと、すぐ見透かされるし、ファンを喜ばすことはできないだろう。


 「ネットでものを売ることばかり考えている人」というのは、この「ファンを相手にすることは、顔が見える者同士の『人間のつきあい』」というのを忘れているのではないかと感じています。
 いや、「忘れている」のではなくて、売ることを生業にしていくうちに、「忘れてしまう」のかもしれないけれど。

 お金が絡んで、しかもそれが収入の柱になってしまうと、平常心を維持するというか、観ている人との距離をうまくコントロールするのは難しくなるのです。

 いまの世界では「信頼感」こそ最大の武器なのに、目先の利益のために、それを失ってしまう人(や店や企業)が、なんと多いことか。


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