いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「人の命を守ること」と「人の命でお金を稼ぐこと」


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 マスクの品薄状態も、どんどん解消されてきているようです。
 ただし、僕が住んでいる九州の地方都市では、まだ、ドラッグストアではなかなか見当たらず、イオンの薬局には山積みされている、という状況でした(5月9日調べ)。
 4月の半ばくらいは、毎日、朝8時くらいからドラッグストアの前に人が並んでいたんですけどね。僕も一度並んだのですが、オープンしてみたら、「今日はマスクの入荷はありません」ということで、意気消沈して帰ってきたのです。

 新型コロナウイルスの感染拡大も、みんなの外出自粛と手洗い、ソーシャルディスタンスを維持するなどの努力もあって、なんとか収束に向かってきているようです。
 もちろん、油断すればまた一気に感染拡大のリスクもあるのですが。
 感染拡大を抑える、ということだけ考えれば、それこそ、こういう自粛生活をずっと続けたほうが良いわけです。
 でも、このままみんなが家に籠って、サービス業にお金を落とさなければ、多くの人や店や会社が路頭に迷ってしまう。
 個人の飲食店などは、もともと、「何か月も、いきなり需要がゼロに近くなってしまう」なんてことは想定していないでしょうし。

 今の世の中というのは(というか、貨幣経済が生まれてから、なのかもしれないけれど)、「命を守る」ということと、「経済活動」は、切り離せないのです。
 そして、「命を守ること」もまた、ひとつの「大きな産業」ではあるのです。
 だからこそ、医療というのは金儲け第一主義にならないように、さまざまな制約が課されてはいるのですが、儲けようと思えば、いろんな方法があるのも事実です。
 アメリカの保険制度なんて、民間保険会社の利権のために、国民皆保険が実現されないわけですし。

 ただし、企業の側にとっても、難しいところはあるのです。

 マスクにしても、足りないときは、みんな「なんでもっと増産してくれないんだ!」と叫ぶけれど、企業がなんとか体制を整えて増産しはじめたときには感染のピークが過ぎて、「もういらないよ」ということになってしまう可能性もあります。
 たとえとしては適切ではないかもしれないけれど、爆発的に売れているからと大増刷をかけた本が、増刷されたときにはもうブームがすぎていて在庫の山、なんて話はよくあります。

 懸命に増産したマスクも、消費者は、あれだけ作ってくれ、絶対買うから、と言っていたのに、もし感染が収束して、要らなくなったら、見向きもしない。自分の言葉に責任を取って余ったマスクを買うこともない。


感染症の世界史』(石弘之著・角川ソフィア文庫)に、こんな話が出てきます。

 WHOは、エボラ出血熱を流行のフェーズ(6段階に分類)の「フェーズ5」に指定した。しかし、対策が後手に回ったWHOには批判が集中した。職員がまとめたWHOの内部文書が明るみに出て、火に油を注ぐ結果になった。それによると、感染拡大初期の対応失敗の原因として、「官僚主義」「職員の怠惰」「情報の不足」などが指摘されている。
 いち早く支援に乗り出した「国境なき医師団」が、(2014年)三月末の時点で世界に向けて警告したのに対し、WHOは八月に入ってやっと非常事態宣言を発した。これは、2009年の新型インフルエンザの流行で、WHOは警戒レベルを最高の「フェーズ6」を宣言したときのトラウマと疑われても仕方がない。このときは、結果的に弱毒性のインフルエンザで大流行にはならず、WHOの判断ミスが遡上にのぼった。
 実は、このときの非常事態宣言を受けて、各国が大手製薬会社のワクチンを競って輸入したが、多くがむだに終わった。日本は2500万回分を320億円で輸入したが、最終的に1600万回分が廃棄処分にされ、800万回分は90億円の違約金を払って解約した。製薬会社は莫大な利益を上げ、欧州評議会では特別委員会を組織してWHOと製薬会社の癒着を追及した。


 ちなみに、新型コロナウイルス(COVID-19)に対して、WHOは、2020年3月11日に、WHOの感染病分類の中で最も重い「フェーズ6」である「パンデミック(世界的大流行)」に認定しています。


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 今回の新型コロナウイルスに対するWHOの対応には批判もあるのですが、10年前に、新型インフルエンザで、こういうことがあったのです。
 
 なんでも陰謀論よばわりしてはいけないとは思いますが、新型コロナウイルスも、経済にとっては、ひとつの「材料」ではあります。
 「アビガン」関連やオンライン診療を推進する企業の株価は、コロナ禍のなかでも上昇していました。

 この2009年の新型インフルエンザ、今となっては、「ああ、そんなこともあったなあ」くらいの記憶しかない方も多いのではないでしょうか。

 こういうとき「ワクチン注文しすぎちゃったけど、足りないよりはずっとマシだよね。ひどいことにならなくて、よかったねえ」とはならないのが、今の世の中なのです。
 
 こんなふうにムダなお金を使ってしまたのは、WHOが製薬会社と癒着して、儲けさせようとしたからではないのか?

 日本では、この何百億円もの「浪費」はあまり追及されなかったのですが、ヨーロッパでは大きな問題となりました。

 こういうことが10年前にあったことを思えば、WHOがパンデミックを宣言しづらかったという気持ちは理解できます。
 とはいえ、今回は「宣言が遅い!」と言われてしまっているわけで、あれだけ専門家がいても、「ジャストタイミング!」って評価される対応をすることは、かなり難しいのでしょうね。

 医療だって、「需要と供給」で価値が決まることから、逃れられない。

 「命はお金では買えない」、とは言うけれど、かけがえのないものだけに、命の危機につけこんで稼ぐ、というのは、きわめて有効な手段ではあるのです(「ニセ医療」とか、まさにそうですよね)。だから注意してね、って言っても、専門家じゃないと何が正しいかなんてわからない。
 それでも、過去のさまざまな感染症パンデミックに比べれば、人間の叡智は進歩してきている、というのも事実ではあるのです。
 「人の命で稼ごうとしている人たちの叡智」も進歩してきているのは残念ですが。
(ただ、従事者の良心に依存するだけではなく、「稼げる」からこそ、医療というシステムが発展を続けている、というのも忘れてはならないのだと思います)


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