いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「もう、TSUYATAしかない地方都市」から見た、「TSUTAYAの閉店ラッシュ」問題

ascii.jp


 そうか、もうTSUTAYAもそんなことになっているのか……と、田舎のTSUTAYAっ子(TSUTAYAオヤジですね、すみません)である僕は、これを読んで思ったのです。
 田舎(といっても、人口数万人くらいの地方の市)では、すでに、「最大の新刊書店はTSUTAYA」という状況が、10年くらい前からみられていたのですが、そのTSUTAYAでさえ、すでに実店舗を整理するほうに向かっている、ということなんですよね。


fujipon.hatenablog.com


 ブックオフが厳しくなっている、と思っていたら、「勝ち組」だったはずのTSUTAYAも、もう斜陽なのか……
 数々の競合他社や郊外型新刊書店を圧倒してきたけれど、今度は、DVDやCDのレンタルという業態そのものが難しくなってきたのです。


 まだ九州ではそういう「波」は来ていないのかな、と思いきや、この記事では、福岡市の天神から六本松への移転が紹介されていました。
 たしかに、僕の感覚でも、「天神と六本松くらいの距離があって、福岡市の人口規模があれば、二店併存も十分可能な気もするのです。
 これまでのTSUTAYAって、けっこう近くに複数の店舗がありましたし、一部の地域では、「地域内の指定店舗であれば、どこの店にでも返却可
」とか、「ポストに入れて返却できるサービス」なんていうのも行われています。
 実感として、10年前みたいに、人気作はほとんど貸し出し中とか、レジの前は大行列、駐車場は大渋滞、というのは、ほとんどみられなくなりましたし。
 その一方で、みんながそんなにストリーミング配信を利用しているかというと、あんまりそんな話は聞かないのですけどね。
 ただ、これに関しては、いま40代という僕の世代がそうなのであって、もっと若い世代は、ソフトを借りて返す、という手間そのものが障壁になっている可能性もあります。


fujipon.hatenablog.com


 テレビの視聴率もどんどん落ちてきているし、数分単位で楽しませてくれるYoutubeの無料動画に慣れた世代に、2時間の映画は長すぎるのかもしれません。
 僕も「なんかかったるいなあ」って、よく思います。
 それでも、『君の名は。』のDVD/BDはかなり売れているみたいなので、「売れるものは売れる」のでしょうけど。
 僕はわりとTSUTAYAのランキングとかを見ているのですが、この『君の名は。』がレンタルランキングで圧倒的な1位をずっと続けている、というわけでもなくて、「映画館で観る作品」「DVDやブルーレイのディスクを買うもの」と「借りて(あるいはストリーミングで)観るもの」は、棲み分けがなされている気がします。
 

 僕の体感として、「最近のTSUTAYAはショッピングモール内の店ばかりになってしまった。とくに新規店舗は」というのがあるんですよ。
 新刊書を買いたい僕としては、ショッピングモールにまで出かけてもTSUTAYAの本の品ぞろえだと、正直、ちょっと物足りない(TSUTAYAでも都会の大型店は、紀伊国屋にも遜色ないくらいなのかもしれないけど)。
 DVDレンタルに利用するには、ショッピングモール内の店って、「けっこうめんどくさくて、使い勝手が悪い」のです。
 これまでの地方の郊外型TSUTAYAだと、駐車場に停めて、車を降り、すぐ店内に入れたのだけれど、ショッピングモール内だと、入り口から駐車場、そして、駐車場から店内までが遠いうえに、ショッピングモール内でもけっこう移動距離が長くなることが多い。ショッピングモール内の賑わいを通り抜けていくのは、気が重くなることもある。それでも、品揃えが良ければまだメリットもあるのだろうけれど、いろんな雑貨やレンタルコミックを扱っていたり、中にコーヒーショップが入っていたりするので、レンタルDVDのラインナップに関しては、既存の郊外店と同じくらいなわけです。
 ショッピングモール側としては、TSUTAYAが入ってくれれば、書店、レンタルDVD店、文具店、CD/DVDショップ、ゲームショップが一度に揃うわけで、人を呼ぶための優良店舗なのでしょうけど。
 しかたがないので、普段は近くにある郊外型のゲオを利用しているんですよね。セルフレジは僕のような「レジでやりとりをするのが苦手な人間」にとっては、一度使うと便利すぎる(一部のTSUTAYAにも導入されています)。
 激レアな作品を借りたいわけでもないし。
 どうも、ショッピングモール内で人を集める書店系の施設としての役割が、紀伊国屋からTSUTAYAに移ってきて、郊外型の仕事帰りに気軽に入れるTSUTAYAのポジションが、ゲオのものになりつつあるみたいなんですよね(あくまでも僕の可視範囲内での「体感」です)。
 じゃあ、紀伊国屋はどこに行くかというと……どこに行くんでしょうね……


 実店舗には、「借りるつもりがなかったDVDや本を思わず手にとってしまう」とか、ディスプレイのされ方や借りられている状況をみる楽しみもあって、なんでもストリーミング配信で観ればいい、というものでもないと僕は思っています。
 1時間DVDを観るよりも、1時間TSUTAYAの店内を散策するほうが、愉しいことも少なくないのです。
 そして、実際に店舗でDVDを借りて帰るような客層は、これからは、ショッピングモールに出かけてくる家族連れよりも、独居、あるいは夫婦だけの高齢者世帯の割合が増えてくる気がするんですよね。それを考えると、ゲオの戦略のほうが正しいのではないか、とも感じます。
 ただ、縮小していくことが約束された市場、だとも言えるので、長期的にみれば、TSUTAYAの事業転換は正しいのかもしれません。
 これからのTSUTAYAの実店舗には、冒頭の記事でも言及されている、作品のパッケージが並んでいるのを見たい人は、ショッピングモールにある旗艦店まで来てください、という、ショーケース的な役割を持たせようとしているようにも思われます。


 TSUTAYAしかない地方都市でも、同じような撤退戦が展開されるのか、そういう場所ではTSUTAYAがしばらくは覇権を握り続けていくのか。 
 ただ、ストリーミング配信でのレンタル事業って、現状、そんなに伸びているとも思えないんですよね。
 アメリカでは、もうストリーミング配信のほうが主軸になりつつあるので、日本も近い将来そうなるのだろうか。


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 ストリーミング配信が今後伸びるとしても、これだけAmazonNetflixが先行している状況で、TSUTAYAは巻き返すことができるのだろうか。
 新刊書店としても、「Amazonがあるじゃないか」っていう人も多いですし。
 

fujipon.hatenadiary.com


 長年利用してみると、Amazonにもメリット、デメリットがあるので、利用する側からすれば、「リアル店舗と選べる状況に越したことはない」のですよね。
 でも、それもどんどん難しくなっていきそうです。


 TSUTAYAの運営会社については、嫌悪感を抱いている人も多いようなのですが、僕としては、TSUTAYAの実店舗というのは、数少ない、平日の仕事帰りに30分間浮世を忘れられるオアシスなので、なくなっていくのは寂しいのです。
 本とCD/DVDとゲームがたくさんあって、ひとりでいられる場所というのは、そんなに多くはないから。
 TSUTAYAが郊外型書店を駆逐していった無念さはあるのだけれど、TSUTAYAしかない、ほうが、TSUTAYAもない、よりは、はるかにマシなんだよなあ。


TSUTAYAの謎

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TSUTAYA 破壊と創造―週刊東洋経済eビジネス新書No.145

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