いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「親と子の問題」について考えるための8冊の本


gerusea.hatenablog.com


あの『ど根性ガエルの娘』の「15話」を読んで、しばらく考え込んでしまいました。
率直に言うと、僕は、あんまり驚かなかったというか、「そういうことだったのか」と、むしろ腑に落ちた感じがしたんですよね。
実際、いろんな人に話を聞いてきて、「親子仲良しの理想的な家庭」って、まあ、全体の2〜3割くらいかな、という印象を持っています。
致命的な問題ではなくても、多かれ少なかれ、「心の澱」みたいなものを親子関係に抱えている人はたくさんいるのです。
そもそも、他者からみれば「そんなことくらいで」と思うようなことが、ずっと許せない人もいる。
その一方で、自分が親になってみると、「自分の子どもとはいえ、衣食住に不自由させないだけでも、うちの親はたいしたものだったのかもしれないな」なんて、今さら感心してみたりもするのです。


というわけで、「親と子」の問題について考えるための本とその感想を8冊、ご紹介してみます。
「ひどい親のせいで、不幸になった子ども」もいれば、「こんな家庭環境なのに、子どもはちゃんと成長し、親に感謝さえしている」という事例もあるんですよね。
親子の問題というのは、本当に「一筋縄では行かない」のです。



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「たった一人の母親が学校を崩壊させた。」
 僕がこの自殺した生徒の母親の話を読んでいて痛感したのは「ああ、こんなふうに、周囲を巻き込んで誰か、何かを責めずにはいられない人」って、どこにでもいるよなあ、ということでした。
 その人には、どこかに向けないとやりきれないような、巨大な悪意のエネルギーみたいなものが常にあって、そのターゲットにされてしまったら、もう逃げられない。
 しかも、そういう人って、「誰に対してもおかしい」わけではなくて、「自分の味方と敵をキチンと分けて、自分の味方に対しては、「ちゃんとした人」のようにふるまい、「この人にそんなに言わせるなんて、それはやっぱり、あなたが悪いんじゃない?」と感じさせる術に長けているのです。
 周囲は、ターゲットになっている人を謝罪させたり、排除すれば、この責め苦から逃れられるのではないか、と考えるようになってしまうこともあるのです。



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「子どもは愛情さえあればスクスクと育つものだと思っていました」
 たぶん、大部分は、それで「なんとかなる」のでしょう。
 ところが、「虐待されてきた子どもたち」は、「新しい家で、里親の愛情を注がれれば、すぐに普通の子どもになる」というわけではなかったのです。



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ルポ 虐待 ――大阪二児置き去り死事件 (ちくま新書)

ルポ 虐待 ――大阪二児置き去り死事件 (ちくま新書)


芽衣さんの場合、「なんでこの人が、子供を産んで、『母親』になってしまったんだろう?」という疑問ばかりが浮かんでくるんですよ。
「でも、こういう事件と『紙一重』の親って少なくないのだろうな」とも思うし、僕自身も、自分の息子に対して、すごく苛立ち、怒りを露にしたことがあります。
本人は「子どもがいれば、幸せになれる」と思うんだよね。
しかしながら、子育てっていうのは、楽しいことばかりじゃない。
「自分が常に目を配っておかないと、あっという間に消えてしまうかもしれない命」の責任を持つというのは、とんでもないストレスです。
それが、24時間、365日。



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強父論 (文春e-book)

強父論 (文春e-book)


 弘之さんの言動を読んでいると、本当に「めんどくさいお父さんだなあ」って考えずにはいられないのです。
 このお父さんと付き合っていくのは、大変だっただろうな、って。
 こういう「家族モノ」って、「頑固でワガママな父だったけれど、本当は家族思いの優しい人だった」というような「美談」も散りばめられていて、読者は「なんのかんの言っても、家族のことを愛していたんだねえ」と納得してしまうことが多いのですが、佐和子さんが描く、「家庭人・阿川弘之」は、なんというか、あんまり言い訳できないというか、「これはひどい!」としか言いようがないのです。
 それでも、少なくともいまの阿川佐和子さんは、お父さんに「感謝」しているようにみえます。
 向田邦子さんのエッセイを読むと、厳格な「戦前の父親像」に、「よくこんな家庭から、向田さんのような『自立した女性』が出てきたなあ」と考えてしまいます。
 結局のところ、環境要因だけで、人間を語ることはできないのかな、と。
 もちろん、あまりにも極端な場合は別として(……でも、阿川さんのお父さんは「極端」だよね……)



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これを読んでいると、ある人がカルト宗教の信者になるか、ならないかというのは、まさに「紙一重」というか、ちょっとしたタイミングの違いが大きいのではないかと思うのです。
著者のお母さんだって、住み慣れた日本で生活していれば、たぶん、「普通の人生」をおくっていたし、宗教的なものに興味を持ったとしても、こんな形になはらなかったのではないでしょうか。
そして、これと同じことは、どこの家庭にでも起こりうることなんですよ、たぶん。



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ヒキコモリ漂流記

ヒキコモリ漂流記


あの「髭男爵」の山田ルイ53世さんの半生記。
ルネッサーーンス!で一発当てるまでには、こんなことがあったのか……
 山田少年は幼稚園時代から勉強もスポーツもできて、クラスのリーダー的な存在であり、小学校のとき、ふと思い立って中学受験をしたら神戸の名門校に合格し、そこでも成績優秀で「山田くんはこのままいけば、東大に行けますよ」と先生にも言われていたのだとか。
ただ、中学受験の時期くらいから、変調はみられていたようです。
家庭は崩壊しており、そのなかで、母親の期待を一身にあつめ、「いい子」であろういう強迫観念にとりつかれてしまった山田さん。
親は「子どものため」だと思ってやっているのだろうけど……



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カルト村で生まれました。 (文春e-book)

カルト村で生まれました。 (文春e-book)


 高田さんの両親は、大学時代にこの村のことを知って、村のなかで出会って結婚したそうなのですが、カルト宗教的な「洗脳」が行われていたわけでもなさそうなのに、なぜ、この生活を続けることができたのだろうか。
 子供と引き離されても、「信じて」いたのだろうか。
 

 村の決まりで、子どもたちは朝食が食べられなかったり、言うことを聞かない子どもには体罰が加えられたり、裸で立たされたり、テレビは『まんが日本昔ばなし』しか見せてもらえなかったり……
 よくこれで我慢できたな、と思うのですけど、「そういうもの」だと教えられて生きていると、そこから逸脱するのは難しいことなのでしょうね。



 いわゆる「毒親」に限らず、「親(あるいは、親が信じていたもの)の子どもへの影響」には、いろんなパターンがあるのです。
 ここで紹介した本に書かれている事例は、かなり極端なものばかりなのですが、僕が40年あまり生きてきて痛感しているのは、世の中には、ドラマに出てくるような「100%幸せな家庭」とか「完璧な親」なんていうのは存在しない、ということなんですよね。
 子どもを放置して、「自分の人生」を生きてしまう親もいれば、「子どもが自分の生きがい」になってしまって、子どもに巨大なプレッシャーを与え続けてしまう親もいる。
 何が子どものプラスになるのかというのは、本当に難しい。
 そうそう、これを書いていて、ひとつの「成功例」を思い出しました。
 あのバルセロナのメッシ選手のお父さんについて、メッシの子ども時代の監督だったチャビ・ジョレンスさんが、こう言っていたそうです。

 やはり家族というものはとても大事なのです。バディは消え、ディオンはサッカーをやめ、メッシは世界一になった。その差は才能だけじゃなかった。メッシの父親は素晴らしかったです。彼はサポートだけに集中して、余計なことは一切言いませんでした。メッシが何点とっても浮かれることはなかった。それは若い選手に落ち着いてサッカーに取り組ませるうえで、欠かせないことです。


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カンプノウの灯火 メッシになれなかった少年たち

カンプノウの灯火 メッシになれなかった少年たち


でも、「子どものサポートだけに集中する親」というのが、本当に「正しい」のかどうか。
そもそも、万人が成功できる世界ではないし、親の人生というのは、どうなるのか。
イチロー選手のお父さんも、イチローが選手としてあれだけ大成しなかったら、きっと、子どもを野球漬けにして他の可能性を奪った「毒親」だとされていたはずです。
あまりそう思いたくないところではありますが、子育てって、「結果論」になってしまうのかな……

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