いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「松坂桃李さんと戸田恵梨香さんのゲーマー婚」に、ゲーマー受難の時代を生きた僕が感じた「パラダイムシフト」


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結婚した超人気俳優カップルの共通の趣味が「テレビゲーム」か……
「ゲームセンターに行くのは不良」「ゲーム好きの子は根暗」と言われ、補導員の目を盗みながら、ゲームセンターでナムコの『ドラゴンバスター』に夢中になっていた(一度、「警察が来た!」と言われて、トイレの窓から逃げたこともあります)、「モテ」と極北の世界を生きた中高生時代の僕に、この未来を見せてやりたい……
 今から思えば、あの頃は、なんでテレビゲームがそんなに悪いものだと思われていたのだろうか。

 21世紀、インターネットの普及につれて、アニメやテレビゲーム好きを公言する芸能人やアイドルが増えてきましたよね。松井玲奈さんの漫画、アニメ好きカミングアウトに「アイドルが公言する時代になったのか」「でも、これもオタクを味方にするための戦略なのでは」などと思っていたのですが、今ではもう、ゲーム好きの芸能人は珍しくもなくなりました。

 ゲーム好きをカミングアウトするのも老若男女幅広く、大山のぶ代さんの『アルカノイド』の腕前に驚かされたのも、遠い記憶になってしまったなあ。

 ゲームやアニメが当然の趣味になった時代を生きている今の中高生たちをみて、「オタクだとみなされることが教室社会での死の宣告だった」僕は、いい時代になったものだな、と感慨にひたらずにはいられないのです。


fujipon.hatenablog.com


 こうして、ゲームやアニメが市民権を得るのに、何か「きっかけ」があったのだろうか、と考えてみるのですが、僕の知識の範囲では、明確な分岐点はわからないのです。
 2000年代、ネットの普及とともに潮目は変わり、2010年代には、「とくに引け目を感じることもない、趣味のひとつ」に、なっていたような気がします。


 そんなことを考えていたら、『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』(星海社新書)で、瀧本さんがこんな話をされていたのを思い出しました。


fujipon.hatenadiary.com

 みなさん、パラダイムシフトって言葉、聞いたことありますよね?
 パラダイムチェンジとも言うかもしれませんが、要は、それまでの常識が大きく覆って、まったく新しい常識に切り替わることです。
 最近では、スマホが登場してガラケーに取って代わったことなんかは、典型的なパラダイムシフトでしょう。
 一般的な用語として広まっていますが、でもこれ、もともとは科学ジャンルの言葉で、トーマス・クーンという科学史の学者が『科学革命の構造』という著書の中で使い始めたものなんですね。
 たとえば、超有名な天動説から地動説への大転換があるじゃないですか。ガリレオ・ガリレイとかの。
 あれって、どうやって起きたと思います?
 どういうふうに、みんなの考え方がガラリと変わったんだと思います?
 じゃあ、そこの方。はい。


生徒1「学会とかで議論して、認められた?」


 なるほどなるほど、非常に良い答えですね。ありがとうございます。
 他にいますか? はい、あなた。


生徒2「古い学者がみんな死んじゃって……」


 そう、そう。そうなんですよ。
 クーンはですね、地動説の他に、ニュートン力学ダーウィンの進化論など、科学の歴史上で起きたいろんな科学革命を調査・研究した結果、たいへん身も蓋もない結論に達してしまったんですね。
 ふつうに考えれば、天動説を超えるような人に対して、地動説の人が「こうこう、こういう理由で天動説は観察データから見るとおかしいから、地動説ですね」って言ったら、天動説の人が「なるほどー、言われてみるとたしかにそうだ。俺が間違ってた。ごめんなさい!」っていうふうに考えを改めて地動説になったかと思うじゃないですか。
 でも、クーンが調べてみたら、ぜんぜん違ったんですよ。
 天動説から地動説に変わった理由というのは、説得でも論破でもなくて、じつは「世代交代」でしかなかったんです。
 つまり、パラダイムシフトは世代交代だということなんです。


 結局のところ、テレビゲームやアニメが市民権を得たのは、テレビゲームが世の中に受け入れられるものに変化したというよりは(内容的には、よりリアルで残酷になっているものが少なくありません)、時間が経ち、世代が変わったことによって、「宮崎勤事件」や先日亡くなられた「宅八郎」の記憶が薄れたことや、「テレビゲームをなかなかやらせてもらえなかった」子どもたちが、親になって、自分の子どもがゲームで遊ぶことに抵抗感を持たなくなったから、なんですよね、たぶん。
 親というのは、自分がよく知っているもの、自分がやっていたことを子どもがやっていると、なんだか安心するし、ちょっと嬉しくなるものでもありますし。

 この結婚のニュースに、僕は時代も変わったなあ、と感じましたし、それと同時に、その時代の変化のためには、やはり、「世代交代」の時間が必要だったことを考えずにはいられなかったのです。人々の「常識」は、すぐには変わらない。戦争で惨敗でもしないかぎり。
 「常識」が変わるためには、正しさを証明するのではなく、社会を構成する人が入れ替わるしかない。
 それも、テレビゲームやアニメが、世代が変わるだけの時間、粘り強く人々を魅了しつづけてきたから、ではあるのですけど。


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