いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

こんな世の中だからこそ、「本当のお金持ち」の話をしよう。



 僕はけっこう長い間、「お金のことをあれこれ言うのは、はしたない」というような、しょうもない矜持みたいなものを抱えていて、その一方で、先輩に頼まれていった当直アルバイトのお金を貰っていないことをずっと根に持つような人生をおくってきたのです。

 正直なところ、子どもの頃から、切実にお金に困った、という経験がなくて、それは大人になってからもずっとそうだったし、子どもの頃はお金がかかる趣味だったテレビゲームやマイコン(パソコン)なんていうのも、こうして大人になってみれば、毎晩飲み歩くとか女性に貢ぐとか競走馬やクルーザーや自家用ジェットを所有するというような行為に比べれば、「お金がかからないわけではないけれど、いくらお金があっても足りない、というレベルの趣味ではない」のですよね。
 なんのかんの言っても、ネットで時間を過ごすことができるし、ほんの少しだけど、趣味がお金につながってもいます。

 バカバカしい話ではありますが、お金に困ったことがない、というのが、若い頃、ちょっとコンプレックスでもありました。「お父さんがお医者さんだから、勉強ができて当たり前」とか言われるたびに、心のなかで、「僕が自分で勉強しているからだよバーカ」とか思っていましたし。でも、今から考えると、環境の力は大きかった。その一方で、そんなにすごくなりたいわけでもなく、人の役にたって、バカにされない仕事として医者になり、この年齢までなんだかピンとこないまま続けていることに、今でもときどき、ひどく憂鬱になるのです。往生際が悪すぎる。

ああ、こんな話を書くつもりじゃなかったんだ。

冒頭のシロクマさんのツイートと、その元になったphaさんのツイートをみて、僕は考えていたのです。前澤友作さんが何度かやっている、Twitterでみんなに「夢」とかを語らせて、当選者にお金を配るっていうのは、まさにこういう「ネットコロシアムで剣闘士を争わせる快楽」みたいなものなのかもしれないな、って。僕も1億円持っていたら、高いビルの屋上からそれをばらまいて、下界の人々がそれを争って奪い合うのを見てみたい、とか思うことがありますが、本当にそれをやれるほどのお金はないし、もしやるとしたら、お金をばらまいたあとに僕もそこから飛び降りることになるでしょう。

シロクマさんのツイートをみて、思ったんですよ。僕自身はけっこう贅沢な旅行とかもしているし、ギャンブル依存症だし、無駄遣いも多い。
とはいえ、それなりに稼いではいるはずなのに、25年くらい働いて、地方都市の郊外のマンション1部屋と億には程遠いレベルの資産しかない。親からの相続分を考えると、僕の人生での金銭的な収支って、よくてプラマイゼロくらいなんですよ。何やってたんだろうなあ、もっと若い頃からちゃんと将来を見据えて投資をしていたり、もっと節約していたら、子どもの教育費の心配とかしなくても済んだのではないか。そもそも、稼いだお金は、どこへ行ってしまったのか。

医者は稼いでいると思われているけれど、ずっと公立病院や大学にでもいないかぎり、まとまった退職金はもらえないし、出ていくお金も多くなりがちです。そんなに長生きできるとも思えないけれど、老後の資金も不安です。


最近、ひろゆきさんの『叩かれるから今まで黙っておいた「世の中の真実」』(三笠書房)という本を読んだのですが、その中に、こんな話が出てきます。

 国税庁の調査によると、2018年度の日本人の平均年収は441万円だそうです。あくまで平均値で、200万円から300万円くらいの人も大勢います。
 だから、年収1500万円などという恵まれたサラリーマンは、大変な高給取りに入ります。
 ただ、収入が上がれば、所得税、住民税、社会保険料も高くなり、その割合は30%以上になります。つまり、年収1500万円だと、500万円近く徴収され、手元に残るのは1000万円ほどです。
 所得税最高税率は45%で、年収4000万円くらい稼いでいるような経営者や有名弁護士、開業医などは、収入の半分は没収されているようなものです。

 しかし、本当のお金持ちというのは、こういう次元ではないところに存在します。
 たとえば、ある元総理大臣の母親。大資産家であるこの高齢女性は、保有している株の配当金だけで年間3億円もの収入があります。
 さきほどの計算例だと、45%にあたる1億3500万円を所得税として収めることになりそうですが、そうではありません。株の配当金の税率は20%ちょっと。だから、税金は6000万円ほど収めるだけで、あとは全部、自分のものとなります。
 必死に働いて、1500万円稼げるようになったサラリーマンの手元には1000万円しか残らないのにもかかわらず、何もしないおばあさんには2億4000万円が渡るわけです。
 まったくおかしな話なのですが、これでも改善されたのです。
 配当金や売却して得たお金など、株式投資による収益は、1953年から36年間にわたって原則非課税でした。そのため、株をたくさん持っているようなお金持ちはどんどん得をすることになり、批判が出ていました。
 そこで、少しずつ徴収するようになり、2014年からやっと実質20%となったのです。


 YouTubeでよく見かける怪しげな情報商材広告で、「年収1億円以上の人の50%以上は、株などのトレーダー(投資家)です」と言っていました。


hbol.jp


 「国税庁の資料から類推し」と書いてあるので、話半分、くらいに考えておくのが無難だとは思うのですが、僕の実感としても、いくつも病院を経営しているような実業家医師を除けば、一般の開業医でも年収1億は難しく、勤務医なら1000〜2000万円レベルが多いようです。
 医者に限らず、人に使われる立場で年収1億というのは、ほとんど不可能ではないかと。
 
 でも、ひろゆきさんが書いている「元総理のお母さん」のような人は、株を持っているだけで、年収3億円で、税制上もまだ優遇されているのです。
 
 僕は最近、投資というものに片足を突っ込んでみたのですが、投資家たちがIPO(新規公開株式)のために、証券会社の口座に何億円も入れておく、というやり方をみて、これは、どんなに頑張って働いても、自分には届かない世界だな、と、絶望したのです。


www.kaonavi.jp


 IPOって、初値が公募価格より上がる銘柄が80〜90%くらいを占めていて、優良銘柄では数十万、ときには百万円くらいの利益を得られることがあり、「タダでもらえる宝くじ」なんて言う人もいます。そう簡単には当たらないのが「宝くじ」なのだとしても。

 しかしながら、ネットなどで平等抽選の対象になるのはだいたい全体の10%くらいで、残りの90%は、証券会社の「裁量配分」になっているのです。
 この「裁量配分」というのは、要するに、証券会社が誰に購入の権利をあげるか決めていいよ、ということなのですが、儲かる確率が高いので、みんなその権利を欲しがっているわけです。

 となると、証券会社としては、どうするか?

 お得意さま、お金をたくさん預けてくれている人、ふだん、ちょっと無理を聞いてお金を使ってくれるお客さんをつなぎ止めるために、その「裁量配分」を利用しますよね、それは。僕が証券会社の社員でもそうします。宝くじ気分でIPOの抽選にしか参加しない貧乏人に配分しても、メリットはほとんどないもの。それでも、新規顧客の開拓や社会的なイメージを考慮して、10%は平等抽選での配分、というラインにしているのでしょう。

 これがもう、当たらないんですよ本当に。いくら頑張って僕ごときが応募しても。当たらないとはわかっていても、「落選」「選外」が100回とか続くと、気が滅入ります。
 ところが、もともとお金を持っていて、証券会社の「優良顧客」と認定されている人は、証券会社の担当者のほうから、「今度、こんなIPOがあるんですけど、いかがですか?」なんて優遇してもらいやすい。
 そうやって、一度富裕層ワールドに入ってしまえば、そのことによって、「お金持ちが優遇されるシステム」が利用できるようになり、富めるものは、さらに富んでいくのです。

 実際、世の中には、料亭とか夜の町で、雑談のようにして、大きなお金が動く仕事上の取引を決めている人たちが少なからずいるんですよね。

 僕は何度かそういう光景を端っこのほうで目の当たりにして、「えっ、それをここで決めちゃうの?」と唖然としたことがあります。


 これまでのそういう経験と、いま、経済について勉強していることを考え合わせると、トマ・ピケティさんが『21世紀の資本』で示した「r>g」って、こういうことだったのか、とようやく実感できるようになりました。それは「絶望」に近い感覚なのだけれど。


www.bank-daiwa.co.jp

21世紀の資本』の主張は「資本主義の富の不均衡は放置しておいても解決できずに格差は広がる。格差の解消のために、なんらかの干渉を必要とする」というものだ。その根拠となったのが、「r>g」という不等式だ。「r」は資本収益率を示し、「g」は経済成長率を示す。

同書では、18世紀まで遡ってデータを分析した結果、「r」の資本収益率が年に5%程度であるにもかかわらず、「g」は1~2%程度しかなかったと指摘する。そのため、「r>g」という不等式が成り立つ。

この不等式が意味することは、資産 (資本) によって得られる富、つまり資産運用により得られる富は、労働によって得られる富よりも成長が早いということだ。言い換えれば「裕福な人 (資産を持っている人) はより裕福になり、労働でしか富を得られない人は相対的にいつまでも裕福になれない」というわけだ。
富裕層の資産は子どもに相続され、その子がさらに資産運用で富を得続けることができる。もちろん各国で所得再分配政策は行われているものの、ピケティ氏は、多くの富が世襲されていると示唆する。


 どんなに努力をしても、勤勉であっても、「持たざる者」は、「もともと持っている者」に追いつけない世の中になっているのです。
 追いつけないどころか、差は開いていく一方です。
 人間とAIの処理能力の差じゃありませんが、どんなに走るのが早い人間でも、もっとも遅い新幹線を追い抜くことはできません。
 もう、そういうレベルの違いなんだと思います。
 世界でもっとも有名な投資家、ウォーレン・バフェットさんならば「バフェットがこんな株を買った!」という理由で、多くの人が同じ株を買い、株価が上がる。ある意味、自分で株価を操作できる存在になってもいます。


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 僕は『カイジ』というマンガって、苦手なんですよ。だって、あれはあくまでも、帝愛という胴元の管理下で、買った負けたをやっているだけじゃないですか。カイジは、胴元の掌で躍っているにすぎません。誰かがどんなにすごい1000万馬券を当てたとしても、日本中央競馬会JRA)の懐が痛まないのと一緒です。

 だから、みんな起業すべき、とか、医者よりもトレーダーになったほうがいい、とか言うつもりはありません。新規参入者にとっては、「一将功成りて万骨枯る」という世界ですから。

 超富裕層ワールドというのは、排他的で、間口がきわめて狭い。トレーダーとして成り上がろうとしても、そんなに甘いものじゃない。多くの伝説的な「相場師」たちは、結局最後には破産・破滅しています。
 9割の人は株で損をしている、と言われています。僕も、そんなものだろうな、と実感しているのです。「まだ上がる」と思って買うと、僕が買った直後に株価は暴落し、「もうダメだ」と諦めて売ると株価は上がり始める。なんなんだこの嫌がらせは……と言いたくもなります。


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 みんながお金がなくて困っているこの御時世に、お気楽なものだな、と思う人が多いのは百も承知です。それでも、僕は今、これを書いておきたかった。このままだと、格差はさらに開いていくし、「働かなくても、リスクを負わなくても資本がお金を連れてくる人」は憧れの対象、あるいは視界に入らなくて、「一生懸命働いている人」が「贅沢言うな」と叩かれる社会を、このまま後世に引き継いでも良いのだろうか……


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