いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「かみ合わない善意」だからこそ、いたたまれない気持ちになることもある。


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 この話を読んで、僕もなんだか悲しくなりました。
 正直、ものすごく美味しくて感じがよく、流行っている店なら「なんで潰れるんだ!」と思うし、味もサービスもダメなら、「まあしょうがないな」としか感じない。でも、こういう「味はまずまずで、店の人たちも頑張っているのに、その頑張る方向がズレてしまっている」という状況に対しては、「ああ、なんで関わってしまったんだろう……」というようなせつなさというか、居心地の悪さがあるんですよね。
 「自分のせい」じゃないことは理屈ではわかっているし、相手が善意でやっていることも伝わってくるのだけれど、「そこは、そうじゃないのに……」と内心つぶやくしかない、いたたまれなさ。
 

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 僕も似たような「困惑するサービス」に何度も遭遇しているわけですが(というか、僕だけが高頻度じゃないですよね、たぶん……)、こういう状況になるたびに、なんというか、本当に「いたたまれない気持ち」になるのです。 
 こういう人は、なんとか目の前の相手に好感を持ってもらおう、自分の置かれている状況や商売を良い方向にもっていこう、と「頑張っている」のだけれど、接客に不慣れだったり、自分基準でサービスしてしまい、お客の気持ちや状況を読みとることが不得手だったりしているせいか、かえって悪い印象を植え付けてしまう。
 もう少し自分に自信があれば、「サービス業失格、ケッ!」と彼らを嘲笑ってしまえるのかもしれませんが、僕はその人たちに、「他者からみた僕自身」を見出してしまうのです。
 僕も空気が読めないし、同じような苛立ちやいたたまれなさを他者にもたらしている可能性は高そうなんですよね……
 

 少し前に話題になった「共感性羞恥」みたいなものなのだろうか。
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 僕の場合は、飲食店で「常連として扱われる」のも、ものすごく苦手です。
 回転寿司のタッチパネルは素晴らしい発明だと思うし、吉野家すき家松屋みたいにタッチパネルになってほしいくらい。
 以前、けっこう行っていた定食屋で、「これ、サービスね」と一品おまけしてくれたのがきっかけで、かえって行きづらくなったこともありました。
 それがまずかった、というわけじゃなくて、「常連として認識されていて、相手の期待に応える振る舞いをしなければならないのではないか」というプレッシャーを勝手に感じて、足が遠のいてしまう。「おまけ」に対しては、感謝の姿勢とか言葉を返さなきゃ、って過剰に意識してしまう。僕はただ、ごはんが食べたいだけなのに。
 コンビニのおでんもペッパー君がとってくれるんだったら、もっと買うのに!
 あれ、頼みにくくないですか、レジ待ちの人がいるときなんて、食べたいと思っても無理。揚げ鶏とかも、どうしようかな、と悩む。
 自分で取れるようにしてくれたら、買いやすいのに。


 昨夜、うどんを食べに行ったんですよ。お昼に抜歯をしたので、刺激物や固いものは避けたほうがよかろう、という判断もあって。
 無難なところで、「きつねうどん」を頼むつもりで座ったのですが、店員さんがものすごく熱心な人で、「新商品の特製〇〇うどん(書いたら店が同定されそうなのでやめときます)がおすすめです。香りもよくて、おいしいですよ。ぜひぜひ!」


 失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。


 なぜ僕は、この店を選んでしまったのか……こういう熱心な接客をする店だという予備知識はあったのに。
 そして、いつもそれを「めんどくさい」と思っていたのに。
 またこれが、「上司に言われて形式的にやってます」というやつなら、暗黙の了解で捌きやすいのだけれど、ベテランのおばちゃんが「私はこの仕事にやりがいを感じています。接客大好きです!」って、フレンドリーかつ情熱的にしゃべり始めるから、なおさら困る。
 店全体の売り上げを考えれば、その新商品をおすすめすることで興味を持ってオーダーしてくれる人はいるでしょうし、おすすめしないよりしたほうが、売り上げは上がるのかもしれません。
 でも、抜歯後の微妙な疼きのなかで、注文するつもりがまったくない商品のセールストークを長々と聞かされるのはけっこうつらい。話を遮っては悪いな、と思うし、さりとて、とくにおいしそうにはみえないその商品を注文する気にもなれない。それなら、無意味なセールストークを「聞いてあげる」よりも、さっさと打ち切って、「もういいよ、きつねうどん!」って言っちゃったほうが、かえって「親切」なのか? それができないんだけどね。
 「人の話はちゃんと聞きましょう」っていう、善良だけど現実的ではない習慣を身に着けてしまっているので。
 そういうセールストークを聞いたあと、他の商品を注文するのも、ちょっと気まずくはあるんですよね。あんなに説明してもらったのに、って。
 もちろん、そういう「返報性」も狙っているのだろうけど。
 もともと、そういう「おせっかいさ」も、その店のカラーなので、選んだ僕の責任が大きいのだけれど、昨日はそのセールストークがとくに長くて、かえって、この新商品、そんなに売れてないのか?と勘ぐってしまいました。


 あらためて考えてみると、客側にとっても、サービスの選択の幅は広がってはいるんですけどね。タッチパネルでの注文とか、セルフガソリンスタンドとか、1000円での髪のカットとか。
 

 サービスというのは、「儲かる」方向にシフトしがちでもあります。
fujipon.hatenadiary.com

 ポルトガルリスボン空港を経営する「ヴァンシ・エアポート」というフランスの空港オペレーターがあります。最近、関西空港伊丹空港の経営権を日本のオリックスと組んで購入した会社なので、お聞きになったことがあるかもしれません。


 そのヴァンシリスボン空港を買った時、最初にしたことは、ターミナルの導線を変える改装工事でした。改装の内容は単純で、以前はエレベーターを上がるとまっすぐ搭乗ゲートへ向かうようになっていた直線の動線を、わざと迂回させ、店舗エリアを通らなければ搭乗ゲートへ行けないようにしたのです。たったそれだけのことですが、店舗の売上は目に見えて伸びたのです。


 第1章で紹介した新石垣空港の動線——両側にショップが並ぶ狭い通路を通らせて購買意欲をかき立てる——は、これと同じ発想ですね。到着口にカフェを配置し、待つ人にコーヒー1杯でも飲んでもらうというのも、海外空港では当たり前の光景になっています。

 
 昨日のうどん屋のセールストークのように、それをめんどくさく感じる人が少なからずいても、全体として「儲かる」ほうが正しい、ということになりがちなのです。
 やりすぎて評判が悪くなり、客足が落ちない程度に。
 稼げないと、安定して運用していくのが難しいのも事実です。
 運営側にとってのネット広告も、似たような構図なのでしょう。

 
 みんな同じように接してくれて、余計なことはしない。
 僕が求めているのは、ただそれだけ、なのだけれど、過不足のないサービス、っていうのは本当に難しい。


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ももち浜ストア 「うどんMAP」 (ぴあMOOK)

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(128)最高の空港の歩き方 (ポプラ新書)

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