僕がインターネットにはじめて触れたのも20年前くらいだったので、懐かしく思いながら読みました。
転勤先のアパートにISDNとかいう回線が引かれている、という話を聞いて、それならいま流行っているインターネットとかいうやつをやってみるかとモデムを買ってきた日、けっこうひどい雨が降っていて、階段をあがっていたら、踊り場で蛇が雨宿りしていたのが忘れられません。文字通り腰が抜けた。
あらためて思い返してみると、いまから20年前のインターネット黎明期って、インターネットはある種の理想郷だと思っていたのです。
そこには年齢とか性別とか国籍とかルックスとかいうような「属性」にとらわれない、フラットな関係での「本当に正しいことが尊重されるコミュニケーション」が存在して、人々の相互理解は進むのではないか、と夢見ていた。
とか言いつつも、覗いていたのはアングラサイトとかメル友募集とか、そういうのばっかりで、「ネットってつまんねーな」と思っていたんですよね。「写真送ります!」って、写真送れるほど自信があったら、こんなとこでメル友とか探さなくてもいいじゃないか。
「顔もわからない相手と、メールだけでやりとりするロマンス」なんていうのもありました。
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まあ、不便というのは、便利になってから思い返すと、ちょっとロマンチックなこともありますね。
今だったら、「写真をすぐに送れないような相手は地雷」ということで終わってしまう話だから。
ネカマとかもたくさんいた、というよりは、ネットの「自称女性」は、9割ネカマ、とか言われていました。
思えば、テレビゲームだって昔は「男の子の遊び」だし、「クルマとパソコンは男のほうが詳しい」と信じられていた時代もあった。
20年経ってみると、ネットのおかげで、いろんなことが便利になりました。
以前は博多の紀伊国屋まで探しに行かないと買えなかった本がAmazonで買えるようになるどころか、発売日の0時には、Kindleでダウンロードできるものが多くなりましたし、電話嫌いの僕にとっては、いろんな予約がネットでできるのはものすごくありがたい。メールは便利だけれど、LINEは煩わしい(のでほとんど使っていない)、というあたりは、「インターネットネイティブ」との違いなのかもしれません。
いろんな属性の人とフラットに語り合えるのようになったかというと、ネットは「既存の友人・知人とのコミュニケーションを濃密にした」一方で、めんどくさい人々と関わることを嫌う人が増え、小規模の仲間たちが、それぞれ閉じた世界をつくっていくようになりました。
Twitterで、「フォロー外からすみません」という前置きをみるたびに、一般公開と設定しているSNSというのは「フォロー外から自由に声をかけてもいいですよ」という前提ではないのか、と言いたくなるのです。だからって、脅迫したり、恫喝したり、あまりにもなれなれしい態度とかはどうかと思うけど。でも、ネットで何かの意見交換をするっていうのは、基本的に何か結論を出して物事をすすめるというよりは、「自分のほうが上」っていうのを示すためだかの不毛な争いになりがちなんだよね。それはもう「議論」ではない。
川上量生さんが、「インターネットは基本的に安売りのツールなのだ」と仰っていましたが、本当にその通りだな、と思います。
いろんなものの効率が良くなって、それはとても大事なことではあるのだけれど、利用する人間の「本質」は変わらなかった。
そんなことを考えているなかで、こんな記事を読んだのです。
news.denfaminicogamer.jp
最上もがさんがここまでリアルゲーマーだったということに驚くのと同時に(というか、これを読むと、僕は「単なるゲーム好き」くらいのものだな、と)、オンラインゲームというのは、それなりに人間関係のもつれや軋轢はあるとしても、ゲームの世界を楽しむ、という目的のためにつくられた異境であり、20年前に僕が思い描いていた「インターネット的な世界」ではないか、と思ったんですよ。
現実の世界でのコミュニケーションに向いていなくても、ゲームの世界では充実した生を送れる人もいるし、社会でのコミュニケーションに疲れた人が、一時的に避難する場所でもある。
昔、僕が、社会のなかのインターネットに求めた「理想郷」は、いま、インターネットのなかに見えにくい形で、散在しているのではなかろうか。オンラインゲームも、そのひとつにすぎない。
いろんな現実があるように、いろんなインターネットもある。
インターネットは、本当に広くなった。
インターネットは変わってしまった、理想を失ってしまった、と考えがちだけれど、たぶん、ネットのなかにも、まだまだいろんな人の「居場所」はあるんだよね。現実に戻ることだけが選択肢じゃないし、もう、現実とネットを区別することに意味はない。
現実にもインターネット的な場所があり、ネットの中にも、現実よりも現実的な場所があるだけで。
fujipon.hatenadiary.com
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