いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「女性専用車両」に乗ってしまった男


 女性専用車両について、かなり話題(問題?)になっているようです。
 さまざまな意見を読みながら、僕は数年前の苦い経験を思い出しました。
 その日は学会に参加するために上京していて、ネットで会場までの経路を確認し、ちょうど、ホームに滑り込んできた電車に間に合った!
 ……はずだったのですが。


 この車両、なんか空いているな、あれ?なんか周りの人に見られているような気がするぞ。パジャマ着たまま出てきたわけじゃないよな。
(学生時代、部活の大会に、道義の袴の下にパジャマの状態で部屋から出てきて、先輩に爆笑されたことがあったのです。緊張していたのでしょうね)
 あれ、この車両、女の人ばかりだ、そうか、これが、あの「女性専用車両」なのか……しまった……


 周りの人は誰も何も直接言ってはこなかったのですが、あちこちから視線が刺さってきて、針の筵状態というか、とにかく早く次の駅についてくれ!何かトラブルが起こる前に!と僕は祈るような心境でした。ようやく次の駅に着いて、ドアが開いたら、ダッシュで降り、その場から立ち去ったのです。
 きっと、あの変態っぽいオッサン、何しに乗ってきたんだ?とか思われていたのだろうなあ。


 そんなの間違えるわけないだろ!
 そう思う人も多いのだろうし、僕がふだんからボーっとしているのが最大の問題点だとしても、「女性専用車両」というものがあることを知識として知ってはいても、地方には存在しないものなので、そのときは意識から抜け落ちていたのです。
 正直、「もっとすぐにわかるように、車両に表示しておいてくれればいいのに」とも思いました。
 それこそ、車両をラッピングして、デカデカと「女性専用!」とか書いておいてほしいくらいです。
 鉄道会社や駅によって表示のしかたは違うのかもしれませんが、都会の電車生活に慣れていない男性にとって「女性専用車両」というのは、「ちょっとボーっとしていると、誤って乗ってしまう可能性って、けっして少なくないはず。


 僕の場合、ふだんは車での通勤なので、「通勤ラッシュ」とかも、たまに出張などで遭遇すると「これが有名なラッシュか……」と珍しがってしまうくらいなんですよ。
 先日、積雪で車での通勤ができなくなり、2日間ほど電車で通勤した際には、「電車通勤って、こんな感じなんだな」と、40代半ばにして、感慨深いものがありました。
 こんなふうに、毎日立って電車に揺られて家と職場を往復している人が、世の中にはたくさんいるのだよなあ、って。
 そりゃ、疲れるよね、通勤そのものにも時間がかかるし。よくこんな生活に耐えられるな……
 同じ日本という国に住んでいても、置かれている環境や住んでいる場所、仕事によって、こんなに見えるものが違うのです。
 

 率直に言うと、満員電車で、痴漢に怯える女性たちと、痴漢えん罪を危惧する男性たちの気持ち、僕には実感がわきません。
 もちろん、想像することはできるけれど、それについて、何かを断言する自信はない。
 
 アメリカのボストンに行ったときに、現地の人から、「地下鉄のここからここまでは安全だから乗っても大丈夫だけど、この駅から先の路線は日本人が乗ると不快な思い、あるいはそれ以上の危険な目にあう可能性があるから、乗らないほうが無難だよ」と言われたことがありました。
 ああ、アメリカって、怖い国なんだなあ、と、そのとき思ったんですよね。
 でも、世界のなかで、「電車の中が基本的に安全な国」のほうが珍しくて、少し前までは、日本に来た外国人の多くは、「日本人が電車で居眠りしていること」に驚いていたそうです。どれだけ油断しているんだ、荷物を取られるぞ!って。
 そういう観点でいえば、「女性専用車両」って、ふだんその存在を意識していない僕にとっても、「東京の電車って、そんなに痴漢が蔓延しているのか……」という負の連想をもたらす存在ではあります。実際にその通り、なのかもしれないけどさ。
 自分たち(とくに男性)が思い込んでいるほど、いまの日本の電車のなかは、安全でも安心でもない、ということなのでしょう。
 しかし、前述のボストンの話なのですが、「そんなの差別だろ!」って、あえて危ないよと言われた路線に乗るようなことをするか、と言われると、僕はできませんでした。やっぱり「怖い」とか「もし何かあったら」という気持ちが先に立ってしまうのです。
 
 
 都会には、都会のリスクやめんどくささもあるんだよね。同じ「日本人」といっても、それぞれの人が見ている世界というのは、全然ちがう。


fujipon.hatenablog.com

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