今當遠離臨表涕泣不知所言
ペナントレースで圧倒的な強さをみせて、2位阪神とは10ゲーム差、3位DeNAとは14.5ゲーム差で独走優勝した広島カープ。
しかしながら、昨年、黒田博樹が遺してくれた「宿題」である日本シリーズ制覇の夢は、その日本シリーズどころか、その前段階であるCSファイナルでDeNAの圧倒的な力の前に、儚く潰えたのです。
メディアでは、これを機に、「ペナントレースで独走したチームが、CSで負けて日本シリーズに出られないなんて、モヤモヤする」という声が採りあげられ、CSの是非や現在の「1位チームには無条件にアドバンテージ1勝分」というシステムが適正なのかとどうか、と問いかける記事がいくつかありました。
ただ、カープファンのひとりとして、このCSで僕が感じたのは「こりゃ、どうしようもないな」という真っ黒な諦念でした。
また、周囲のカープファンの今回のCSファイナルについての感想をみていると、「CSのせいでカープが日本シリーズに行けなかった」ことに対する疑問は、そんなに無いんですよね。
ペナントレースでは圧倒的な強さをみせたにもかかわらず、なぜ、CSではこんな体たらくになってしまったのか、と嘆く声はあっても。
そのくらい、みじめで、無残で、情けないCSファイナルでした。久々にやけ酒したよ。
贔屓のチームの試合結果なんて、所詮、一ファンの力じゃどうしようもない。
どうしようもないことがわかっているのに、その「どうしようもないこと」が、ひたすらもどかしいとき、人は、どうすればいいのか。
そうか、こういうときに「やけ酒」っていうのは、あるんだな。
1勝分のアドバンテージがあり、今シーズン圧倒的に有利なホームでの試合。
相手チームはファーストステージを勝ち上がるために良いピッチャーからつぎ込んでおり、対するこちらは、初戦からエースを登板させられる。
公式戦の間隔があいて、「試合勘」が鈍っている、というデメリットはあるにせよ、「それでも勝つはず」だと思い込んでいたのです。
なんのかんの言ってもセリーグでいえば、これまで10回のCSのうち、リーグ優勝したチームが7回日本シリーズに進み、2回が2位チーム、3位チームは今回がはじめてです。
途中でちょっと苦しくなることはあっても、結局、リーグ優勝したチームが勝ち上がるケースがほとんどなんですよね。
だから、甘くみてしまっていたところは、あったのかもしれない。
去年のCSファイナルで、骨折していながらホームランを打った梶谷をみて「怖いチームだ」と思ったのを、こんな目にあって、ようやく思い出しました。
まあでも、勝負ってやつはまったくもってよくわからないところがあるのです。
みんなラミレス監督の思い切った采配を高く評価していますし、勝てば官軍というのは勝負の世界の掟なのだけれど、あんなふうにピッチャーを次々に替えたり、先発ピッチャーをいきなりリリーフに回したりするような起用は、かなりリスクの高いギャンブルなんですよ、基本的には。
ピッチャーをたくさん出せば出すほど、出来が悪かったり緊張でガチガチになっちゃったりする人が混じる可能性は高くなりますし、良い先発投手だから、リリーフ起用にも適応できるとは限りません。
シーズン中もヤクルトの小川投手が抑えに転向して、いきなり打たれてたじゃないですか。
調整のしかたとか、配球やスタミナ配分とか、試合に途中から入ることの難しさとか、やっぱり、リリーフにはリリーフの適正や慣れがある。
ところが、このシリーズのDeNAのピッチャーは、このギャンブル起用に対してことごとく結果を出しました。
えっ、DeNAって、こんなに良いピッチャーばっかりだったっけ?
……カープのバッターがみんなプレッシャーでガチガチになっていた上に、シリーズのターニングポイントであった第4試合の6回裏無死満塁で、ピンチ(を招く)ヒッター、岩本・小窪の連続三振。いや、でもまだ田中広輔がいる。野球は2アウトから!ピッチャー交代でCMか……ジリジリするなあもう!
さあ、勝負だ、えっ、何、CM中に広輔アウト?
ひどすぎる…………カープもフジテレビも……
僕は、この試合のことを思い出したんですよね。
fujipon.hatenadiary.com
1994年10月8日、この試合に勝ったほうが優勝のナゴヤ球場での中日対巨人戦。
この試合、巨人は、槙原ー斎藤ー桑田の「三本柱による黄金リレー」で勝ちました。
それに対して、中日は、今中と心中、という気持ちもあったのかもしれませんが、今中ー山田ー佐藤ー野中という、今中以降は「ふだんのシーズンに近い継投」をしています。
巨人の継投は、総決算にふさわしい豪華リレーでした。
それに対して中日は、直前の試合で投げていたとはいえ、山本昌、郭源治といった当時のエース級のピッチャーがベンチ入りしていたにもかかわらず、彼らがマウンドに上がることはありませんでした。
高木監督は、「ここまで追いついてきたのだし、普段通りの野球をやる」ことを意識していたというのと、巨人を追い上げるために主力投手をかなり酷使してきたため、彼らの疲労も目立ち、「この大事な試合とはいえ、負けている状況で投入することにためらいがあった」ようです。
そのことに関して、「士気を上げるという意味でも、負けていても山本昌を投入するべきだったのではないか」と言う選手・関係者も少なからずいました。
この『10・8決戦』に関しては、「普段の野球をする」ことを意識した高木監督に、「特別な試合なのだから、特別な采配をした」長嶋茂雄監督が勝ったのです。
何が正しいのか、というのは結果しだいだし、もっと点差が小さければ、高木監督の継投も変わっていたのでしょうけど……
ラミレス監督の継投は「鬼道」で、緒方監督は「王道」を貫こうとした。
同じようにして、昨年の日本シリーズではジャクソンにこだわり、ことごとく打たれてしまったにもかかわらず。
勝っていれば「選手を信じ、平常心での戦いを貫いた」とか言われていたのだろうけど。
まあでも、第5戦でようやく投入した大瀬良が最初の1アウトをとってガッツポーズしたあと、2アウトから3連打を食らって失点し、その次の回には2ランを被弾したのをみて、「結局、誰を出しても似たようなものだったな」と諦めもついたんですけどね。
あの岩本・小窪の三振コンボは僕が死ぬときに見る走馬灯のような光景に出てくるのではないかと思うくらい酷いものでした。
ただ、残りの代打陣も正直、切り札となりうるような選手もおらず。
鈴木誠也、エルドレッドを欠き、安部も本調子ではないと、かわりに出場している選手が穴を埋めようとしても、控えの層が薄くなってしまう。
ライトがバティスタ、レフト松山のファイヤーフォーメーションをみていると、ほんと、鈴木誠也の穴は大きかった……緒方監督も、去年の黒田最終登板となった試合で、1点リードしていたにもかかわらず、レフト松山をそのままにしておいて追いつかれた采配から、何も学んじゃいねえ。
●緒方監督(広) 「ラミレス監督の采配はずばずばとしていた印象を受けた。選手には『下を向く必要はない。力はあるわけだから』と話した」
ちょっと待て。去年の日本シリーズは経験の差でしょうがないとしても、今年のCSに関しては「力があるはずなのに勝てなかった」ことに関しては、下を向く必要があるんじゃないか。
すみません、CSのシステムの話になかなかなりませんね。
それにしても、今回のDeNAは、あまりにもすべてがうまくいきすぎで、カープは全部裏目裏目。
ラミレス監督が長嶋さんで、緒方監督は高木守道監督だったのではないか。
緒方監督は、采配の是非以前に、大舞台での天運や勝ち運が無いのではないか。
もはや、ポストシーズンだけ野村克也さんに監督をやってもらうとか、お祓いに行くとか、そういう方法しかなさそうな気がしてきます。
僕が生きているうちに、カープの日本シリーズ制覇をもう一度観られるかどうか。
このくらいの年月生きていると、「まだまだこれから」「来年はもっと強くなるはず!」と言っているときは、すでに下り坂に差し掛かっていることが多いことに気づきます。
6位から、5、4、3、2とくれば、来年は1位だ!って思うじゃないですか。
でもね、そのチームのピークの力が「2位」までだった、ということは、珍しいことじゃない。
チャンスって、ありそうでないんですよ、本当に。
なさそうである、とも言えるけど。
正直、今年の負け方だと、「CSが存在するせいで!」と言う気分にもなれないわけです。
アドバンテージ2つもらっていても、負けてたわけだし。
カープファンは、DeNA云々じゃなくて、「なぜ、うちのチーム(カープ)は、こんなことになっているんだ?」と自問自答しているうちに、バカスカ打たれ、完膚なきまでに叩きのめされてしまった。
こうして考えてみれば、第4戦の6回の裏の攻撃で1点でも取れていれば、全然違った結果に鳴った可能性も高くて、カープファンが受けたダメージほど力の差があったわけでもないのかもしれないけれど。
でもさ、いくらなんでも、今回はうまくいきすぎだよ、DeNA。ダメすぎだよ、カープ。
こんなの見せられたら、もう、ペナントレースでどんなに強くても安心できない。
そして、そのことがプレッシャーになって、短期決戦ではまた緊張して、っていう悪循環になるんだよね。第4戦は初回に3点、第5戦は初回に2点先制しているのに、リードしながらずっと、「いつ追いつかれるんだろう……」って、選手も僕もずっとビクビクしていたものなあ。
つらかった、本当につらいCSファイナルだった。
ホラー映画で最初にやられる人になったみたいだった。
もうすでにかなり長いのですが、もう誰も読まなくても書きますよ。
僕はCSというシステムができたときから、ずっとCSには反対でした。
だって、おかしいもの。
1年間もかけて、ペナントレースを戦う意味って、何なのか?
両リーグのペナントレースで1位になったチーム同士が日本シリーズで戦って、「日本一」を決める。
それがスジであり、何の疑問もないはずです。
どうしても短期決戦をやりたければ、Jリーグのカップ戦みたいなヤツを別枠でやればいいだけの話です。
アメリカのポストシーズンと比べる人も多いのですが、僕はあの「ワイルドカード」っていうのも「何それ?」って思っています。
地区間にレベルの差があっても、シーズンで負けたチームが「ワールドシリーズ制覇」するのはおかしい。あんなの、各地区優勝のチームだけだと3チームしかなくて、試合が組みにくいからワイルドカードとかつくってるだけですよ。「お手本」にする必要はない。
純粋に「その年、いちばん強いチームをみんなが納得できる形で決めるシステム」としては、CS、とくに日本のCSは、あまりに理不尽です。
その一方で、CSの存在価値として、「興行的に盛り上がる」とか、「3位までのチームにCS出場という目標ができ、消化試合が減る」という主張があります。
これはこれで「正しい」のですよね。
カープがなかなかAクラスになれない時代には「まずはCS出場!」が合い言葉でした。
やっぱり、贔屓のチームが試合をやっていれば応援したくなるし、日本シリーズに出られる可能性があれば、出てほしい、もうちょっと試合をみたい、とも思う。
ただ、カープがはじめてCSファイナルに進んで巨人と対戦した際には「もしこれで巨人に勝って、ペナントレースで3位のチームが『日本シリーズ』に出たら、嬉しいけどなんか引っかかるな」とも感じていました。結果的には、けっこうあっさり負けちゃったんですけどね。
以前、「下克上」で日本シリーズを制したときのロッテファンとかも、手放しで喜べたのだろうか。巨人とかソフトバンクみたいな「常勝系」のチームであれば、「たまには下克上で日本シリーズに勝つのも面白い」かもしれないけれど、リーグ3位からの日本シリーズ制覇で、「日本一になったことにされてしまう」のだとしたら、物足りないのは、ファンのほうではないだろうか。
僕は古い人間なので、やっぱり、リーグ優勝+日本シリーズ制覇じゃないと、「日本一」って感じがしないんですよ。
リーグ優勝できずにCS経由で日本シリーズに勝ったことで、球団側に「日本一ですよ」って言われても、「そんなことより、ちゃんとリーグ優勝しろよ」と納得できないと思う。
にもかかわらず、リーグ優勝しても、今年のカープのように無惨に負けてしまうと「リーグ優勝が台無しだなこれ」と暗澹たる気持ちになるのです。
どうなんだこれ、こんな結末でも、「優勝パレード」とかやるのか?
CSっていうのは「スポーツとして強いチームを決める」という意味では、明らかにおかしなシステムです。それはみんなわかっているはず。
140試合以上の積み重ねが、数試合の結果でひっくり返ってしまうのだとしたら、公式戦があまりにも軽すぎる。
でも、興行としてのCSは、やっぱり魅力的なわけです。
「負けたら終わりの真剣勝負」は面白いし、たしかにシーズンの「消化試合」も減る。
このシステムはおかしい、と思っていても、贔屓のチームは応援せざるをえないし、野球ファンは試合を中継していれば観る。
そもそも、CSがこんなに魅力的なコンテンツになるのは「理不尽なシステムだから」なんですよね。
ペナントレースを制したチームとそのファンは、「1年間積み上げたものが、こんな数試合でひっくり返るのはおかしい」と、みんな思っている。だからこそ、こんな理不尽な仕打ちに屈するわけにはいかない、勝たなければならない、と悲愴な決意を持って、試合に臨む。
2位、3位のチームは、負けてもともとなのだから、思い切って勝負にいけるし、ファンも「もしかしたら」と比較的気楽に応援できる。
この両者のせめぎ合いが、盛り上がらないはずがない。
冒頭の2つめの記事には「独走したチームには、アドバンテージを2勝分にしたらどうか」という議論がなされたことが書かれています。
これを読むと、運営側も、リーグ優勝したチーム、独走したチームを勝たせたい、そのチームが本来は勝って日本シリーズに出るべきである、と考えているのだな、と思うのです。
でも、リーグ優勝チームが、よほどのことがないと負けないくらいのアドバンテージをもらえるのであれば、わざわざ、CSをやらなくても良いんじゃない?
基本的には、運営側も選手もファンも「リーグ優勝したチームが日本シリーズに進むのがスジ」だと思っているはずです。
CSというのは、そういう「リーグ優勝したチームが得られて当然なはずの権利に理不尽な横やりが入り、ときには、その当然の権利まで失ってしまう」という「リーグ優勝チームの受難」を愉しむものなんですよ。
だから、ベストなCSというのは、「リーグ優勝チームが、下克上を狙うチームに苦しめられつつも、最後にはCSを制し、日本シリーズに駒を進める」というパターンです。
今年のソフトバンクのCSファイナルのような展開が、まさに「望ましいCS」と言えるでしょう。
でも、ときどきは「下克上」が起こらないと、観ている側もハラハラしないですよね。
そういう意味では、現状のシステムというのは、けっこうバランスが良いのかもしれませんね。
純粋なスポーツとしては、日本のプロ野球のCSというシステムそのものが邪道だし、それはみんな、わかっている。
でも、興行の盛り上がりとか、エンターテインメントとしての効率や収益を考えると、CSというのは一度はじめるとやめられない麻薬のようなものです。
リーグ優勝したチームは、せっかく長年苦労して築き上げた財産が、いきなり泥棒に盗まれるかもしれない。その泥棒は、かなりの高確率で撃退でき、財産も守られて一安心なのですが、それは「元々あった財産が盗まれずに済んだ」だけのことで、何のメリットもないのです。
CSは、せっかくリーグ優勝したチームに、わざわざ不安や危険をもたらして、お金を稼いでいる。
しかも、そんなに低くない確率で、築き上げた財産は台無しになってしまう。
そんな理不尽なこと、許されない!と思う。
だからこそ、「そんな理不尽な目に遭いたくないから」みんな、必死でプレーするし、ファンも応援するのです。
結局は、金儲けのためのシステムなんだよね、CSって。
「いちばん強いチーム」を決めるシステムとしては間違っているけれど、「リーグ優勝したチームのファンに不安を、優勝できなかったチームに期待を与える」ことでお金を稼ぐ手段としては、圧倒的に正しい。
僕はずっと「CSなんて要らない」と言い続けているのですが(それは、カープの結果に関わらず、です)、「お金が儲かる」=「ファンに支持されている」と考えている人たちに、「それは今年いちばんのチームの決め方としてはおかしい」と言っても、伝わるわけがない。
ファンがCSなんておかしなシステムに興味を失くし、観客席に閑古鳥が鳴けば、すぐに無くなるはずなんですけどね。
でも、贔屓チームが試合をしていれば、応援せずにはいられないのが「ファン」なんだよなあ……
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