いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

広島・野村祐輔投手とマスメディア・ネットでの「FAのから騒ぎ」


 カープファンにとっては、またつらい季節が巡ってきました。
 フリーエージェント、それは、カープファンにとって、悲しい言葉。

 今年は、会澤翼、野村祐輔、そしてメジャーへのポスティング希望とされている菊池涼介、巨人からやってきた長野久義の各選手(敬称略)のFAでの動向が注目されていました(松山選手も去年FA権を持ったまま単年契約で残留したのですが、今年もチームに残ることを宣言済み)。

 長野さんは去年来たばかりだし、動向が読めないけれど、菊地選手は国内FAは無くてもあれだけメジャーへの想いを口にしていたので、今年のポスティングもありうるのではないか。カープにずっといてほしいけれど、長年のすごい守備で身体はかなりダメージを受けているし、メジャーに挑戦するなら、1年でも早く、というのも理解できるのです。ファン的には、ずっといてほしいけれど、某金満ソフトバンクにスイープされた球団に行くくらいなら、メジャーに挑戦してくれ!とも思いますし。

 会澤、野村両選手は、リーグ3連覇を支えてくれた主力選手なのですが、「巨人が調査」「楽天が調査」という記事がスポーツ紙に出るたびに、「もうダメだ……」という気分にはなっていたのです。
 昔ほどではないとしても、カープの選手は年俸が抑えられがちだし(ずっとBクラスのときは、活躍しても「チームの成績が悪いから」、リーグ優勝しても「日本一になっていないから」じゃあ、選手もちょっとかわいそうだとは思う。赤字経営が許されない球団なので、巨人やソフトバンクみたいに「自分のところで戦力にならなくても、ライバルの戦力を削れればまあいいか」みたいな「カネをばらまいての『補強』」もできないし。


www.sponichi.co.jp
 

 会澤選手が、日本シリーズ前に「カープへの愛着」を理由に残留を表明してくれたときには、速報をみて、涙してしまいました。
 正直、巨人やFAで謎の吸引力を持つ楽天(三木谷マネー、とか言われてますが、どうなんだろうか)が出てきて、札束を積まれたらおしまいだろうな、と覚悟はしていたんですよ。
 いや、カープも3年6億という推定条件は、かなり頑張ったと思うけれど。

 そして、野村祐輔投手。
 地元の広陵高校出身ということや、ここ2年の成績が振るわず、FA市場でそれほど評価されないのではないか、人的補償が生じるBクラスだし……と、希望も含めて「残留」を予想していたカープファンが多かったのですが、日本シリーズが早々に終わったあと、事態は風雲急を告げていたのです。


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 この「3度目の交渉が物別れ」になったのが10月25日のことでした。
 ネットの野球関連の掲示板には「去年のあの人のときもこんな感じだった」「残るなら、最後の交渉のあとに表明するはず……あとはわかるな?」「今年のドラフトで森下が来るからもういいや。野村は最近の成績をみても、もうオワコン!」「移籍先の球団からの人的補償が楽しみ」などの、FAほぼ決まり、というコメントや、野村投手へのネガティブなコメントが多数書き込まれていたのです。
 正直、僕も「これはもうFA(カープファンにとっては、「FA」=移籍なのです)だな。野村祐輔の、あの毎試合5~6回で降板の『公務員投球』や、生真面目な『塩ヒーローインタビュー』も観られなくなるのか……」と「覚悟」を決めていました。

 
 その翌日の昼、ツイッターで「広島・野村」の文字を見かけて、僕は嘆息したのです。
 ああ、もうFA宣言か……


 「朗報です!カープ野村祐輔投手が残留を表明しました!」


 朗報……「ろうほう」って、良い知らせのことだよね? 「残留」って、「残る」ってことだよね?
 マジか、昨日のスポーツ紙はみんな「FA宣言するムード」一色だったのに! 
 
 僕の心に浮かんだのは、これは「釣り」あるいは「フェイクニュース」ではないか、ということでした。
 でも、本当に野村投手は、会見で残留を表明してくれました。

 よかった、本当によかった……
 毎試合、5回か6回でも、ちゃんと試合を作れるピッチャー、それも8年も続けられるピッチャーって本当に希少なんですよ。
 1億5千万円出すから、確実に野村投手と同じ働きのできるピッチャーを連れてこい、と言われても、なかなか難しいと思う。
 
 結局のところ、本人も迷っていたというのと、もともと、表情や受け答えからは、何を考えているかわかりにくキャラクターだったので、周りが「これはFAするのでは」と、どんどん先走ってしまったみたいです。
 そして、僕を含めて、カープファンの多くは「迷っている人は、大概FAで出ていく」というこれまでの悲しい記憶から、失望しないために、「出ていくものだと覚悟しておく」癖がついてしまっていた。

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 それにしても、昨日の今日にもかかわらず、「残留」が表明された後の各種掲示板での、カープファンのはしゃぎっぷりといったら!
 昨日は「もう要らない」「実力的にも限界」「やっぱりカネか」だったのが、一夜明けて、残留を表明したとたんに「ありがとう!信じてたよ!」「カープ野村祐輔は必要!」「よかった、本当によかった!」と称賛の嵐。
 気持ちはわかる、わかるよ。僕も実際に書き込まなかっただけで、心の動きは同じだったから。
 それにしても、これほどまでに見事な手のひら返しを、久しぶりに見た。
 10月25日の各種掲示板では、「こりゃ、野村投手が迷っていたら、この書き込み群をみて『そんならFAしてやる!」って決意するのでは……」という反応だったのに。


 僕にとっては、これだけ情報化社会になって、いろんなことが予想できるはずの時代でも、結局のところ、「ひとりの人間の内心」というのはわからないし、誤った推測をされてしまうこともあるのだな、と、あらためて感じた出来事でもあったのです。
 そして、ファンの心なんていうのは、アテにならないものだよなあ、とも思いました。
 ファンがいないと成り立たないのがプロスポーツの世界ではありますが、家族とかお金が決断のポイントになるのは、それが「より確実性が高いもの」だからなのでしょうね。
 本物のファンは、選手あてに手紙を書いたり、どこに行っても応援する、という姿勢だったりするのかもしれませんし、決断に寄与するのは、フロントやチームメイトの影響が大きいのだろうけれど。

 今回は、カープファンにとっては、「嬉しいサプライズ」になったわけですが、こういう「情報や思い込みに踊らされて、暴言を吐いたり、誰かを憎んでしまう」ことには、これからも気をつけなくては、と痛感した出来事でもあったのです。
 もちろんこれは、プロ野球のFAだけの話じゃなくて。

 一度口に出してしまった言葉というのは、取り消そうとしても、相手の記憶から消えるものではありませんし。


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2019カープ激闘グラフ

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野村祐輔メッセージBOOK -未来を描く-

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