いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

クリス・ジョンソン投手のカープ退団報道に、いま、思っていること


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 クリス・ジョンソン退団か……いや、こう書きながらも、まだ「関係者の話では」であり、正式に発表されてはいないのだから、残留の可能性はあるのではないか、と思いたい気持ちではいるのだ。カープ在籍6年間で通算57勝(37敗)、今年の0勝7敗を含めてこの成績なのだから、まさにに最強の助っ人左腕であり、その6年間でチームは3回のリーグ優勝を成し遂げた。黒田さんや新井さんの「影響」はあったにせよ、あの3連覇の戦力的な中心は、ジョンソンと鈴木誠也と名前も言いたくないあの人だったことは事実だろう。ああ、また関羽張飛に続いて、黄忠を失ったときの劉備の独白を思い出す。
「五虎の大将軍、すでに逝く者三虎……」
 クリス・ジョンソンを獲得したとき、長年ローテーションで活躍してくれたバリントンが退団となり、「このジョンソンとかいうピッチャーで、バリントンの穴を埋められるのか?無理だろ……」と嘆いていた記憶がある。
 ところが、来日した年からジョンソンは素晴らしいピッチングを披露してくれた。初先発の試合では、1安打完封。今年引退した石原さんとは強い信頼関係を築いて、僕の人生のなかで、いちばん強くて面白いカープの時代を支えた黄金バッテリーになった。ジョンソンは、マウンドで審判の判定に苛立つ素振りをみせることはあったけれど、マウンド以外では真面目で優しい人だった。気難しそうなイメージがあるのだけれど、プライベートでのファンへの「神対応」のエピソードもたくさんあった。日本を、広島を愛してくれていて、メジャー復帰のチャンスがあっても断っていたようだ。


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 正直、今年のジョンソンのピッチングには、驚いたというか、「あれ、なんでこんなに調子悪いんだろう、でも、これだけのピッチャーだし、そのうち立ち直ってくるよね、と思っているうちに、1年が終わってしまい、0勝7敗、防御率6.10という数字だけが残った、という感じだ。石原さんと、なかなか組ませなかったのは、今年で引退が既定路線だった石原から、来年以降のことを考えて他のキャッチャーに慣れてもらうためだと思っていたのだが(それでも、ジョンソンが結果を出してくれるのなら、そのためだけに石原がずっと現役でも良いと僕は考えていたけれど)、あまりにも投げれば打たれる、の繰り返しで、石原とようやく組むことができても結果を出せず、石原は試合中の怪我で離脱してしまった。
 いやしかし、去年は最優秀防御率まであと一歩(というか、CSがかかっていたとはいえ、余計に投げさせてしまった感はある。タイトルを取っていたら、今年の結果も違っていたかもしれない)だったピッチャーが、新型コロナの影響で、いろいろ普段とは違うシーズンだったとはいえ、36歳という年齢でも、大きなケガもないのに、こんなに勝てなく、抑えられなくなってしまうものなのか。
 今年のカープの成績は酷いものだったが、ジョンソンが想定通り、せめて勝ち負けが同じ数くらいの結果を残していれば、Aクラス争いはできていたはずだ。

 この退団のニュースを聞いて、「やっぱり……」と、「大幅減俸+出来高重視」の契約で、あと1年様子をみることができなかったのだろうか、という気持ちが入り混じっている。
 今年の内容はあまりに悪すぎるし、ファームでも打たれていた。36歳という年齢もあって、復活は難しい、という判断なのだろう。森下と九里以外は投げてみないとわからない、というか、抑えてくれれば超ラッキーレベルの消化試合でやる気のない相手をちょっと抑えただけの中村祐太や遠藤や床田にそんなに期待できるのか、と言いたくもなるのだが、独立採算制のカープにとっては、新型コロナによる無観客、減観客試合は経営的に大きなダメージで、高齢・高年俸のジョンソンとの契約を切る決断には、経済的な事情もあったのだろう。4億円もらっていた選手を、3000万円に減俸はできまい。もしかしたら、石原の引退と今季の成績で、ジョンソン自身も環境を変えたい、という気持ちがあったのだろうか。
 僕がクリス・ジョンソンの名前と実績と過去の素晴らしい記憶に引きずられているだけで、客観的にみれば、今回の退団は致し方ない、というか、「不良債権化したベテランは、大功労者でも切るべきときには切る」というのが「正しい経営」なのかもしれない。
 カープの場合、サファテという大失敗例はあるものの(アンディ・シーツもそうか)、これまで、「なんでこの外国人選手を手放してしまうんだ?」という事例のほとんどは、その選手の移籍先での成績を追うと「結果的に、球団の判断は正しかったのだな」と納得せざるをえないものだった。
 とはいえ、ジョンソンは、あの3連覇の立役者であり、カープファンにとっては特別な存在だったと思う。
 勝った試合後のインタビューの途中で、報道陣に「ちょっと待って」とその場を抜けて、ロッカールームでの石原の記録達成の乾杯の輪に加わりに行った話や、あの強すぎてうんざりするソフトバンク相手に、ひとり気を吐いてみせた日本シリーズのピッチング、家族との幸せそうな写真、石原の引退試合での抱擁……「それ、密すぎるだろ……」ともらい泣きせずにはいられなかった。

 寂しい、とにかく寂しい。これだけの功労者なのだから、もう一度チャンスがあってもよかったのではないか。
 退団するにしても、セレモニーなり、ファンへの挨拶があっても良かったのではないか(まだ去就がはっきりしないので、どうしようもなかったのかもしれないが)。
 
 来季になったら、新しい選手を応援し、ジョンソンのことは「良い思い出」になってしまうかもしれない。そう、バリントンのときのように。
 もちろん、ジョンソンが黒とか縦縞のユニフォームを着て、カープ打線に立ちはだかることがなければ、だけれど。

 多くの功績を残したベテランの去就や処遇というのは、本当に難しいものだと思う。
 本人にとっても、その組織にとっても。
 僕だって、去年の鳥谷選手や、今年退団したソフトバンクの内川選手、カープの小窪選手に関しては、「現役を続けられるとしても、せいぜい数年というところだし、レギュラーでバリバリにやるのは難しいだろうから、指導者なり解説者なり、その他の道なり、『第二の人生』に身体が動くうちにシフトしたほうが、結果的にプラスなのでは」と思っているのだ。指導者や解説者だって、席が有り余っているわけではないのだし。
 でも、自分のこととなると、「まだできるはず」と、なかなか踏ん切りはつかないものだというのも、僕の年齢になるとわかってきた。
「もう少しできるはず」と、ずっと思っているうちに、時間が経ち、「老害」になってしまう。
 本人だって、これから大活躍してMVPを獲れる、なんて思っているわけじゃない、ささやかにでも、あと少しの間でも、役立てばいい、くらいの気持ちなのだ。
 でも、昔の栄光をみてきた人たちは「こんな落ちぶれた姿は見たくない」なんて思ってしまう。
 まあ、新井さんみたいに、戦力外から本当にMVPを獲ってしまう人だっているのだが。

 正直、新型コロナで新外国人獲得も難しいだろうし、まだ交渉次第で残留の目もあるのではないか、と、ジョンソンを諦めきれないのだ。
 カープという球団にとっても、断腸の思いなのだろうな、という気がするし、そう思いたい。
 そもそも、今までチームに貢献しつづけてくれた人を切る仕事が、楽しいわけがない。
 誰だって、ずっと同じチームで、プロ野球選手であり続けることはできないし、チームの予算も選手枠も限られている。

 クリス・ジョンソン選手には本当に感謝している。僕が生きているあいだに、諦めかけていた、強くて楽しいカープを見せてくれてありがとう。
 そして、これからもジョンソン選手の人生が幸せなものであることを心から願っています。
 それが、どこかでまたカープを交わってくれれば、もっと嬉しい(来年、何もなかったようにカープのユニフォームを着ていてくれないものか)。

 こういうときに、「『ウソ800』が家の押し入れに入ってないかな」と、つい考えてしまう、僕の「ドラえもん脳」が悲しい。


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