いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

2017年9月18日。広島カープ、セリーグ連覇!

f:id:fujipon:20170919091733j:plain

www.hochi.co.jp


 今年の胴上げは、リアルタイムで観ていなかったのです。
 去年、2016年9月10日は、テレビの前で、黒田さんと新井さんの抱擁をみて、僕も一緒に涙していたというのに。
 今年は、去年リーグ優勝でも日本シリーズでもできなかった、地元マツダスタジアムでの緒方監督の胴上げを!というテーマがあり、9月に入って怒濤の連勝でマジックを減らしていったのですが、9月14日はDeNAに勝ってマジック1とし、同点で延長に入った阪神と巨人の試合結果を球場で待つ、という珍しい状況になるも、引き分けで胴上げには届かず。
 9月16日の土曜日は、台風接近で試合そのものが開催されるかどうか、中止になるのではないか、という状況のなか、幸運なことに試合中、天気はもってくれたんですよ。
 先取点も取ったし、新井さんのホームランも出た。対戦相手は、今年絶不調で最下位のヤクルト、そして、カープの庭、マツダスタジアム。お膳立ては揃っていたのです。
 ただ、試合結果だけが、ついてこなかった。
 今村の乱調で勝ち越され、最終回のチャンスも丸、エルドレッドが倒れて競り負け、翌日は奇跡を期待するよりも危険を回避すべき天候で、早々に試合は中止になりました。
 僕はマツダスタジアムの試合のチケットを持っていたわけでもないのに、ちょっと拗ねていて。
 なんでこんなにお膳立てができた状態で、本拠地で優勝を決められないのか。
 九州人としては、ソフトバンクの選手のビールかけやホークス優勝特番ばかりみせられる同日優勝は勘弁してほしい、とは思っていたにもかかわらず、16日に、苦手なはずの西武ドームで、ビジターながら、ライオンズを完膚なきまでに粉砕して優勝してみせたホークスの圧倒的な強さに、圧倒されてしまいました。
 「去年優勝できなかった屈辱」を語り、涙ぐむ工藤監督をみて、「常勝チームというのも、けっこうプレッシャーがかかるものなのだな」と感心するのと同時に、「ホークスは『勝つことが当然のチーム』だと位置づけられているのだな」とも思ったんですよね。
 肝心の試合でリリーフの要が勝ち切れないカープの不甲斐なさというのは、このゲームにはじまったことではなくて、今年は阪神戦での大逆転負けとか、DeNA戦での3試合連続サヨナラ負けとか、これだけ後続を千切ってゴールしたにもかかわらず、けっこう負の印象の試合も多かったんですよね。
 勝っている試合も、負けている試合も、最後まで目が離せないチームでした。
 正直、ここまできて、一岡、今村、中崎といった勝利の方程式のリリーフ陣がつかまる試合が目立ち、ジャクソンも去年のような神通力はない、という状態なので、CSファイナル、そこを突破できれば日本シリーズと、リリーフ陣の不安は尽きません。
 去年、シーズンであれほどよかったジャクソンが、日本シリーズではバカスカ打たれていたのが忘れられない。
 

 去年、25年ぶりのリーグ優勝を成し遂げたカープは、黒田博樹投手が引退し、新しいシーズンを迎えました。
 シーズン前の下馬評はけっして高いとはいえず、2016年の優勝は、一過性の祭りみたいなものだ、と評論家たちは考えていたようです。あれだけゲーム差をつけて優勝したのに……と言いたいところですが、黒田というあまりにも大きな存在感の精神的支柱がいなくなり、去年の野村祐輔の成績はさすがに出来過ぎ、ジョンソンはそれなりに投げてくれるとしても、次に名前が挙がるのが、2年目の岡田やなんとか復活してほしい大瀬良や福井、負け試合には強い九里という投手陣では、あまり強気にはなれなかったんですよね。
 打線も、鈴木誠也が去年ほど打ってくれるかどうかは未知数だったし、タナキクマルも去年は「良い波のほう」に偏っていたのではないか。新井さんやエルドレッドも、年齢や怪我のこともあり、去年ほどの成績は難しいかも……

 
 そういう意味では、カープファンの僕にとっても、今年の優勝は、「どうだ、みたか!」と誇らしいのと同時に、「まさか薮田が14勝もするなんて……」と驚くべきものではあったのです。
 蓋を開けてみれば、ジョンソン、野村の二枚看板が病気や怪我、不調などで、優勝が決まった時点でも、ともに10勝に届かない成績なのに、薮田14勝をはじめとして、岡田12勝、大瀬良9勝、九里9勝と、大化けした薮田と、ファンの「捕らぬ狸の皮算用枠」だった3人が「皮算用以上」に勝ち星をあげてくれたのです。
 薮田って、去年は先発しても初回からフォアボール連発で、なんとか5回4失点くらいで終わってくれれば御の字、というピッチャーだったんですよ。
 それが、今年は菅野や小川に投げ勝ち、2度の完封をして、「リリーフの人たちを休ませられてよかった」なんて超優等生発言をするようになるとは!
 僕は結婚を積極的におススメすることは無いのですが、薮田投手をみていると、結婚することがプラスになる人というのは、確実にいるのではないか、と信じたくなります。
 というかドラフトで薮田投手が2位指名されたときには、カープファンはネット掲示板で「誰だそれは」「縁故採用か?」「大学時代もほとんど投げてない選手を2位とか正気か?」「ロマン枠ならもっと下位でやれ」と非難囂々でした。と、他人事のように書いていますが、もちろん僕も「何考えてるんだ、末代まで語り継がれるクソドラフト!」とか内心思っておりました。
 この2010年代になっても、ドラフトに「隠し玉」って、いるんですね……
 菊池や鈴木誠也や薮田が2位指名でこんなに活躍しているのだから、カープスカウトすごい!
 もちろん、当たり外れはあるんですが。


 ドラフトの話をすると、カープの強さとして、「育成」を挙げる人が多いのですが、あらためて考えてみると、いまのカープで活躍している選手、とくに若手から中堅には、ドラフト上位で指名された選手が多いのです。


victorysportsnews.com


 これは今シーズン開幕前の記事で、カープでいえば、薮田や岡田の大成功が含まれていませんが、その時点でも、カープの強みは「育成力」だけではなく、「スカウティング力」であることがわかります。
 例外はあるものの、上位指名した選手の成功率が高い。
 近年、なぜかドラフトの目玉選手はパリーグにいってしまう確率が高いのですが、カープ以外のセリーグの球団のドラフトは、あまりうまくいっているとは言いがたいのです。
 育成能力が大事といっても、また、FA制度や外国人獲得の上手下手はあっても、ドラフトでどの選手を指名するかは、かなり大きいのだとあらためて感じます。


 さて、話を戻して、今日の甲子園での阪神戦。
 何十年も前の話ですが、ヤクルトが甲子園での阪神戦で優勝を決めた試合で、ヤクルトファンがビジター側の応援席にいたにもかかわらず、周囲の阪神ファンから物を投げられたり、ヤジを浴びせられたりしてつらい目にあった、というのを最近読んで、「よりによって、甲子園かよ……」って思っていたんですよ。
 とはいえ、カープがはじめてCSに出場した年、あの甲子園のかなり広い範囲が赤く染まっているのをみて、「カープファン、すごいな……」と感動したこともありました。
 阪神さんには金本選手、新井選手、シーツ選手など、たくさんの選手を出荷してきましたし(新井さんは数奇な運命をたどって、再びカープのユニフォームを着ることになり、金本さんが阪神の監督になるのですから、人生というのは不思議なものですね)、あんまり手荒なことはしないでほしい……って、今日の球場の雰囲気は、試合が終わり、カープの優勝が決まったあとは、むしろ、すごく温かく感じました。もちろん、スポーツニュースで切り取ったものを観ただけなので、現地は殺伐としていたのかもしれないけれど。
 去年のような「劇的さ」は無いのだけれど、足を怪我している鈴木誠也を大きな身体のエルドレッドが抱え上げたり、野間と西川が騎馬戦のように両足を持ち上げたりしているのをみて、あるいは、今年は癌による闘病で、二軍の試合にも出られなかったにもかかわらず、胴上げのために甲子園にまでやってきた赤松が嬉しそうにしている様子に、ああ、本当に良いチームだなあ、と感慨深いものがありました。
 誰かが突出した成績をあげた、というよりは、チャンスを活かし、ピンチをしのぐことによって、競り勝ってきたチームですし、誰かが不調だったり、怪我をしたりすれば、代わりの選手が台頭してきて、しっかり穴を埋めていたんですよね。
 チャンスにやたらと強かった「覇気!」安部選手や、「アンパンマン」松山選手(今年こそ日本一になって、鹿児島の実家の牧場で黒田さんも読んでパーティやってほしい!)、打てるだけじゃなくて、リードもかなり進歩してきた会澤捕手、「天才」西川選手(もうちょっと守備もがんばろう!)、終盤で松山選手が塁に出ると、どこにいるか探される男、野間選手! ずっと遅れてきつづけている大器、岩本選手! ほんと、控え選手も多士済々です。
 ……ここで名前を忘れてしまっていた堂林、ほんとうにみんなものすごく期待しているので、頼む!


 その一方で、小窪選手が後半はずっと二軍だったり、梵、永川という「カープの暗黒時代を支えた選手たち」の姿が、この黄金時代にみられないことに、長年のファンとしては、一抹以上の寂しさも感じています。
 

www.sanspo.com


 さすがに、去年みたいに感動で泣いたりはしないよな、なんて思っていたのですが、この緒方監督の優勝インタビューを観て、やっぱり泣いてしまいました。


 緒方監督は1968年12月生まれで、現在48歳なんですね。
 僕より少し年上くらいです。
 その緒方監督をみていて思うのは、人間って、このくらいの年齢からでも、自分を変えることができるんだ、ということでした。
 一昨年、野村謙二郎監督からバトンを受けたときの緒方監督は、独善的で、球場では監督室にずっといて、VTRをみて「研究」ばかりしている、と批判されていました。会見でも選手を批判したり、失敗を嘆いたり、不機嫌をふりかざしている様子が伝わってきました。
 前田健太黒田博樹というダブルエースを擁しながらのBクラスに、「緒方辞めろ!」の声もカープファンからは出ていました。この人は、監督には向いてない、って。


 ところが、去年の緒方監督は、まるで別人のようでした。
 
news.livedoor.com


 「監督」として試合を分析したり、選手を評価する、という野村謙二郎路線の「高いところ」から、選手に近い目線のところに降りてきて、ともに闘う姿勢をみせるようになったのです。
 試合後のコメントも、頑張ってきた選手のミスをかばったり、あまり目立たなくても良い仕事をした選手の名前をあげてねぎらったり、ときには、松山選手や新井選手をネタにして笑えるエピソードを披露したり。
 緒方監督が変わったから、チームがこんなに強くなったのか、チームが強くなったから、緒方監督に余裕ある振る舞いができるようになったのか。
 どちらが先なのかはよくわからないのですが、ひとつだけ言えることは、人間、40代後半になっても、こんなに、良い方向に変われる、ということです。
 もう年だから、これまでずっとこれでやってきたから、と「変われない」ことを嘆く人は多いけれど、それは「変わろうとしない」だけなのかもしれません。
 とりあえず、変わることができた人がいたのです。
 1年目のオフに、緒方監督はオーナーに進退伺いを出したそうですが、オーナーは緒方監督を慰留しています。後任がいなかったから、なのかもしれませんが、もしそこで緒方政権が終わっていたら、緒方監督は「監督失格」の烙印をおされていたことでしょう。
 気が短い、あるいは見切りが早いオーナーだったら、1年目の成績は、クビになっていてもおかしくなかった。
 1年でクビになっていたら、「カープファンの記憶に残る愚将」だったはず。
 こうして連覇を達成した緒方監督は、もう、球史に、少なくともカープファンの心のなかにはずっと残る「名将」と言って良いと思います。
 あの「ダメ監督」だった1年目と、同じ人のはずなのに。
 成長を期待して、待ってくれる人のところで働いていた、という「縁と運」もあったのです。


「頼もしいやつらだ本当に!」


 現役時代に「修行僧」と呼ばれたストイックな男は、監督として「人を頼む」ことを学んで変わった。
 ファンへの感謝の言葉も、今年はいっそう強くなったように感じました。
 年を重ねても、人は変わることができるし、人を頼れるのは「強さ」なんだ。
 今年のカープのリーグ優勝は、去年ほどドラマチックじゃなかったからこそ、意義深い優勝だったと思うのです。


 試合後の共同会見の最後に、記者が「まだリーグ優勝が決まった直後で、残り試合もあるので気が早いかもしれませんが、CSや日本シーズンに向けての意気込み、みたいなものを伺えますか?」と尋ねたのです。


 緒方監督は、こう答えていました。
「気が早くないですよ、次の目標はもう始まっているわけだし。昨年はいちばん最後に悔しい思いをして終わったシーズンでしたし。厳しい戦いに間違いなくなると思うんですけど、ぜひ、日本一を勝ち取りたいと思っています」


 去年の日本ハムに勝てなかったのだし、今年は黒田も鈴木誠也もいなくて、あのソフトバンク相手じゃ、厳しいよなあ……なんて思っていたのですが(そもそもCSも勝ち上がっていないのに!)、この監督の言葉を聞き、表情をみて、すでに「負け予防線モード」に入っている自分が恥ずかしくなりました。
 行くぞ今年も、日本シリーズ! 札幌ほど遠くないし。
 去年札幌ドームで食らったレアードのホームランはしばらくトラウマになったけど……
 

 とりあえず、今日は僕もひとり祝勝会を開催して寝ます。


 25年に1回が、26年に2回になったぞ!


www.daily.co.jp


広島アスリートマガジン2017年10月号

広島アスリートマガジン2017年10月号

アクセスカウンター