いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「まっちんぐマチコン先生」への手紙


anond.hatelabo.jp


 これを読んで、僕はいろんなことを思い出してしまいました。
 そして、これを書いた人に、「よくここまで頑張ったよ、あなたはたぶん、ひとつ壁を越えたはず」と伝えたくなりました。


 もう、けっこう昔の話なんですが、みっともない振られ方をしたことがあります。
 まだ学生の頃のこと。
 抽象的な書き方ですみませんが、好きだった人が差し出してくれた手を、自分に自信がなくて、相手を信じきれなくて握り返せなかった。
 それから数カ月、ずっとウジウジと自分のなかで悩んでいて、崖から飛び降りるつもりで握り返そうとしたら、もう、その手はそこにはなかった。
 まあ、そういう話です。
 

 「お断り」されてからしばらく、何も手につきませんでした。
 まったく眠れなくなってしまって、こういうときはやけ酒だ!と家にあったウイスキーをボトル半分くらい飲んでも、全然酔わなくて、ゲームをしていても、全然面白くない。というか「面白い」という感覚がどこかに行ってしまったみたいで。
 居たたまれなくて、あてどもなく何時間も外を歩き回ったりもしました。
 ああ、自分は本当にダメな人間だ、恋愛なんていうものは、もとから向いていなかったんだ、そもそも、他人を好きになる資格なんてない人間なんだ、とかいう考えが、ぐるぐる回っていた。
 とにかく時間が経つのが遅くて、何度も時計をみては「まだ5分も経っていないのか……」とため息をついてばかりでした。
 どうやってそこから抜け出したのかは、はっきり覚えていないのだけれど。


 それまで、僕は人のことを好きになったことがなくて。
 親や兄弟、友人には「親しみ」を感じてはいたけれど、「恋愛」なんて無縁なものだと考えていたし、それは自分に弱点をつくるようなものだと思っていました。
 まあ、めんどくさいじゃないですか、基本的に。ダビスタやってるほうが楽しいじゃないか、みたいな。

 
 20歳も過ぎていたにもかかわらず、ひとりでものすごく泣いたり落ち込んだり虚ろになったりしたのです。


 でも、しばらく時間が経って、日常を取り戻してくるとともに、僕はある発見をしました。
 ダメだったのに、大失敗したのに、なんだか、ほんの少しだけ、自信を持てるようになったのです。
 こっぴどく振られておいて、全くもってヘンな話なんですけど、ああ、僕にも人を好きになる力があるんだな、そして、結果はダメだったけれど、それをちゃんと相手に伝えることができたんだな、って。
 それがきっかけで、僕は人を好きになることができるようになりました。その「好き」が、正解なのか、みんなと同じなのかは、いまだによくわからないけれども、自分なりに、ね。


 好きな人と付き合うようになるには、一般的に、出会って3秒で合体、というわけにはいかず、プロセス、みたいなものがあります。
(1)人と接する
(2)誰かを好きになる
(3)相手を好きであることを伝える(あるいは、伝えられる)
(4)相手に受け入れてもらう
(5)付き合う


 この(1)~(5)までの過程をクリアして、はじめて、「付き合う」ということになるんですよね。
 もちろん、(5)から先も、かなり大変なんですが、とりあえずはここまでを考えましょう。
 この増田さん(冒頭の『はてな匿名ダイアリー』を書いた人)は、街コンでマッチングされた相手のLINEの返事がないことで落ち込んでおられます。
 そりゃそうだよね、せっかく勇気を出して自分を整えて、相手にアピールして、受け入れてもらえた、と思ったのに。
 

 でも、考えてみてください。
 こういうふうに「好きな人と付き合う」というプロセスを分割してみると、増田さんは、今回、勇気を出して、(1)から(3)までの段階をクリアしたわけです。
 僕はこれ、すごいことだと思うんですよ。
 これまで、(1)や(2)の段階で逡巡していたことが、(3)までできるようになったんだから。
 残念ながら、(4)の壁に今回は阻まれてしまったけれど、ダメだったんじゃなくて、ついにここまで来ることができたのだと自信を持って良いはず。
 一度に全部クリアはできなかったけれど、確実に前に進んでいる。その経験は今後に絶対に生きるはずです。
 「自分から気持ちを伝えることができた」というのは、すごいことだよ、自信持っていいよ。
 逆上がりと一緒で、できる人、できるようになった人は、できなかったときのつらさや、できるようになるまでの努力をあっさりと忘れてしまう。
 できるようになれば、あんまり考えなくてもスッとできてしまうのだけど。
 なかには、(3)からスタートする「恋愛ファストパス」みたいなものを持っている人もいるのですが、まあ、他人を羨んでもしかたがない。
 ファストパスで乗っても、なんか味気ない、ってこともあるかもしれないし。

 
「日本のロケットの父」と呼ばれる、糸川英夫さんに、こんなエピソードがあります。

 糸川さんは、うまくいかなかった事は「失敗」じゃなくて、「成果」なんだと常に言っていた。


 すぐに付き合う、とまではいかなかったけれど、ここまでやってきたことは、確実に今後につながるはずです。


 僕にとって、人生というのは、やって後悔したことよりも、やらなくて後悔していることのほうが、よっぽど深くて重いような気がします。
 もうひとつ言えることは、好きになれる人って、「とにかく彼女欲しい!」みたいなときよりも、何か他のことに没頭していたり、自分の人生を楽しんでいるときに、目の前に現れるものなのではないか、ということなんですよ。
 そういう状況なら、恋人がいなきゃいないでも、人生悪くないし。

 変わろうと思えば人間は変われるんだと思っていた。もう無理だろ。


 あなたは、もう、変わってきている。たぶん、人生を楽しめるほうに。
 ここで投げ出すのは、周りの皮だけ食べて、あんぱんの味を知った気になっているようなものだよ。


 あのときの僕と増田さんに、この言葉を贈りたい。


「俺たちもう終わっちゃったのかなあ」
「バカヤロー、まだ始まっちゃいねえよ」


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