先週の金曜日、金曜・土曜は20時まで開館している九州国立博物館で、「特別展・世界遺産 ラスコー展」を観に行ったので、その感想を書いておきます。
お盆期間中に行ってみようか、という人も多いと思うので。
僕は夜間開館で見たこともあり、かなり空いていたのですが、お盆は隣接する太宰府天満宮も観光客で賑わうので、九博もかなり混雑しそうです。
ラスコーの洞窟壁画は、2万年前のクロマニョン人が描いたといわれています。
1940年にフランスの少年の犬が穴に落ちたのが発見のきっかけでした。
その穴が洞窟に通じていることを知った少年が友人たちと探検してみると、洞窟内にさまざまな動物たちの壁画が描かれており、それを考古学者が学術調査して、世界中に報告したのです。
その見事な動物の壁画の存在が国内外に発信されて話題となり、ラスコーには多数の観光客が押しかけたのですが、大勢の人が来たことや空調設備の導入で洞窟の環境が変わり、壁画の状態が悪くなってしまったそうです。
その後、ラスコー洞窟は壁画保全のため閉鎖され、現在も中に立ち入ることはできません。
その代わりとして、洞窟の近くに手作業による測量と模写で洞窟の一部を再現した「ラスコー2」という施設がつくられました。
近年になって、レーザースキャンやデジタルマッピングという最新技術によって、より精密なレプリカの「ラスコー3」が作成され、世界中を巡回するようになったそうです。
中には、洞窟のミニチュアが置かれている部屋(でも、中がどうなっているのか、今ひとつよく見えない)や、壁画の一部が再現されている部屋、クロマニョン人たちが使っていたと推測されている道具が展示されている部屋、クロマニョン人たちの姿が再現されている部屋などがありました。
クロマニョン人に扮した人が観覧者と触れ合ったり、写真を撮ったりするコーナーもあったのですが、うーむ、僕は「中の人、がんばってるなあ……」としか思えなかった……
この展覧会、すでに東京展、宮城展は終わっているので、観たかたもけっこういると思います。
これだけのものを再現したのはすごいし、洞窟内に入れない事情もよくわかるのだけれど、展覧会としては、ちょっと消化不良だな、というのが、僕の感想でした。
レプリカとはいえ、めったに観られないものではありますし、そもそも、洞窟ごと持ってくるなんていうのは不可能です。現地に行っても、研究者ですらラスコーの洞窟内には入れない。
でもなあ、「再現」するのであれば、壁画だけではなくて、洞窟内の一部だけでも、もっと洞窟らしく再現され、体験できるようになっていればいいのに、とは思ったんですよね。
洞窟の小さな模型がある部屋では、「中を覗いてみてください」と書かれているのだが、模型の中を除いても何がどこにあるのだかよくわかりませんでした。
洞窟の構造そのものを見せたいのか、中に壁画まで再現されているのか?
何を見せたいのかが、説明不足。
壁画の再現も、たしかによくできているとは思うのだけれど、所詮、よくできたレプリカであって、「本物」じゃないんだよなあ、とか、つい考えてしまうのです。
現場でみるより、ずっと「はっきり見える」のだろうけど。
洞窟の壁画の本物を持ってくることができないのは百も承知なのですが、入場料を払って、全部レプリカの「ラスコー3」をありがたがって感心しながら見るというのが妥当なのかどうか、僕はまだ答えを出せていないのです。
これは、大塚国際美術館でも、ずっと考えていたことなんですよね。
僕には「本物」と「レプリカ」を見分けることもできないのかもしれないけどさ。
こういう動物たちの絵を2万年前のクロマニョン人たちが、何の目的で描いたのか、というのは、とても興味深い。
当時は灯りをともしつづけるのも大変だったので、人びとは洞窟の入口付近で主に生活をしていて、洞窟の奥が日常的に使われることはなかったそうです。
これだけの壁画は、絵の具の準備や灯りの調達など、とうてい一人の手で完成できるものではなく、ある程度の数の人が協力していたらしいのですが、この壁画が「何のために描かれたのか?」は、よくわかっていないらしいのです。
歴史における「なぜ?」っていうのは、後世の人からすれば、推測するしかないことがほとんどです。
やっている本人だって、明確な理由を持っていない、ということもあるでしょう。
ただ、ホモ・サピエンスは、2万年前も、絵を描いていたという事実が、ここにある。
何の役に立っていたのか、どんな目的だったのかはわからないけれど。
もしかしたら、「何の役にも立たないし、とくに目的はないけれど、絵を描くこと、描かれたものを観ることそのものが楽しかった」のだろうか。
考えてみたら、現代人だって「なぜ絵を描くのか?」なんて、なかなか説明しづらいですよね。
中世の宗教画のような「啓蒙目的」なもの以外は、絵というのは、直接何かの役に立つものではない。
それこそ「承認欲求」みたいな解釈になってしまうのかもしれません。
なんとなく物足りない感じはあったのですが、では、これ以外に、あるいは、これ以上に、ラスコー洞窟の壁画を「体感」する方法があるか?と言われると、やっぱりそれは難しい。
機会があれば、一度観ておいて損はない展覧会ではあります。
ただ、「興味がない人でも、惹き込まれる」というほどではなさそうです。
これからさらにデジタルスキャンや3Dプリンターなどを駆使して、「本物そっくりのレプリカ」がつくられるようになったら、本物とレプリカの違いは「既歴」と「観る側の先入観」だけになってしまう可能性はありますよね。本物は門外不出にして、レプリカを巡回させるとか。
それは、アートにとって、良いことなのだろうか、それとも、堕落なのだろうか?
※写真は、すべて「撮影可」のエリアで撮ったものです。
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