いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

国立新美術館で『荒木飛呂彦原画展 JOJO 冒険の波紋』を観てきた話


jojoex-2018.com


荒木飛呂彦原画展 JOJO 冒険の波紋』を観るために国立新美術館へ行ってきた。
この原画展、時間ごとに入場者数が制限されていて、混雑は予想していたのだけれど、平日の午前中の回でも、とにかく人が多かった。
入場制限もされているし、シルバーウィーク中とはいえ、平日だし、けっこうのんびり観ることができるのではないかと思っていたのに……甘かった。
入場までにも少し時間がかかり、4人で列をつくって並んでくださーい、なんて言われたときに、若いカップルがおそるおそる隣に並んできたりすると、なんだかもう帰りたくなってしまう。
ああ、僕は小学生の頃から、体育の時間に「じゃあ、2人組をつくって!」なんて指示が出ることを怖れる子どもだった。
そういうときに、なんとなく売れ残ってしまう子どもだったのだ。
そこで、先生と組まされたりするのがまたイヤなんだよね。
そうなる前に、もっと積極的にマッチング活動をするべきだったのに。


ごめん、話が逸れた。


正直、予想以上の混雑に、この展覧会の第一印象はけっこう悪かった。
マンガの原画展であれば、細かい線の揺れみたいなものまで見たいと思うのだが、とにかく人が多すぎる。
最初のほうの『JOJO』の作品紹介とかは、荒木先生が描いたものじゃないし、ここに来る連中ならそのくらい知ってるだろ、そこでいちいち滞留するなよ!とか、心の中で悪態をついてしまう。

荒木先生が描いた壁画は素晴らしいのだが、それが部屋をつなぐ廊下の部分に配置されていて、写真撮影OKになっているために、展示室を移動するのにも、スマートフォンで撮影している人たちの隙を突かねばならず、ものすごく不便だし。
撮影できるのは嬉しいしありがたいのだけれども、いっそのこと撮影室みたいな感じでひとつの部屋にまとめてしまったほうが良かったのではなかろうか。

今日はこの後にも予定があり、あまりのんびりしてもいられない、というのと、あまりの人の多さに作品を隅々まで観賞する気力もなく、ときには人垣の後ろから、あるいは空いているところにスッと入って、という感じになってしまった。もったいないよなあ。むしろ、夕方からの回とかのほうが空いているのだろうか。

この後、大阪に巡回するらしいので、もう一度観てみるか。


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それにしても、あらためて、荒木先生の絵はすごい、というか、原画はもちろんすごいのだが、こうしてみてみると、『ジャンプ』に載っている状態の絵もとてつもなくすごいのだ。
ちょうど今、国立西洋美術館で、ミケランジェロの展覧会をやっているのだが、荒木先生は現代のミケランジェロだなあ、なんて思いながらみていたら、自身もミケランジェロの影響について語っておられた。というか、僕も以前、どこかでその話を聞いていたのだと思う。
そして、けっして露出が過剰に多いわけでもなく、直接的に描かれているわけでも、やたらと性的なパーツが強調されているわけでもないのに、荒木先生の絵に描かれているキャラクターは、「エロい」のだよなあ。


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あらためて感じたのは「絵がすごい」の同時に「マンガとして面白い」ということだった。
原画そのものもすごいのだが、ついストーリーを追ってしまい、「そう、この場面!で、『スタープラチナ』対『ザ・ワールド』の決着は……えっ、ここで終わり?続きを読みたい、今すぐっ!」という気分になるのだ。何度も読んでいるし、結末を覚えているにもかかわらず。
あれは屈指の名場面で、高校の寮で、DIOのスタンド『ザ・ワールド』を承太郎がどうやって攻略するのか、毎週ワクワクしながら読んでいたものだ。
内心、「こんなの絶対勝てないだろ、どうやってこの大風呂敷を畳むんだろう?」という、意地悪な期待もしていたのだけれど、その黒い期待は見事に裏切られた。あれは本当に見事だったなあ。

DIOって、本当にすごく魅力的な悪役だと思う。
荒木先生は、登場人物の「動機」を重視しており、「正義側も悪党も、”なぜ”こういう行動をとるのか」をつねに意識しているのだそうだ。


荒木先生が生み出したキャラクターやスタンドが紹介されている部屋を見渡して、同じ人間のはずなのに、こんなに大きな世界をつくれる人がいる、ということに、圧倒されると同時に、打ちのめされた。
この展覧会にあるものすべてが、荒木飛呂彦というひとりの人間の頭の中と手から生み出されたものなのだ(一部、荒木先生の影響を受けたクリエイターの作品もある)。
 ひとりの人間が持てる想像力の広さ、深さというのは、こんなにも凄まじいものなのか。

最初は「なんでこんなに平日に人が多いんだよ……」という感じだったのだけれど、見ているうちに、すっかり、「ああ、来てよかったなあ」と大いに満足できた。
それと同時に、もっと観ていたかったなあ、と残念でもあったのだ。

僕自身、最近の『JOJO』は読んでいなかったのだけれど、あらためて、最初から通して読み返してみるつもりだ。
ずっと『JOJO』ばかり描いているイメージだったけれど、こうしてその「世界」にあらためて触れてみると、『JOJO』にはすべてが詰まっているから、これ以外の作品を描く必要がなかったのかもしれない、とも思えてきた。


あれが、これが、というより、「その場にいるだけで楽しい空間」がつくられているので、興味を持った方は、ぜひ、行ってみていただきたい。

展覧会なんて退屈なんだろ、という人のファーストコンタクトにも、おすすめです。


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