いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

山崎元さんと「お金」と「怒り」について


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経済評論家の山崎元さんが亡くなられた。
食道がんで闘病中であることを公表されていたし、メディアに出演されている姿をみて、痩せてしまったなあ、と心配してもいたのだ。


山崎さんは、金融機関や保険会社が「売りたい(手数料が稼げる)商品」に比較的忖度せず、「個人投資家にとって、(長期投資ができるのであれば)比較的低リスクで低コストのインデックス投資」をずっと勧めていた。
各種保険の必要性にも疑問を投げかけていた。


それは山崎さん本人が癌で闘病されていたときも変わらなかった。
アメリカならともかく、日本においては、「お金がないから標準医療を受けられない」ということはないし、高額医療も手続きをすれば一定額以上は還付される仕組みになっている。僕自身は、学生時代に寮で息苦しい思いをしたこともあり、入院するなら個室がいいなあ、と思うので、躊躇なく個室に入れるくらいの資産があった山崎さんは羨ましくはあったけれど、これに関しては、「個室は寂しい」という人もけっこう多いので、その人のキャラクターにもよるかもしれない。


「人の将に死なんとする其の言や善し(ひとのまさにしなんとするそのげんやよし)」

【《「論語」泰伯から》人が死ぬ直前にいう言葉には、利害・かけひきがなく真実がこもっている。】という意味なのだけれど、食道癌が判明してからの山崎さんの言葉には、考えさせられることが多かった。


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新NISA制度がはじまり、日経平均は3万5000円を超えた。
多くの人が、我先にと「投資」をはじめている。

結構好景気なのだろうか、日本。
その一方で、世の中には、「新型コロナで大きな経済的なダメージを受けて、そこから立ち上がれない」という人もいれば、「給食代も払えない家庭」もある(らしい、僕は可視化できていない。たぶん、いまの世の中とはそういうもので、「そんな人は見たことがない」と「周りにはそういう人が多い」の両極なのだろう)。ピケティが言う、r>gが是正される気配はない。

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「お金」がない、全くない、という状況で、「人間としての幸福」を考えるのは難しいのだろうとは思う。

明日食べるものがなかったり、借金督促の電話がずっとかかってくるような状況では、まずは「生き延びる」ことが最優先になるだろう。
いくらインデックス投資が正しいとはいっても、月1万円をずっと積み立てていっても状況を変えるのは難しい。やらないよりはマシ、というレベルだろう。死ぬ間際になって1000万円の資産になったとしても、旅行に行ける身体も、美味しいものを噛める力もない。

でも、お金持ちの世界というのは、案外めんどくさいものではあるような気もする。タワーマンションは見晴らしは良いがマンション内での移動にものすごく時間がかかる(らしい)。クルーザーを買ったら、管理するのは大変だしせっかくの休日にわざわざ乗って疲れたり、人に見せびらかさなければならない。競走馬を買ったら、馬主サークルでの付き合いがある。

ただ、日本で言えば前澤社長、アメリカでいればビル・ゲイツを見ていると、「お金があって、なんでも買える」ような立場になると、「自分が何かを買う」よりも、「なんらかの形で社会貢献をする」ことを考えるようになっていくようだ。
僕だって、大金持ちは羨ましい。高級時計とかを躊躇なく買ってみたいし、ダービー馬のオーナーになってみたい。

他者としてみれば、誇るべき実績や業績がなく、ただ、お金を持っている人って、「とても羨ましいが、尊敬するのは難しい存在」ではあるのだ。
逆に言えば、彼らは、「金があるのに、尊敬されないこと」がジレンマになりやすいのかもしれない。

前澤社長やビル・ゲイツさんのような「大きな仕事をした人」でさえ、それで稼いだお金で自分だけが楽しく暮らすことに耐えられない。
「金がなければ、金で買えるものに憧れる」けれど、「金があっても買えないものは何か」みたいなことを考えるだろうと思う。
あるいは、世界全体を良くするためには、どうすれば良いか、と思うのではなかろうか。
僕自身も、50歳を超えて、そんなことをつい考えてしまう。どうせ死んで、消えて無くなるのだ。

山崎さんは、65歳で亡くなられた。今の世の中では、男性の平均寿命よりもかなり短かった。
たぶん、もう少し長生きするつもりだったと思う。
インデックス投資を「ほったらかし」でやるというのは、ある程度長生きする、という前提ではあったはずだ。
病気のことがわかってからは、お金のことより「自分の考えを遺すこと」にシフトして命を使っていたように見える。
その一方で、同じ金融業界のなかではあるけれど、転職・移籍を繰り返されていたり、お酒(ウイスキー)をかなり嗜まれていた(というには量が多かったかもしれない)

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長生きしたほうが得する仕組み(インデックス投資)にベット(賭けて)することを薦めていたはずなのに、山崎さんは、自分の趣味嗜好に関しては、人生を楽しむことを優先していた。がん保険に関しても、メリットを感じなかったのは、元々資産を十分持っていたからだとも思う。有名病院の個室の差額は、そんなに安くはない。


僕は個人的には、インデックス投資は「いちばんマシかもしれないが、盲信するのは危険だ」と思っている。
FXからタンス預金まで、リスクのない資産なんてものは存在しない。

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この小倉優子さんの記事を「ネタ」として苦笑している人もいるのかもしれないが、それは、今の若い「自称・投資家」に、バブル崩壊リーマンショックも経験していない人が多いからだ。
「世界経済は右肩上がりだ、20年、30年単位では必ずプラスになる」とは言うけれど、今から20年先に自分が何をやっているかなんて、誰が想像できるだろうか。今から20年前に自分が想像していた未来に、自分はいるだろうか?ましてや、この終身雇用が崩壊し、いろんな仕事が失われている時代に。人生にはいろんなことがあって、急に大きなお金が必要になることもあるし(そのときに都合よく資産が増えた状態であるかはわからない)、アベノミクス以降のように(コロナショックはあったものの)株価が上がり続ける時代は「普通」ではない。
極論すれば、大きな戦争になれば、お金が紙屑(もうキャッシュレスになりそうだけれど)になる可能性だってある。
21世紀の戦争では、闇市もキャッシュレスになるのだろうか、まあ、そんな好奇心を満たしてくれる状況になることを望んではいないけれど。


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(このエントリ全体をぜひ読んでほしい)

 お金の損得よりも大事なものに気づくスイッチは「怒り」です。しかし、「怒り」はそのままにしておいてはいけない。何らかの妥当な理由に変換する必要がある、ということを私の答えにしたいと思います。

 だから、我々は、怒りに対する感度を高く保つ必要があります。必要な時には「正しく怒る!」用意がなければなりません。鈍感は、美徳ではありません。

 しかし、いつまでも怒っていてはいけない。

 こう心掛けることで、例えば、お金で考えた損得としては損であっても、自分が持っている「信用」の方が大切だ、といったことに気づくことが出来るようになるのではないでしょうか。


 山崎さんは、人がなるべくお金のことばかり考えずに生きられるように、お金のことを発信し続けてきた人だと思うのです。
 正直、僕はずっと「正論かもしれないが、面白くはないことを言う人だな」と考えていたのですが、亡くなられる前の山崎さんには、鬼気迫るというか、目が離せなくなるような凄みがありました。
 謹んでご冥福をお祈りいたします。
 

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