いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

ある新米投資家の「コロナショック」体験記


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 「はてなブックマーク」のコメントで多くの人が指摘しているように、株価がいちばん下がっていた3ヵ月前と比べれば、株価が回復してきた分だけ、資産が増えたことになるのでしょう。実際は「コロナ以前の状態に戻りつつあるだけ」なのですが。

 僕は50歳近くになって、「経済」というものに興味がわいてきて(それまでは、「お金の話」というのは不浄なものだ、と思い込んでいました)、ちょうど1年前から、ネット証券で株を買うようになったのです。それ以前は、現金での貯金と15年くらい前に銀行にすすめられて買った投資信託を少し持っている程度でした。まあ、それではお金が「増える」ということはほとんどないのですが、切実にお金に困っていたわけでもないので、下手に投資とかに手を出して大損するリスクを考えれば、いまの資産を維持して、死ぬまで食べてはいければ十分だろう、と思っていました。
 率直に言うと、株をはじめたのも、もちろんお金は欲しいけれど、もうけっこう長い間生きてきて、少し人生にアクセントが欲しいというか、みんながやっている株取引というものを、自分で体験してみたい、という動機からでした。大損さえしなきゃいいや、と。
 だから、基本的には、失っても生活には困らないお金の範囲でやっています(だいたい、投資などにまわすお金は資産の2割くらいが適切だ、と有名な投資家が言っていました)。

 2019年の日本の株価は順調な右肩上がりを示していて、麻生さんの「老後の必要資産2000万円」が話題になって資産運用をはじめた人も多かったためか、僕が持っている株の合計金額も半年で10%くらいプラスになりました。
 定期預金の「利子」の悶絶するくらい低い金額に唖然としていた僕としては、「株、ちょろいじゃん!なんでもっと若い頃からこれをやっておかなかったんだ?」と、調子に乗って、知っているゲーム会社の株とかを100株買って「株主気分」を味わっていたわけです。
 2020年は年明け早々、アメリカがイランの司令官を殺害したことによって、戦争ムードが高まり、株価が急落して肝を冷やしたのですが、それも大きな衝突には至らないまま収まり、ホッと一息ついた……というところで、新型コロナがやってきました。

 僕はバブル崩壊リーマンショックの時代も生きていたし、「ニュース」としては知っていたつもりだったのだけれど、投資に縁がない時代には日経平均が何円になっても興味がなかったし(医療業界の勤め人というのは、世間の景気にあまり敏感ではないのです)、投資なんてヤバいものは自分には無縁だと思っていました。
 投資歴1年の僕は、こんな株価の大暴落に「直面」したのは、はじめてだったのです。

 それまで「株ちょろいな」「あんまり冒険せずに、いい会社の株をちゃんと買っていれば少なくとも大負けはしないな」と思っていたのですが、新型コロナの株価への影響は、凄まじかった。
 僕が持っていた株は、あっという間に値下がりしていきました。
 一単元(100株)40万円だった銘柄は、下がりはじめ、もう売って損切りしてしまったほうが良いのでは……と逡巡しているうちに、20万円を切り、15万円だった銘柄は、5万円まで下がりました。

 中には通信会社やゲーム会社のように、大きな影響を受けなかったり、コロナ下の「巣ごもり需要」で、かえって値上がりした銘柄もあったのです。遠隔医療関連銘柄のなかには、驚くほど株価が上昇したものもありました。

 とはいえ、全体的にいえば、株価は20〜30%下がり、半値以下になったものも少なからずあって、SBI証券の株価表示は、(値下がりを示す)緑の文字で埋め尽くされていました。いちめんの緑、だなあ……と、なんだか感動してしまいました。
 あまりにすごい損に見舞われると、むしろ、感情が欠落してしまうみたいです。
(いや、本物の「投資家」からみると、このときの僕の損なんて「蚊に刺されたくらいのもの」ではあったのでしょうけど)


 コロナ禍のなかで、いちばん株価が下がっていた時期は、一日に何回か株価を確認するたびに、10万ずつ資産が減っていきました。
 「更新」のワンクリックで資産がマイナス10万!
 そういう状況になると、「良い会社の株」とかはあまり関係なく、どの銘柄も死屍累々、という感じだったのです。
 「地合い」が激烈に悪化すると、泡沫投資家にできることなど、何もありません。
 可能な選択は、さっさと「損切り」して、少しでも多くの現金を手元に残すか、「長い目でみれば、人類は経済成長を続けていく」という信念のもとに、今持っている株を塩漬けにして、いつか来るはずの「復活の日」を待つか、しかない。

 自分で体験するまで、僕は「じっとしている間に、どんどんお金が減り続けている状況」が、どんなにきついか、まったく想像できていなかった。
 リーマンショックで、株価が暴落していたときの話を読んで、「そんなに下がっていた時期に、なんでみんな買わなかったんだ?そのくらいの値段なら、ダメもとで勝負してもたかが知れているだろうに」と思っていたんですよ。


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 2009年2月のリーマンショック時のオリックスの株価が、204円!
 ちなみに、今日(2020年6月5日)の終値は、1491円でした。
 この値段でも、コロナ前よりはまだ少し低めです。

 なんでこの204円のときに、みんな買わなかったのかねえ、バカだなあ!


 ……自分が嵐を体験して、ようやくわかりました。
 株価がどんどん下がり続けているときって、「どこが底値なのか」なんて、わからないんですよ、本当に。
「こんなに下がっているけれど、ここで買っても、まだ下がるんじゃないか」
「コロナが世界をずっと席巻し続けて、企業が倒産する可能性だってある」
「いつかは株価は回復する」とはいっても、その「いつか」まで、自分は耐えることができるだろうか?リーマンショックから株価が元通りになるには、何年もかかっているし……」


 株価が回復するまで待つ、と平時には考えられるけれど、どこまで下がるかわからず、評価損益がマイナス100万とかを見続けていると、「これがマイナス200万にならないうちに、撤退したほうが良いのではないか」と思えてくるのです。というか、それが正解の場合も多いんですよね。
 待てば株価は戻るかもしれないけれど、待つ間、現金が必要になる事態も出てくるでしょうし、その会社が潰れてしまうリスクもあります。
 株をどうしても現金化したいときに、自分が売りたい、売ってもいいくらいの値段である保証はどこにもありません。

 それまで2000円の株が200円になれば、「お買い得!」というよりは、「これだけ下がるんだから、もうダメなんだな……」と思ってしまう人のほうが、はるかに多いのではないでしょうか。
 我慢を重ねて、もう無理だ……と手放した途端に、その株価が反転して上昇していくこともある。
 映画『ミスト』のラストのような悲劇が、株式投資の世界では、起こり続けているのです。


ミスト (字幕版)

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 僕が持っている株は、結局その「マイナス地獄」からとりあえず抜け出すことができて(コロナ暴落中に買った銘柄もいくつかあります)、今はほぼ「プラスマイナスゼロ」くらいのところまで回復してきました。ホッと胸をなでおろしている一方で、薄気味悪いのも事実です。
 わずか3ヵ月で、あの100万円オーバーのマイナス地獄から生還できるとは、全く想像していなかったから。

 ほとんど持ち株を損切りしなかったのも、すぐ回復することを見込んでいたからではなくて、あまりにも急激に株価が下がってマイナス額が大きくなりすぎて、フリーズしているうちに、なぜか日経平均は2万3000円近くにまで戻ってきたからです。
 耐えた、というより、「何もできなかった」だけです。

 いやそもそも、今のこの状況で、こんなに株価だけが上がっていることに、現実感がない。
 新型コロナウイルスの影響で、外食産業や運輸業、イベント業、建設業などは、軒並み大打撃を受けています。というか、これからもしばらくは感染予防を意識して外出する人は以前よりは少なくなるでしょうし、大規模イベントも難しいはず。航空業界も惨憺たるありさまです。
 むしろ、経済的なダメージは、これから数字になって顕在化してくると考えるべきでしょう。
 「実体経済」の先行きは悲観せざるをえないのに、株価だけが、「コロナ前」に近いところまで「回復」しているのです。
 最近、どんどん上がり続けている株価をみると、まさに「バブル」という印象を受けるのです。
 「なぜ現実と乖離し、株価だけが上がっていくのか?」
 それは、「株価がどんどん上がっていくのをみて、みんながまだ上がるのではないか、という幻想を共有し、さらに買い続けているから」に過ぎないのかもしれません。
 目をつぶって限界までアクセルを踏み込んで、いかに壁にぶつかる直前まで辛抱できるかの壮絶なチキンレース
 あなおそろしや。

 
 冒頭のCNNのニュース、「株価」という面に関しては「コロナ前の数字に戻ってきただけ」なんですよ。
 しかしながら、株価が暴落していく状況のなかで、それでも株を持ち続けられたのは、やはり、資産に余裕があった人たちではあったのだと思います。
 1億円持っていれば、この100万円で買った株がゼロになっても諦めがつくから、一時的に株価が50万円まで下がっても、そのまま保有しておいて回復するほうに賭けるという選択をしやすいのです。
 ところが、手持ちの現金が10万円しかない人の持ち株が100万円から50万円になったら、ゼロになって生活が行き詰まるリスクを考えると、50万円で売って現金化せざるをえないのです。
 そうやって、持たざる者が手放してしまった株を、余裕がある人たちが「バーゲンセールだ!」と嬉々として買い集めていく。


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 仕事がなくなった、10万円の特別給付金のおかげで、とりあえず生き延びられた、という人が大勢いる国に、この不景気を「買い増しチャンス!」と捉えている人たちもいる。
 
 ……と、格好つけて書きましたが、僕も何銘柄か、安い!と思ったものを買い増ししました。こういうのは「合理的な経済活動」なのか、「他人の困窮につけこむ恥ずべき行為」なのか?
 ネット証券では、このコロナ暴落の時期に、新規口座開設者が激増したそうです。今が「買い」のチャンスだ!と。


 各家庭から金属を徴発せざるをえないような国をあげての戦争とか、人口の何割かを失うようなレベルの疫病であれば、その社会の「格差」を一時的にでも平準化することがあります。
 ところが、今回の新型コロナウイルスは、現状、大きな疫病ではあるものの、一部の地域を覗いては、「みんながすべてを失う」レベルの影響はもたらしていません。感染症というのは、誰にでもうつるものではあるのですが、現在のところ、コロナはみんなに同じくらいのダメージを与えていて、その結果、もともとヒットポイントが低い人が、より厳しい状況に置かれているのです。
 何かの陰謀なのでは、と思うほど、「すでに持っている人たち」をいっそう有利にするサイズのカタストロフィ。

 もちろん、これでおしまい、というわけではないでしょう。
 株価だって、みんながふと正気に戻ったときが、ものすごく怖いと僕は思っています。
 新型コロナだって、第二波の予兆もみられていますし、歴史的にみると、「スペイン風邪」も何度か流行を繰り返しましたし。


 日本の場合、新型コロナに対する経済的な対策が、これで本当に妥当だったのか?
 たしかに株価は持ちこたえたけれど、費用対効果と「本当に救済されるべき人たち」に届くものだったのかは、しっかり検証されるべきだと思います。


 あと、僕はやっぱり投資には向いていない、ということが、今回、よくわかりました(気づくの遅すぎ)。


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