いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

寺沢武一先生の訃報と『コブラ』の思い出

natalie.mu


 小学校高学年の頃、偶然『スペースコブラ』のアニメを視たことがきっかけで『コブラ』のジャンプコミックスの1巻を買い、「なんてカッコイイ、そして面白い漫画なんだ!」と感動したのを覚えています。
 登場する女性キャラクターがみんな、なんでこんな格好なんだ、親に見られたら恥ずかしいじゃないか!というくらいのセクシーなボンテージファッションで、押し入れの中に隠れて読んでいたんですよね。

 左手にサイコガンを持つ男、宇宙海賊コブラ!学校で左手に筒状のものを持って、「サイコガンごっこ」とかやっていたなあ。

 マンガ『コブラ』の第1話は、海賊ギルドとの長年の闘いに疲れたコブラが、顔を変え、記憶を消して平凡なサラリーマンとして生活していたにもかかわらず、「バーチャルリアリティを駆使した夢(トリップムービー)」を観に行ったのをきっかけに、記憶が蘇る、というエピソードでした。
 後日知ったのですが、映画『トータル・リコール』の原作となった、フィリップ・K・ディックの中編小説『追憶売ります』を元ネタにしていたんですね。
 いまだったら、「パクリだ!」とネットで炎上しそうなのですが、1980年代の前半くらいは、海外SFはまだ日本では一部の好事家が嗜むもので、僕はその「未来感」に痺れたのです。
 海外から輸入してきただけで、日本では新しかった、という時代でもあったのでしょう。
 当時は、『LOGIN』などのマイコン雑誌で海外SFがよく紹介されていて、僕もJ・Pホーガンの『星を継ぐもの』くらいは読んでおかなくちゃな、と思って買ったものの、あっさり跳ね返されてしまった記憶があります。SFもこのくらいは「課題図書」だろうといろいろ手に取ってはみたけれど、当時の僕が「楽しめた」と言えるのはハインラインの『夏への扉』と、ダグラス・アダムスの『銀河ヒッチハイク・ガイド』くらいだったなあ。

 『コブラ』は、コブラにかかわったヒロインたちがほとんど死んでしまったり(けっこうひどい殺されかたをしているケースも多いのですが、今から考えると、コブラはひとりひとりの死をそんなに引きずっていないよなあ)、どんどん「進化」していく「最終兵器」の描写が出てきたり、寺沢先生は世界ではじめて「CG(コンピューターグラフィックス)でマンガを描いた」ことが話題になったり、いろんな記憶があります。
 あの頃は、「CG」というだけで、すごいことをやっている!と嬉しくなったものです。僕がマイコン少年だったこともあって。

 『週刊少年ジャンプ』に何度も連載されて、ファンとしては大喜びするんだけれど、いつのまにか後ろのほうに掲載されることが多くなっていって、人気ないのかなあ、なんて心配してもいました。
 
 寺沢武一先生は、『コブラ』のあと、『ゴクウ』や『カブト』などの作品も描いておられるのですが、個人的には『コブラ』の二番煎じっぽい感じで、あまり印象に残っていないんですよね。
 1998年に脳腫瘍が見つかったこともあり、以後は闘病しながら、ときどき『コブラ』の新作を描くことがある、という状況で、僕も『コブラ』の新作だけは見つけたら読む、という状態でした。
 SNSでの「関係者」とされる人とのトラブルが話題になったこともありました。

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 いまの世の中では、68歳というのは「死ぬにはまだ早い年齢」なのですが、難病が見つかってから25年も闘病されてきたわけで、寺沢先生自身も海賊コブラのようにタフな人だった、とも思います。
 結局、『コブラ』だけだった、と言われるかもしれませんが、『コブラ』というキャラクターは、多くの人に愛され、憧れられてきたのは間違いなくて、『コブラ』を生み出しただけでも、寺沢先生は凄かった。僕もなれるものならコブラになりたかったけれど、結局コブタになっちまいました。まあでも、マンガを読めば、これからもずっと、僕もコブラの夢を見ることができる。

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 寺沢先生が亡くなられたという悲しみとともに、ああ、僕が押し入れのなかで読んでいた『コブラ』は、こんなにも多くの人に愛されて、憧れられていたんだなあ、とあらためて思い知らされました。

”コギト・エルゴ・スム”「我思う、故に我在り」を覚えたのは、デカルトより、教科書より、『コブラ』が先だった。

 僕は人生がイヤになったとき、いつも、コブラのこの言葉が頭に浮かんでくるのです。

「どうした何を恐れている 死ぬのはたったの一度だぜ」


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