いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『MUSIC FAIR』で、林原めぐみさんが歌う『VOYAGER~日付のない墓標~』を聴いた。

2022年10月8日の18時からのフジテレビの『MUSIC FAIR』は、ユーミンこと、松任谷由美さんの曲をさまざまな人が歌う、というかいでした。

ユーミンさん(以下敬称略)、2022年10月4日に『ユーミン万歳! ~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~』が発売され、諸方面でかなり大々的なプロモーションが行われているようです。
50周年、だものなあ、僕のこれまで生きてきた期間は、ちょうどユーミンの活動期間と同じになるんですね。



この番組で、林原めぐみさんが『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のとくに印象的な場面で流れる『VOYAGER~日付のない墓標~』を歌っておられました。

僕はもともとユーミンの『VOYAGER~日付のない墓標~』大好きだったのです。
冒頭の「傷ついた友達さえ 置き去りにできるソルジャー」が、「ボイジャー」の韻を踏んでいるところや、「冷たい夢に乗り込んで」の「冷たい夢」というフレーズに、心を揺さぶられるんですよね。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を観ていて、「いやしかし、ここでユーミン、『VOYAGER』かよ!ジブリ宮崎駿監督といい、日本のアニメ界のクリエイターって、ユーミン好きすぎじゃない?」と内心ツッコミを入れつつ、僕もなんだか自分の昔のことをいろいろ思い出してしまいました。
宮崎駿監督をはじめとするジブリのスタッフは、アニメの製作の追い込みでスタジオに籠もって作業をしているときに、よくユーミンの曲を聴いていたそうです。庵野秀明監督も若かりし頃に宮崎駿監督のもとで仕事をしており、『風の谷のナウシカ』の巨神兵のシーンが庵野さんの手によるものだというのはよく知られた話です。宮崎監督は、『風立ちぬ』で、声優として庵野さんを起用してもいます。


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少し前に、『庵野秀明展』を大分県立美術館へ観に行ったのです。
庵野監督は子供の頃から特撮・アニメが大好きで、自分で映像を撮ったり、感想ノートを残したりされています。
『VOYAGER~日付のない墓標~』は、1984年に公開された小松左京さん原作の映画『さよならジュピター』の主題歌でもあり、『シン・エヴァンゲリオン』で『VOYGER』が使われていたのは、長年多くの人を魅了してきた『エヴァンゲリオン』のひとつの「区切り」にふさわしい曲だというのと同時に、庵野監督の「日本の特撮・アニメの歴史をつくってきた先人たちへのリスペクト(敬意)」でもあったのでしょう。

いや、理屈はさておき、この曲があの場面で流れてくると、僕は毎回、目が潤んでしまうのです。もう条件反射。


当時、ハリウッド映画に比べてレベルが低い、と言われていた日本の特撮SF映画のなかで、『さよならジュピター』は、高い志を持ってつくられた作品だったのです。思えば、あの時代は『日本沈没』『復活の日』、そして『さよならジュピター』と、小松左京の時代、でもありました。いやほんと、あの頃は角川映画小松左京作品ばかりだったような気もするくらいです。

地球を飛び立って、二度と地球に戻ってくることはなく、今生きている人類が見ることはないであろう宇宙を旅し続ける「ボイジャー」って、何だかすごくセンチメンタルですよね。異星人への地球人からのメッセージ、とかも積んであるそうです。
いつか、人類はボイジャーに追いつくことがあるのだろうか。


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『VOYGER』って、けっこう有名な曲だと思うのですが、これを書くためにWikipediaで調べてみたら、ユーミンのアルバムにはあまり収録されてこなかったのです。「ベスト盤」的なものにも。


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前年(1983年)に同名のアルバム『VOYAGER』が発売されるも、映画の公開が遅れたため収録されなかった。TBS系『第4回日本作曲大賞』にて大衆賞を受賞した。番組には電話出演し、受賞の喜びを述べた。
アルバムの収録は1984年4月に発売された『さよならジュピター オリジナル・サウンドトラック』、ユーミン単独のアルバムでは1998年にリリースされたベストアルバム『Neue Musik』、2022年10月に発売された50周年記念ベストアルバム『ユーミン万歳!』となっている。


これだけ知られている曲なのに、という感じです。
そういえば、大学時代に、この曲が聴きたくなってアルバム『VOYAGER』をレンタルしたら、収録されていなくて驚いた記憶があるような。

ただ、僕が何回か行ったユーミンのコンサートでは、この曲はステージのクライマックスで、壮大なセットをバックに歌われていたので、むしろ、「大事にしている曲だから、ベストアルバム的なものにはあまり入れなかった」のかもしれません。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』での林原めぐみさんの『VOYAGER〜日付のない墓標』には、「すごく優しく、そして、あえて暑くなりすぎないように歌っているな」と感じました。

僕は正直、ユーミンの特徴でもある、あの少し粘着力が強い声や歌い方に胃もたれしてしまうことがあって、林原さんの「あえて素朴に歌っているバージョン」のほうが、この曲に関しては気に入っています。もちろん、『エヴァンゲリオン』という歴史的な作品のクライマックスで聴いた、という影響も大きいのですが。



林原さん版が収録されたアルバムも持っていますが、まさか歌番組で林原さんがこれを歌っているのをみることができるとは!

ユーミンとその事務所から、林原さんにこの曲を歌ってほしい、という要望があったと番組内で明かされていましたが、僕もこのために番組を観ました。
林原さんも少し緊張されているようにみえましたが、「熱唱」しすぎないように、丁寧に歌っておられたという印象を受けました。
僕は映画のあの場面を見ていて、これまでの人生のあれこれが、まさに「走馬灯のように」浮かんできたのですが、あの場面がユーミンに興味を持つきっかけになった、という若い人も少なからずいるはずです。


率直に言うと、僕は若い頃、ユーミン、すごく苦手だったんですよ。
ドライブデートとか、苗場でスキーとか、若い頃の僕にとっては、無縁の世界で、そういうキラキラした世界の象徴が、ユーミンだったから。20代前半くらいまでずっと、「ユーミンは敵!」だと思っていました。今でも、「ユーミンいいよね」って言うのには、ちょっとためらいもあります。だからこそ、林原さんの「ユーミン的ではない歌い方」に惹かれたのかもしれません。

そういえば、大学に入ったとき、全寮制男子校出身の僕は、同じチュートリアル(班、みたいなもの)の女の子が「高校時代は、ユーミンの『Delight Slight Light KISS』(ディライト・スライト・ライト・キス)とか、よく聴いてた」って言っているのを聴いて、「うわぁ、みんな『オトナ』なんだな……」と、巨大なコンプレックスを感じたのです。「恋愛の曲」とか、昔から苦手で、映画音楽とかゲームミュージックばかり聴いていたから(今も似たようなものですが)。

そんな苦手だったユーミンも、50年も並走していれば、「人生のBGM」みたいになってしまった感じがします。
『Delight Slight Light KISS』(1988年)のときの影響力はすごかったけれど、あれから35年も現役で「ユーミン」やり続けているのって、とてつもないことだよなあ。


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Delight Slight Light KISS

Delight Slight Light KISS

  • アーティスト:松任谷由実
  • ユニバーサル ミュージック (e)
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