いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

レコードやビデオテープがCDやDVDになり、「円盤」が終わっていく時代を生きてきた。


natalie.mu


 2022年10月上旬に『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のブルーレイディスク(BD)、DVDが、劇場公開からちょうど2年の2023年3月8日に発売されることがアナウンスされました。


fujipon.hatenadiary.com

 
 そうか、出るのか、円盤(BDやDVDなどのディスクのこと)で……

 僕は『エヴァンゲリオン』の新劇場版シリーズ、これまでの3作はDVDで持っていたのですが、今回は、公開からあまり時間が経たないうちにAmazonプライムで無料配信されていたこともあり、「アマプラでタダで観ることができるのに、BD/DVD版は出るのだろうか……出ても売れるのだろうか……」と思っていたのです。

 ディスク化されるのに2年かかってしまいましたし、そのまま、あるいはちょっとしたおまけが付く程度では売れないだろうと判断されたのか、BD/DVDには、特典として新しい映像も入っているようです。

 これまでの3作もディスクを持っているので、『シン・エヴァンゲリオン』も円盤を買うつもりではいるのですが、『エヴァンゲリオン新劇場版・序』が公開されたのが2007年 9月1日ですから、この15年間に、日本の映像コンテンツのビジネスモデルは大きく変わりましたよね。
 それは、音楽/CD市場にも言えることなのですが。


 先日、こんなニュースがありました。
nlab.itmedia.co.jp

 音楽市場の動向などは、この記事を読んでいただくと理解が早いのではないかと思うのですが、CDの売上は年々右肩下がりで、ゲオでもCDの買い取りを終了することになったそうです(CDの販売とレンタルは継続)。

 たしかに、最近、というか、少なくとも3年くらいはCDは借りていないような気がします。
 そして、AmazonプライムNetflixに加入したこともあって(Amazonプライムは「いつのまにか付いてきた」という感じなのですが)、レンタルDVDも1年くらい全く借りていないのです。一度配信サービスに慣れてしまうと、返しに店に行くのがめんどくさいし。
 
 実際は、すでに円盤を持っている映画やアニメに関しても、「家のどこにあるか探したり、わざわざプレイヤーにディスクを入れて起動を待つのがめんどくさくなってきて、ディスクを持っているのに配信で同じものを観る」ことが多くなりました。人間の「めんどくさい」を嫌う心持ちは、限界を知らないみたいです。
 配信サービスを使ってみると、もう、円盤には戻れない。もはや「所有している喜び」「特典」というメリットしかない。そして、「特典映像」とか、買うときに意識しているほど実際には観ない。


 いま中学生、小学生の僕の子どもたちは、音楽コンテンツを買うときも、配信で購入してそのままスマートフォンタブレット端末で聴くのが「基本」になっています。

 50男の感覚として、「それなら、CDで買ってあげようか。パッケージも付いてくるし、データを取り込めばスマホでも聴けるし、そのままプレイヤーで聴くこともできるから『お得』なんじゃない?」って勧めてみるのですが、「いや、いい」と。

 中学生の上の子でさえ、CDプレイヤーというものに触ったのは、数年前にはじめて、だったのです。
 いや、僕がCDプレイヤーに最初に触れたのも中学生くらいだったけどさ。それは、その時期にレコードからCDに切り替わっていったからであって。

 思えば、AmazonプライムNetflixには、ちょっとしたレンタル店一軒分くらいのコンテンツが含まれているわけで、今の子どもたちは、「ヒマだな、と感じる時間もない時代」を生きているような気がします。まあ、当人たちをみていると、それでも「なんか面白いことないかなあ……」って、ずっと言っているんですけどね。

 そして、配信サービスもだいぶ慣れてくると、「いろんなコンテンツの中から選ぶ面白さ」とともに、気になるところもいくつか出てきました。


(1)いろんなものが見放題ではあるけれど、視聴期限が決まっているものがけっこうあって、中身はけっこう入れ替わっている。


 アニメとかはけっこうその傾向があって、観ていたはずのものが、いつのまにか観られなくなっている、ということが何度かありました。
 配信サービスって、「いろんなものがあるなあ」って感心するんだけれど、いざ「これが観たい」と思って探すと、それは入っていないことが多いんですよね。ちょっと古いアニメのシリーズものとか。



(2)配信サービスがたくさんあって、共通しているコンテンツも多いのだけれど「この配信サービスでしか見られない」というものが少なからずある。


 僕は今のところAmazonプライムNetflixを利用していて、この2つでさえ使いこなして元を取っているとは言い難いのです(ランキングを観ていると、世の中には12話とか24話もあるドラマを最後まで観ることができる人が多いことに驚きます)。
 動画での宣伝をみていると、U-NEXTとかディズニープラスでしか観ることができない、というコンテンツにも気になるものはあるのですが、サブスクって、1ヵ月数千円だと思っても、年単位で考えると、けっこうな出費です。

 おそらく今後はパソコンと同じように淘汰が進み、統一規格みたいなものが生まれてくるのではないかと思われますが(あるいは、CMがついてくるとか)、そうなると、「結局、タイムフリーで再生できる地上波テレビと同じ」になるかもしれませんね。



(3)連続ドラマは1話か2話くらいまで観て中断してしまうパターン多すぎ問題


 これは僕の忍耐力とか飽きやすい性格の問題の可能性も高そうなのですが、話題作は次から次に出てくるし、第1話はけっこう面白そうでも、『スプラトゥーン』とかをやっているうちに時間が経ち、もう続きは観なくていいかな、と投げ出してしまう、このパターンの繰り返しです。

 映像コンテンツは、「間」にも作り手の意図が込められているのだから、と思いつつも、「もう3分であらすじだけやってくれ」と感じてしまう自分がいます。人生の残り時間もそんなに無いんだよこっちは。



(4)Netflixのオリジナルアニメが、全部同じように観える。


 お金を出すところや制作を依頼する側の目のつけどころ、制作者たちが共通しているのだから、どこか共通してくるのはどうしようもないのかもしれないけれど、それが「らしさ」だとも言えそうですし。
 例えていえば(ネットでたとえ話をすると大概怒られるのですが)、「から揚げ弁当」や「チキン南蛮」や「のり弁当」「かつ丼」と、違うメニューを食べているはずなのに、「ほっともっとの味」に飽きてしまう、そんな感じ。



(5)ネットで繋がっているということは、なんらかの「都合」みたいなもので、コンテンツが急に削除されたり、改変されたりする可能性は否定できない。


 少し前に、あるテレビゲームで、声をあてていた役者さんが薬物絡みで逮捕され、そのキャラクターの声がネットでの更新で差し替えられたことがありました。もちろん、そんなに頻繁に起こることではないとは思いますが、配信サービスというのは「ユーザーの側からはコントロール不能な点」が多いのも事実です。
 ネット上の写真共有サービスは便利だけれど、大事な写真は紙でプリントしておいたほうが、結果的には「長く遺っていく」こともあるのです。
 

 CDやDVD、BDといった記録媒体は、再生装置が必要だし、コンテンツを再生するまでに、配信サービスよりも少し手間がかかります。
 ただ、これからの時代には「プラットフォームの都合や状況に左右されない」というメリットが大きくなってくるかもしれません。


 ……とか書いてはみたものの、僕の子どもたちが、今後、わざわざCDやDVDを買ってコレクションするようになっていく世界線は、想像しがたいのも事実なんですよね。
 そういう「プラットフォームからの独立性」なんていうイデオロギーを「便利さ」の上位に置ける人は少ないと思います。もちろん僕も「とにかくめんどくさいのはイヤ」です。
 
 その一方で、もしこれからCDとかDVDが投げ売りされていくのであれば、たくさん集めるのを余生の楽しみにしたいな、とも思っているのです。
 子どもたちには迷惑がられること必定ではありますが。


 今回、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のブルーレイディスク(BD)、DVD版発売のニュースをみて最初に思ったのは、「ああ、これが僕の買う最後の『円盤』になるかもしれないな」ということでした。


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