いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「若者のパソコン離れ」について



 このtweetが話題になっていました。
 そうか、今はそんなことになっているのか……と半ば驚くのと同時に、先日読んだ池上彰さんと半藤一利さんの対談本のなかに、こんな話があったので、「今はそういう時代なんだろうな」とも思ったのです。


fujipon.hatenadiary.com


 それは、こういう話でした。

池上:半藤さん、いまパソコンが売れなくなったこと、ご存じですか?


半藤:えっ、売れなくなっているんですか。


池上:はい。みんなパソコンのかわりにスマホタブレット端末を使っているからです。いま新入社員でパソコンの使い方がわからないひとが増えているそうです。「ワード」とか「エクセル」が使えない。二年ほど前に、東大生がスマホで卒論を書いたと話題になったことがありましたが、もうそんな状態なのです。いまの40代のひとは、新入社員のときにパソコンが使えない先輩たちに使い方を教え、自分が40代になってみると、今度は20代の連中にまた、パソコンの使い方を教えているという笑い話があります。だから夏や冬のボーナス時期に、パソコンの新型機種が最近出ない。


半藤:そうでしたね、その昔は新聞の一ページを使ってパソコンの広告が出ていましたが、言われてみれば最近は見かけないねえ。


 僕がはじめて「マイコン(パソコン)」の存在を知ったのは、1980年代の初めくらいのことで、ケイブンシャの『マイコン大百科』で、Apple2の『ミステリーハウス』に憧れ(後に出たマイクロキャビン版のほうじゃないです)、PC6001や8001、FM-7などの国産マイコンが「マイコンショップ」で触れるようになった時代のことでした。
 当時は、画面の中のものを自分でキーを押して「操作」できる、「→」を押すと画面のキャラクターが右に動く、ということそのものに感想したものです。
 小学校高学年のときに、家にあった(というか、「勉強や仕事に使えるから!今からやっておくと将来絶対に役に立つから!」と親に頼み込んで買ってもらった)シャープX1で、マイコンBASICマガジンやI/Oといったマイコン雑誌に載っていたプログラムの打ち込みを毎晩延々とやっていたんですよね。
 おかげで、タイピングは同世代のなかではかなり速くて、大学時代にみんながワープロでレポートを出すときなどに、「ブラインドタッチができる」というだけで感動されたことが何度もありました。
 スケルトンのiMacが大ブームになった頃は、レポートをワープロで出すだけで、先生たちも「これは読みやすい」と評価してくれた時代でもあったんですよね。
 今は「コピペの温床だから手書きに」と言われることが多いそうですが。

 それから10年くらい経ち、2000年を過ぎて職場に入ってきた後輩たちは、若い頃からパソコンを使っていた、という人ばかりになり、ほとんどの人が僕と同じくらいのタイピング速度になっていました。
 当時はスマートフォンがまだ普及しておらず、携帯電話でのネットはドコモではiモードが始まったばかりで、インターネットでのちょっと込み入ったコミュニケーションは、パソコンでキーボートを使うものがほとんどだったのです。
 あの頃のパソコンには、一部のネット好きと、多数派の「メールとショッピングサイトしか使わない」という二極化がみられていました。
 今、ポストペットを使ったら、『モモ』はすぐに過労死確実です。
 昔は一通来ると嬉しかった電子メールも、今やほとんどがスパムか宣伝ですし。

 あらためて考えてみると、2000年から2010年くらいまで(iPhone3Gの発売は2008年7月)が、日本で暮らしている人たちのパソコンスキルの平均がいちばん高かった時代なのかもしれません。
 冒頭のtweetにもあるように「スマホファースト」(持っていても、キーボードのないタブレット端末まで)という傾向は年々進んできているように思われます。
 そして、今は携帯電話の回線速度も、昔に比べたらかなり速くなっていて、ゲーミングPCでオンラインゲームをストレスなく楽しむ、という使い方でなければ、携帯電話からのテザリングでも、「遅すぎてうんざり」という感じではなくなっているんですよね。
 僕がいま住んでいるマンションでは、wi-fi回線のほうが、スマートフォンからのテザリングよりも遅いし不安定なくらいです(それでも「ギガが勿体ない」から、基本的にはwi-fiを使いますが)。
 コストを考えれば、携帯での契約容量を少なくして、自宅ではwi-fiを使ったほうが、お金はかからないのですが、電話回線を契約する、というめんどくささは、けっこうハードルが高い。僕も、仮住まいのアパートで1年くらい携帯電話のギガを気にしながら暮らしていたことがありました。いやほんと、「めんどくささ」のハードルというのは、バカにできないですよ。
 
 長い文章を打ったり、WordとかExcelを使ったりする必要がなければ、キーボードを使う理由というのもなくなってきたのです。
 仕事や趣味でプログラミングをするとか、オンラインゲームにハマっている人は別として。

 あらためて考えてみると、WordとかExcelも、これからは「円グラフを作って、データは〇〇、××……」などという音声入力で、なんとなくできてしまうソフトがあってもよさそうなものなんですけどね(もうあるのかもしれないけど)。結局のところ、手入力のほうが圧倒的に速いし、慣れている人がやればいい作業だから、ということなのでしょう。

 今のiPhoneとかを使っていると、長年キーボード派だった僕も、こうしてブログとかを書いたり、仕事でパワーポイントを使ったりしなければ、スマホで十分だし、そりゃみんな、わざわざパソコンを買ってタイピングの練習をしたりしないよなあ、って思います。
 そもそも、パソコンの電源を入れるのすら、めんどくさくなってきている。スマートフォンは、ずっと、いつでも使える状態なのに。
 サービス提供側も、基本的に「スマホファースト」になってきているし。

 パソコンの基本的なスキルは、今の30代後半から40代くらいをピークに、どんどん落ちてきているように思われます。
 それが悪いというわけじゃないのだけれど、子どもの頃から、「パソコンが一部マニアのものから、みんなのものになってきた時代」を生きてきた僕としては、どんどん「パソコンを使えない若い人」が増えているというのは、なんだか不思議な気がするのです。

 まあ、そういう自分が経験してきたことへのこだわりこそが「老害化」なのかもしれませんけどね。
 それが善いとか悪いとかじゃなくて、僕が経験してきた、コンピュータへの人々の熱量の高まりみたいなものが落ち着いてしまったことが寂しいだけの話で。
 実際、スマホのおかげでいろんなことが便利になってきているのは間違いないのだから。


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