いつか電池がきれるまで

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「懸賞で当たった声優サイン入りポラロイド写真転売事件」で、転売した当選者は「有罪」になるのだろうか?

togetter.com
nijimen.net


 ネットでこんな記事を見かけました。
 懸賞で当たった、人気声優・雨宮天さんの直筆サインとメッセージが入ったポラロイド写真がメルカリに出品されていたそうです。
 それを見つけた(あるいは、第三者からの通報を受けた)懸賞元の株式会社学研プラス声優アニメディア編集部が「規約違反」として、当選者に写真の返却を求めている、という話なんですね。
 ちなみに、「第三者への転売、譲渡禁止」で、それが見つかった場合には商品を返却してもらう、というのは応募要項に明記してあるようです。


blog.esuteru.com


 僕は雨宮天さんが人気声優であることは知っていて、以前、NHK-FMのラジオにゲスト出演されたときに声を聴いたことがあるくらいなのですが、ファンにとっては、たしかに、当選即転売、みたいな「転売ヤー」は許せないと思うんですよ。こういう人たちによって、本当のファンの当選率が下がるわけですし。


 そして、疑問にも感じたんですよ。
 これは、道義的には非難されてしかるべきだと思う。でも、規約違反とはいえ、一度もらった懸賞品の返却を求められた場合、法的には返却の義務が生じるのだろうか?


 ちょうど今、フェルメール(いま、東京で大規模な展覧会が行われていますよね)の絵が盗まれた事件に関する本を読んでいたので、こういうケースでの「落札者の立場」はどうなるのか、というのも気になって。

 そこで、ネットで同じような事例や裁判での判例はないかと調べてみたのですが、こういう「ファン向けの懸賞品が転売されていたことにより、返却を求められた事例」というのは見つけることができませんでした。
 懸賞元としては、こういうマーケットでの転売をすべて把握できるわけもなく、返還請求とか訴訟とかいう話になると、手続き上もややこしいことになるので、苦々しく感じながら見逃してきた、というところだったのでしょう。
 それをいいことに、転売する人たちも後を絶たなかった。
 芸能人にも、「ファンです!」と言われて書いたサインが直後にネットオークションに出品されていて傷ついた、という人が何人もいます。
 ただし、法的には、何の条件もつけずに「あげた」ものに関しては、その後買い主がどう扱おうと、所有権が移っているので道義的な問題はさておき、法的に責任を問われることはありません。
 この雨宮天さんの事例の場合は、応募要項として「転売禁止」が明示されている、というのが重要なわけです。
 応募者は、これに同意して応募した、ということになっているのです。


 いくつか、参考になりそうな記事をあげておきます。
www.oricon.co.jp
kobutu.office-matsuba.com


 ひとつめの事例では、転売目的でチケットを大量購入した業者に「2年6月の求刑に対して、求刑通りの懲役2年6月、執行猶予4年」の判決が出ています。執行猶予がついているので、実際に刑務所には入らなくてすむのでしょうが、けっこう重いな、と僕は感じました。
 ただ、規模や金額を考えると、雨宮天さんのサイン入り写真転売者は、今回のことだけで刑事責任を問われることはなさそうです。
 そもそもこの「プレゼントした物の転売禁止」という懸賞元のルールそのものが、民事はともかく、刑事として罪に問える有効性があるのかどうか。


 このメルカリでの商品説明の写真をみると、当選者へのメッセージも一緒に掲載されていて、そこには「第三者への転売禁止」と書かれています。
 ふたつめの記事を参考にして、この写真を「古物」だと解釈し、規約違反で当選無効とするならば(この判断が難しいところではあるけれど)、落札者が「知っていて買った」のであれば、商品は懸賞元に返さないといけないし、払ったお金も戻ってこない、ということになります。
 ただし、この転売禁止の注意書きは、読みやすく大きく書かれているというわけでもないので、落札者が「それには気づかなかった」と主張すれば、「転売禁止の品だと知っていて落札したんだから、あなたにも責任があります」とは言い切れない。
 懸賞元がこういう規定をしていなければ、懸賞で当たった品物を売買するのは、「ファンとしては許されない行為」ではあっても、違法ではないのだから。
 

 おそらく、刑事責任を問われることはないと思うのですが、もし転売者が写真の返却を拒否した場合どうなるのでしょうか。
 懸賞元は民事訴訟に踏み込むことになるのか、手間に比べて得られるものが少ないので、そこまではやらない(できない)のか。
 個人がもらえるお金として36000円というのは悪くない金額だけれど、企業としては微々たる額ではありますし、訴訟となるとお金も時間も手間もかかる。
 それを言うなら、転売者側のほうがもっと切実なわけで、懸賞元が徹底的にやる姿勢を見せれば、転売者は全面降伏して、訴訟というチキンレースからは降りざるをえなくなるはずです。
 でもまあ、少なくとも今回の件に関しては、お互いにそこまで本気でやりあうのは、避けるのではないかと思います。
 懸賞元としては、「転売目的で懸賞に応募している人たちへの牽制+こんなふうにネットで話題になってしまうと、放っておいては雑誌や企業のイメージを損なうので、転売対策をしていることの世間へのアピール」という目的は、この時点である程度達成されてもいるわけですし。

 「あからさまな転売目的」っぽいものはダメだと思うのですが、たとえば、当選した時点では売るつもりは全くなかったけれど、「応募したあとにスキャンダルが発覚して、そのタレントさんが嫌いになった」とか、「10年後に、昔は好きだったけど、今はどうでもよくなってしまった」という場合にも、「転売禁止」は半永久的に続くのでしょうか。

 すでに落札者の手に渡ってしまっていた場合は、さらに複雑になりそうです。
 少なくとも「盗品」ではないわけだし、落札者は「転売禁止なんて知らなかった」と主張するでしょうし。
 現実的なところでは、転売者が売った代金を懸賞元が受け取る、ということになるのかな。


 個人的には、もし徹底的に裁判で争ったら、どんな判決が出るのか、ものすごく興味があるのです。
 いままでにそういう事例がないのは、やっぱり、コストのわりに、見返りが少ないからなのでしょうね。
 誰か法律に詳しい人が読んでいたら、これが民事訴訟になった場合、「有罪」になる可能性が高いのか、ぜひ教えていただきたい。


 付記(1):Twitterに上げられた画像を盗用して、所有者ではない人がオークションサイトに出品する詐欺があるそうです。ご注意ください。


 付記(2):コンサートチケット転売問題については、「どうしても欲しい人が定価以上のお金を出してチケットを手に入れるのはそんなに悪いことなのか?」という考えもあるのです。
fujipon.hatenablog.com


盗まれたフェルメール (新潮選書)

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