いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

2021年衆議院選挙への雑感

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 誰に入れようか……と最後まで悩みつつ投票所へ。誰に……と言っても、今回の選挙、僕が住んでいる地域では「自民党候補か、野党の統一候補か」の選択なのだ。

 率直なところ、こうしてネットで発信している人間としては「投票なんて行かなかったよ、どうせ僕の一票で変わるわけないし」とか言うと怒られそうだし、居心地が悪そう、というような、限りなく消極的な理由もあった。
 インターネットの「投票に行こう運動」みたいなのって、一定の効果はありそうな気がするが、僕のような「意識低い系有権者」が投票することが良いことなのかどうかは正直よくわからない。
 そもそも、今回の選挙、自民党の隆盛が長くなりすぎて、「権力は腐敗する」というのを感じつつも、もし野党が政権を取ったら、それはそれで混乱が生じるだけだろうな、という感じで、「自民党にそろそろ牽制球を投げておきたいが、野党の応援もしたくない、というか、野党のほうが自民党よりもずっと同じ人ばっかりだしなあ」という感じではあった。

 投票を終えてから、出口調査の人に話しかけられたが「すみません」と返事をして答えずに帰宅。結局、こういう出口調査って、「答えたい人、何か言いたい人が答えがち」なだけに、バイアスがかかるのだろうな、とは思った。

 夜、選挙特番がはじまった時点では、自民党はかなり議席を減らすものの、与党で過半数を維持する模様、というのをみて、「みんなのバランス感覚も、僕と似たようなものみたいだな」と感心していた。
 「ちょっと自民党にお灸をすえる」くらいの結果がいちばんマシなのではないか。


 ところが、開票がすすんでいくにつれ、自民党はベテラン議員の選挙区での落選が目立つものの、20時の時点で各テレビ局が出していた予想よりも、順調に議席を増やしていった。

 マスメディアでは、「自民党敗れる!甘利幹事長も小選挙区で敗北!(比例で復活当選)」というような論調が目立ったけれど、続々と流れる当確情報をみながら感じたのは、自民党は僕が予想していたほど議席を減らさなかった一方で、与党への逆風のなか野党統一候補政権交代を挑んだはずの立憲民主党の退潮が浮き彫りになっていった。結局のところ、どこもあまりアテにはならない、という諦めみたいなものもあって、投票率が低かったことも自民党にはよかったのかもしれない。

 小沢一郎さんや辻元清美さんが落選したのをみても、どこの党が勝った、というよりは、「そろそろ世代交代してくれよ。長くやりすぎている人や昔と変わらない人は退場してほしい」という民意が反映された、ということなのかもしれない。

 そして、立憲民主党にとっての共産党との「共闘」は、結果的に、あまりプラスには働かなかったのではないか、と思えてならない。


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いまの日本で生きている僕がイメージする「サヨク」「ウヨク」と、「本来の立場」は、かなり違うものなのだな、と、この本を読んでいると思い知らされる。

 「護憲」「戦争絶対反対」という人たちだと思われがちな「左翼」なのだが、戦後間もない時期の共産党は「侵略戦争は否定するが、自衛のための戦争は否定していなかった」のだ。

佐藤:こうした戦後間もない時期の共産党が唱えていた、「日本は軍隊を持ち、中立自衛の道をゆくのだ」という主張にはある種の乾いたリアリズムがありますね。国家がある以上戦争は必然であるし、戦争にはいい戦争と悪い戦争がある、というわけです。
 この、「どんなものにも良いものと悪いものがある」というロジックは、共産党弁証法の特徴です。「良い戦争」と「悪い戦争」があるように、「良い核兵器」と「悪い核兵器」もあって、ソ連や中国などが持つ核兵器帝国主義者による核戦争を阻止するものとして正当化される。
 そしてこの延長で、「良いスキャンダリズム」と「悪いスキャンダリズム」という理屈も当然ありえるわけです。権力者のスキャンダルを暴くのはいいことだけど、共産党員のスキャンダルは党内部で処理すべきことであり、これを外部に漏らす行為は反階級的であり反革命的だ、などというダブルスタンダードな言辞を悪びれることなく言えてしまう。
 これこそがスターリン主義弁証法で、「弁証法」という言葉を使うとどんなことでも正当化できるのです。だから彼らは絶対に謝らないし、そもそも自分が悪いと思ってさえいない。共産党歴が長い人ほど、そういう思考回路ができあがってしまっているから怖いんですよ。


池上:だから共産党のそういう部分についていけない人は多かったのでしょうし、私の高校時代の国語の教師などはまさにそうでしたね。彼は戦争中は絵に描いたような軍国青年だったのですが敗戦で価値観がひっくり返り、戦後すぐに共産党に入党したんです。しかし、それからしばらくして共産党にも絶望して離党した。その後はすっかり虚無的になっていました。


 東京帝大哲学科在学中に陸軍に徴兵され、敗戦後に共産党に入党した「ナベツネ」こと渡辺恒雄さんの話も出てくる。
 渡辺さんは、「マルクスレーニンの本のどこを読んでも、人格的価値、道徳的価値が出てこない。マルクス・レーニン主義には、倫理的価値が位置づけされていないんだよ。それはおかしいんじゃないか、ということだね」と佐藤優さんとの対談で仰っていたそうだ。

 左翼の「合理性」というのは、ひたすら自分を正当化するためのものになってしまっていて、そこに倫理や人間としての「スジ」みたいなものが通っていないのではないか、だから、「正しいことを言っているみたいなのに、心に響かない」のかもしれないな、と僕はこれを読んでいて感じた。


 いまの共産党は違う、と言う人もいるだろうけど、昨日の池上彰さんの選挙特番を観ていて、僕は「やっぱり、共産党共産党なんだろうな」と。
 自分たちは正しい、という確信に満ちすぎた姿は、なんだかちょっと薄気味悪かった。
 「説明責任を果たしていない」というアンケート結果を突き付けられて、ヒートアップしていた自民党の甘利幹事長のほうに、「まあ、偉い人っていうのは大変だよな」と、少し共感してしまったくらい。ネットでも「ブックマークコメントしか読まずにエントリに文句を言ってくる人」ってけっこういるので。


 山本太郎さんが「この自民党政治の地獄を終わらせる!」「30兆円のお金があまっているのに、困っている人たちを救っていない!」とアピールしているのをみても、「強すぎる言葉は、かえって聞いていて引くな」とか「その30兆円って、未来からの前借りみたいなものだし、小規模飲食店が協力金でかえって潤っている、という話も聞いているんだよなあ……」とか。

 なんのかんの言っても、僕自身は、再分配の是正が必要だ、と言いつつも、自分が持っている株の価格が下がるのはイヤだし、これ以上税金を取られるのも勘弁してほしい、という感情を捨てきれない。

 小選挙区で落選したはずの人の多くが比例代表で「復活当選」していたり(小選挙区で2人立候補して、1人が選挙区で当選、もう1人が比例で当選、とかだったら、何のための小選挙区制なんだろう、って思う)、政治家に失礼な物言いをするのが「選挙特番」の特権だと思っているテレビ人がいたり(鋭いツッコミと「茶化す」「責める」の線引きは難しいのだろうか)しているのを観ていると「一国の政治というものは、国民を映し出す鏡にすぎません」という言葉を思い出す。


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 マスメディアは「自民党が負けた」と言っているけれど、実際は「心配していたほど負けなかった」のではなかろうか。

 躍進したのが「維新の会」というのもなんとも。維新の会って、九州在住の僕からみると、ガラが悪い議員を多数出していて、代表もアンジェス関連などで無責任な風説を流布して市場を混乱させている、「自民党の昭和的な部分を煮詰めた人たち」って感じなのだ。
 自民党は(数の上では)「改選前より議席を減らし、負けた」ということでも、その減った議員数の受け皿が維新の会で、立憲民主党自民党より議席の減少率が高かった、というのは、「政権交代格差是正どころか、より新自由主義的なものが勝ち、『いわゆる日本のリベラル』が敗北した」というのが今回の選挙への僕の総括だ。


 「日本のリベラル」「リベラリズム」について詳しく知りたいかたは、以下のエントリを読んでみていただけると幸いです。

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 与党にとっては、新型コロナウイルスへの新規感染者が激減し、緊急事態宣言も解除された、というタイミングの良さもあったと思うが、伝える側がアピールしているよりもずっと「自民党、あるいは自民党的なものは強かった」というのが僕の実感だ。まあ、日経平均株価も急上昇したし、とりあえずホッとしている人が多い、ということなのだろう。

 しかし、アメリカでは「民主社会主義者」のバーニー・サンダース議員を支持する若者たちがかなりの勢力となっているのに、同じような格差社会の日本では、「結局、自分の努力次第だよね」と、みんな受け容れているのだろうか……もうあきらめているだけなのかな……


 どうせ政治は変わらないのだから、選挙のときくらいは、エンタメとして、偉そうにしている大物議員が落ち込んでいる姿を観たい、というのは、「不謹慎だが、気持ちはわかる」よ……


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 この本で、維新の会の松井一郎さんについて、橋下徹さんが書いていたことが興味深かった。


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