なんであの人ばっかり……という気持ちは、僕にもあるのです。
ただ、こういう人たちが、本当に最近になって増えてきているのかどうかは、わからないんですよね。
今から8年前、こんな話がありました。
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一昔前だったら、「芸能人の美談」で済んでいた話なのかもしれませんが、自分が損をしたわけでもないのに、他人が運よく何かを得てしまうことに対して、「それは不公平だ」と主張する人は、たしかに増えてきたような気がします。
ただ、そういう、「他人の得が許せない」とか、「その幸運が自分に巡ってこないのが腹立たしい」という感情は、昔からひとりひとりの人間にあるものではないか、とも思うのです。
最近の世の中では、そういうことを口に出さないのが大人の礼儀だ、という考え方が薄れてきている、というのもあるのかもしれません。
このエントリで、雨宮まみさんと岸政彦さんの対談本『愛と欲望の雑談』でのやりとりを紹介しています。
岸政彦:僕が一番凹んだのが、「差別論」という授業で、いろんなマイノリティの話をしていくんですが、最後に自分の不妊治療の話をしたんですね。僕も手術を受けた話とかをすると、話を聞いて泣いてくれる学生もいる。でも、一度だけですが、授業のアンケート用紙に男の子が「嫁自慢乙」って書いてきてね。もうすごく泣けてきて、あれだけ辛い気持ちをみんなの前で正直に言ったのに、って。言えるようになるまでけっこう時間がかかったんですよ。だけど連れ合いがいるっていうところだけを聞いて、自慢やと思ってるんですよ。
雨宮まみ:昔は、「持ってない」ことをバカにされるのが一般的だったと思うんですよ。
持っている者が持ってない者をバカにするっていうのが定型だったのに、いまは持ってない者が持ってる者のことをバカにする。「お前なんか持ってるくせに、持ってない人間の気持ちなんかわかんねえだろ」って。
岸:差別のあり方が逆転したんですよね。昔は「穢れてる」って言っていたのを、最近は「特権を持ってる」みたいな感じの攻め方をするんですよ。社会心理学社の高史明さんがそういう研究をしています。
雨宮:「特権を持っていれば叩いてもいい」ということになっていますよね。悪口も、「あいつ実は実家が金持ちらしい」とか、そういう方向になりましたね。「実は貧乏」じゃなくて、「実は金持ち」が悪口になる世界。
持てる者から、持たざる者への自慢や見せびらかしを「マウンティング」とするならば、今の世の中は、「持てる者」を「持たざる者」がターゲットにする「逆マウンティング(プロレス的に言えば、ロメロ・スペシャル)」の時代なのかもしれません。
「持っている」というのは、かえって他者の嫉妬や誹謗中傷を呼び寄せるリスクになっているのです。
戦後の日本人はみんな「人間は平等だ」と教えられてきましたし、「世界にひとつだけの花」も大ヒットしました。
その一方で、SNSでは、「インスタ映え」するライフスタイル競争が繰り広げられています。
「平等」というのも大きく分けて2種類あって、チャンスを対等にして、あとは本人の努力次第という「機会平等」と、プロセスはさておき、なるべくみんなが同じ状態になるように、という「結果平等」があるわけです。
この2つの「平等」を両立することは極めて難しい、というか、両者の性質を考えれば無理なんですよ。
日本は資本主義国家なので、基本的には「機会平等」を目指しているはずなのですが、東大生の親が高学歴である割合が多いように、経済力や文化資本には個人差があって、格差は進んでいくばかりです。
そうなると、「どうあがいても成り上がれない人々」の苛立ちはつのるばかり。
それでも、「どうあがいても」って言うけど、俺は貧乏のどん底からサクセスしたんだぜ、キミにもできる!とか言う人が出てきて、また、心を乱されるわけですが。
なまじっか、「平等である」と刷り込まれてきただけに、「なぜこんなに不公平、不平等なのか」と、その理想と現実のギャップにうんざりし、「逆マウンティング」という小さなテロリズムをはじめてしまう。
『DIME』No.19(小学館)のインタビュー記事「DIME KEY PERSON INTERVIEW vol.24・北野武『芸術の危うさ』」で、北野武さんが、こんな話をされています(取材・文は門間雄介さん)。
北野武「いまの時代は夢を持っているやつのほうが、なんの夢もないやつよりよっぽどいいとされてるじゃない。だって、夢を持っているんだからって。でも、現実は同じなんだよ。いま何もやっていないことに変わりはない。それなのに、いまの時代は強制的に夢を持たせようとし出したから、夢のないやつがそれを社会のせいにして、ナイフで刺しちゃったりするでしょう。でも、夢なんて持たなくていいんだって言わなきゃいけないんだと思うよ。下町だったらさ、いいんだよ、お前バカなんだからで終わるから(笑い)。別に、人に誇れるものなんてなくていいんだよね。ないやつだっているし、ない自由だってあると思うよ」
2008年9月の記事なのですが、人並外れた才能も夢もある北野武さんが、この言葉を発したことに、僕は嫉妬してしまうところもあるのです。
言っていることは、たしかにその通りだと思う。
でも、ずっと「夢を持て」「努力すれば夢はかなう」と言われ続けてきて、この「不都合な真実」を受け入れるのは、本当に難しい。
経済成長が停滞し、人口もどんどん減っていくという時代背景が、「他者への不寛容」を増している可能性もありそうです。
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1948年生まれ、「団塊世代」の上野千鶴子さんと、1975年生まれ、「団塊ジュニア世代」の雨宮処凛さんの対談本より。
上野千鶴子:生きづらさは、雇用破壊など社会の問題ではなく、個人のメンタルの問題だと思われていたわけね。親の世代はもっとかんたんに就職できたから、その時の「常識」が凍結したまま変わっていない。時代が変わったことが理解できないんですね。
雨宮処凛:そうです。フリーター問題を研究している人なんかも、やれモラトリアム型だとか、自分探し型、夢追い型という感じで、労働問題ではなく心の問題として、心理分析の対象にしていた。人件費削減のために使い捨てにできる非正規雇用がどんどん増やされていたにもかかわらず、本人も、自分がフリーターであることを心の問題だと思っていたわけです。わたしもまさにそうでした。
上野:結局、ネオリベが20年、30年というかなり長い時間をかけて子どもの世界に入り込んで、そのなかで育ったのが雨宮さんたち。その人たちが大人になって、『自己責任社会の歩き方』なんて本を書かなくてはいけなくなった。でも、「頑張れば報われる」なんて、どの面下げて団塊の世代が言えるのか、と思う。団塊世代は、頑張らなくても報われた世代なんです。自分の能力が高いからでも、人一倍努力したからでもなく、世代丸ごと親の世代より高学歴になれたし、生活水準も上昇した。経済が成長していく時代にたまたま生まれ合わせただけのことだから。
雨宮:そういう言葉に、すごく救われます。みんなに聞かせてあげたら死ななくてすんだのに、みたいな。そのくらいの言葉です。
上野:誰もそれを言ってこなかったということに関しては、団塊の世代の親の罪は本当に大きいと思います。
上野:これはデータを見れば、はっきりしています。団塊世代の親たちより団塊世代のほうがおしなべて学歴が高い。この学歴の高さは、能力とは関係ありません。単に、大学進学率が高まったというだけの話。そして、おしなべて親の世代より経済階層が高い。親世代より、良い生活をしているわけですが、これも別に親のおかげでもなければ、自分の努力のせいでもない。高度成長期だったので社会全体が上り坂で、豊かになった、ということです。
ところがそこを勘違いしているから、自分たちの子どもに対して、「オレたちにできたんだから、おまえたちもできて当然だろう」と思っている。学歴があっても、団塊世代のように誰でも就職できるとか、そういう時代でなくなっている。その結果、親の経済水準より子どもの経済水準が下がる可能性があるのに、そのことを親はまったく理解できていない。
実際の生活の便利さ、という観点では、スマートフォンもインターネットもある現代は、高度成長期の日本よりも、ずっと優れていると思うのです。
でも、「この先、将来は、もっと良くなるし、働いていれば給料も上がり、豊かになれる」と信じることができていた時代を生きてきた親世代には理解しがたい(であろう)閉塞感が、いまの時代にはあるのです。
あと、SNSなどのネットによって、「他人の得」が可視化され、「自慢してもいい」「過剰に自慢している人は叩いてもいい」と多くの人が認識するようになったことも大きいのではないかと思います。
ただ、これを書きながら考えていたのですけど、ここに書いてあることは、すでに「半周遅れ」くらいで、「本当に持っている人たち」は、すでに「逆マウンティング」のリスクを強く意識し、自分に矛先が向かないように、ガードを固めているようにも見えます。
だからこそ、より狭い、より近い場所での争いが目立つようになってきているのではないでしょうか。
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