いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『はてな匿名ダイアリー』の「パチンコ出玉規制によって現場で起きている惨劇」を読んで


anond.hatelabo.jp


 このエントリとブックマークコメントでの反応をみていると、『はてな』には「パチンコのことについて書かれているというだけで、ものすごく嫌悪感をあらわにする人が多いのだな」と思うのです。


b.hatena.ne.jp


 これを読んで、一部の人たちの反応で、『はてな』を語るなんて、「主語が大きい」とか、「雑」とか思ったあなた!その通りです。
 でも、そう思う人も少なくないはずなのに、「パチンコ界隈の人って、独特のリズムで全く意味のわからない文章を書くよね」というコメントにスターをつけることには躊躇しないというのも、矛盾しているのではなかろうか。そもそも、みんなそんなに「パチンコ界隈の人」の文章を読んでいるのだろうか。
 故・田山幸憲さんの文章は美文だと思うし、木村魚拓さんのコラムは面白いんだけどなあ。

 あんまり脱線すると話が長くなって、「またわけのわからない文章を書いてやがる」と怒られそうなので先に進めます。
 冒頭のエントリは、別にパチンコを擁護しているわけではなくて、「現状を改善するためにつくられたはずの規制が、結果的に、さらに状況を悪化させてしまっている一例」について書かれたものだと僕は解釈しています。

 「ボーダーライン」とか言われると、それだけで「そんな業界用語を使われてもわからない」っていう反応が来るのはわかるのですが、これがアニメとかゲームの「わかる人にしかわからない言葉」だったら、ここまで叩かれないとは思うんですよね。
 そもそも、これを書いた人は、ここまでたくさん読まれること、パチンコ嫌いの人の藁人形として使われることを想定していなかったはず。


ボーダーライン (パチンコ) - Wikipedia


 いちおう、Wikipediaの解説を載せておきますが、「パチンコなどには興味がない」という人のために、ものすごくひらたく説明してしまうと、以前の「大当たり確率が低く、当てるまでに大量にお金を使うかわりに、ツボにはまったら大儲け(ダメなら大損)」という台は、あまりにも「射幸性(リスク+中毒性、みたいなイメージで僕はとらえています)」が高すぎる、と国が判断したわけです。
 そこで、「当たる確率は高いけれど、そんなにたくさんの払い戻しは期待できない、プラスとマイナスの幅が小さいパチンコ台」を主流にしようとしました。これは、現在「新基準機」と呼ばれているものです。
 この新基準機では、これまで大当たり確率が399分の1だったものが、最低でも319分の1となり、「当たりやすくなった」のです。
 さらに、当たらないときに玉が減る(お金を使う)スピードが落ちるような改定も行われています。
 その一方で、当たった場合に、玉を減らさずに次の大当たりが得られる(連チャン)確率が80%くらいから、最高65%と抑えられ、「当たりやすいけれど、一度にそんなにたくさんは出ない。大勝ちは難しいけれど、同じ投資金額なら、長く遊べる確率が高くなった……はずでした。
 この規制で、それまでは1000円で17回くらい抽選してくれれば、理論上はプラスマイナスゼロになっていたパチンコ台は、1000円で20回、21回くらい抽選してくれないと、プラスマイナスゼロにならなくなったのです。もちろん、パチンコで食べていこうという人は、この「ボーダーライン」よりも、1000円あたり、3回くらいは多く抽選してくれる台を選ばなければなりません。パチンコ台というのは、釘の並びや玉の動きなどで、同じ機種でも1000円あたりどのくらい回るかが変わってくるので、目にみえる状況で、いかによく回る台を見つけるか、という勝負でもあるわけです。そういう技術を競う面というのが、パチンコ好きにとっては、面白いところでもある。ただし、ボーダーラインを超えていても、抽選で当たりに恵まれなければ負けることもあるし、全然回らない台でも、運がよければ大勝ちすることもあります。


 えっ? より多く回らないと勝ちにくくなったっていうことは、要するにプレイヤーにとっては不利になったってことだよね?
 確かにそうなんですよ。
 ただ、規制をする側は、こう考えていたわけです。
 これまで、1000円で17回以上抽選する台がメインだったから、店は儲けるために、13回とか14回くらいしか回らないように調整せざるをえなかった。
 おかげで、客はなかなか当たらないし、抽選の試行回数も少なくて、楽しめなかった。
 でも、新基準機になると、「損益分岐点となる回転数を高くしたら、店はこれまでよりも回るように台を設定するだろうし、大当たり確率も高くなったのだから、プレイヤーも、とりあえず当てる喜びを得られて、満足して帰れるのではないか」と。
 1000円で20回くらいが損益分岐点であれば、店のあいだでの競争もあるから、平均16回とか17回抽選してくれるように設定するはずだ、とお上は「期待」していたわけです。
 いちおうのルールでは「釘はいじってはいけない」し、元々、以前の台よりは、よく回る(1000円あたりの抽選回数が多い)ようにつくられているはずだったのです。


 ところが、そうは問屋がおろさなかった。
 パチンコ店は、新基準機になっても、「以前と同じくらいしか回らない(抽選しない)」状態で、新基準機を使っていったのです。厳密にいえば、少しは回るようになっているけれども、それは、損益分岐点(ボーダーライン)が厳しくなったことに追いつくようなものではありませんでした。
 1000円で17回がボーダーラインだった台で15回抽選するのと、20回がボーダーラインの台の15回では、もちろん、後者のほうがプレイヤーにとってはきつい。
 少ない金額で長く楽しめるどころか、これまでよりも「さらに負けやすい」状況になってしまったのです。
 雑誌やネットで情報を得て、新基準機はこれまでよりも回らないと勝ちにくいことを理解している客は、どんどんパチンコから離れていきました。
 残ったのは、どんな台でも、ひたすらお金を突っ込んでいく情報弱者や依存症の人々、もう勝つことはあきらめて、1玉1円のレートで、負け額を抑えて、パチンコをすることそのものを愉しもうという人たちばかり。

 ただ、店側にもそれなりの事情はあって、演出が派手になった最近のパチンコ台は、1台50万円以上するものもあるし、どんどんお客も減ってきている。
 某雑誌で読んだのですが、ある店では、以前は1日100万円の利益をあげるために、1000万円売り上げて、900万円還元してきたけれど、客が減って、売り上げが500万円になっているなかで、100万円の利益を維持しつづけようとしたそうです。
 要するに、これまで、1000万円売り上げて、900万円還元という(90%還元)だったのが、500万円売り上げて、400万円返す(80%還元)ようになっているんですよ。
 こうやって、店は利益を維持しているし、「利益率」はむしろ上がってきているのだけれども、こんな営業では、プレイヤーのほうがもたなくなって、どんどん退場していく一方です。
 それでも、この業界が今後劇的に持ち直していく見込みは極めて乏しいので、結局、搾取できるところ、まだパチンコ屋に来てくれる客から、いつか来る終焉の日まで、どんどんむしり取っていくしかない。

 こんな悪循環になってきているのですから、パチンコ嫌いの皆様があれこれ言わなくても、そう遠くないうちに破綻する業界ではあるのです。
 どう考えても、タバコ臭くて、うるさくて、1時間台の前に座って、ボーっとして当たりを待つだけで、隣ではおばちゃんが『大海物語』の画面に怪しげな儀式をしているような空間が、これからの若者に流行るわけがない。
 ただし、終わりが近づいてくるほど、まだ残っているプレイヤーからの搾取は、どんどんひどくなるでしょう。

 
 超ぼったくり店に依存症者たちが自己破産するまでお金を突っ込み続けるという状況を回避するには、パチンコという産業そのものを、ある程度のところで強制的に消滅させるべきなのではないか、とも思います。
 それでも、現実的には、この産業に関わって生きている人もたくさんいるわけです。


fujipon.hatenadiary.com
fujipon.hatenablog.com


 正直、自分がパチンコ依存だった時代もあるので、僕はあんまり偉そうには語れない。
 時間の無駄だったと思うし、その間に勉強していれば、とか後悔してもいるけれど、人って結局、やりたいことをやってしまうのだろうから。
 そうやって、自分にとってのつらい時間をやりすごしたから、今、生きているのかもしれない、とは思うし。
 それでも、「やめられる人は、やめたほうがいい」し、「関わったことがない人は、これからも関わらないほうがいい」ということは繰り返しておきたいのです。
 とは言うものの、じゃあ、パチンコ店がなくなったら、いままであそこにいた人たちは、改心してボランティア活動に励んだり、英会話教室に行ったりするのだろうか?と考えてみると、まあ、そうはならないだろうな、という結論になってしまいます。


 おそらく、何かが滅ぶときには「惨劇」がつきものなのでしょう。
 ただ、「それでもパチンコをやめられない人」たちを、あんまりひどい目にあわせないような、ソフトランディングにしてほしいなあ、とも思うのです。
 それに、「自分には関係がないもの、縁がないもの」だからといって、嬉々として徹底的にバッシングしている人たちを見ていると、「みんな立派だねえ」って、ぐったりしてしまうんですよ。
 多くの人が「正しくもなければ、役にも立たないし、他人に自慢はできないけれど、自分にとっては必要なもの(あるいは、ないと寂しいもの)」を抱えているのではなかろうか。「そんなものにハマっているお前はバカだ」というのは、断絶しか生まない。
 僕みたいに、「それで生かされたのかもしれない」と思う人間がいれば、身内のギャンブル依存で苦しんだ人だっているだろうから、「わかりあえるさ」とは言えないのだけれども。



未練打ち1 揃わぬビンゴ編 (ガイドワークス新書007)

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