いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「いきなり!ステーキ」の「社長からのお願い」が、共感・応援につながらない理由


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 「いきなり!ステーキ」、一体どうなっているんだ……


 ネットでは、この掲示に対して、「無くなっても困らない」「苦境を訴えているはずなのに上から目線」など、けっこう厳しい声が並んでいます。
 「いきなり!ステーキ」に、ちょっとした恩義みたいなものと、ひとりでも入りやすい、肉を食べられる店としての使い勝手のよさを感じている僕としては、「またなんという下策を……」と思わずにはいられなかったのです。


fujipon.hatenablog.com


 うちの近所で、車でも行きやすい郊外型の店舗も、日に日に客足が遠のいているのを通勤途中に眺めていたのですが、先日、ランチタイムに行列ができていたことがありました。その日は、開店何周年かのセールで、200円か300円の値引きが行われていたのです。
 うーむ、最近のラインチタイムは閑散としていたのに、200円引きくらいで、こんなに集客力がアップするということは、やっぱりみんな「高い」と思っているのだろうな。
 確かに、ジリジリと値上げもされていますし、オーダーカットだと、大概、注文した量より5%、差が大きいときには10%くらい大きめにカットしてくれるんですよね。それに消費税もプラスされるので、想定していた値段よりも、けっこう高くなりがちです。
 
 まあ、ふだんより値下がりしているから「お得感」がある、というだけの話で、これが通常の価格になれば、いくら原価率が高いと言われても、他のランチや飲食店に比べたら高価になる、というのも事実なんですよね。

 肉を食べたければ、そんなに変わらない値段でけっこう品質の高いオーダーバイキングの焼肉屋ができてきましたし、おひとりさまに対しても、「焼肉ライク」のような店も出てきました。正直、「いきなり!ステーキ」がなくなると僕は悲しいけれど、実際に行っている頻度は数ヵ月に1回程度ではあるのです。
 それにしても、牡蠣とかカレーとかコース料理化とか、今回の貼り紙とか、よくこんな的を意図的に外しているかのような「対策」ばかり出てくるな、と感心するばかり。
 
 結局のところ、急激に店を増やしすぎて、顧客のニーズを越えてしまい、さらにステーキブームの沈静化や値上げも重なって一気に凋落した、というのが全てだと思うんですよ。
 絶好調の時期を「あたりまえ」だと勘違いしてしまい、強気の拡大策をとったのだけれど、1300円の硬いワイルドステーキか、3000円くらいかかる普通のステーキか、というのを日常的に選ぶ人は、地方には少ない。
 こんなに店を増やさなければ、けっこう定着したと思うのだけれど。
 地方に出店してくれたおかげで、僕としては行きやすいのも事実なのですが。


 この社長からのメッセージを読んで感じたのは、「いきなり!ステーキ」って、ワンマン経営なんだな、ということでした。
 個人の店ならともかく、上場企業が経営する、これだけの規模のチェーン店に掲げるメッセージが

「日本では厚切りステーキを食する文化はなかったですね。いきなりステーキが発進しました」

 ×発進 〇発信

「感動の初体験がやみつきになります」

 ×初体験が 〇初体験に


 と、間違いだらけ。いや、このくらいの間違い、誰だってあるだろ?と思われるかもしれません。その通りです。
 でも、その間違いをチェックし、社長に指摘する人が誰もいないまま、店頭に掲げられ、こうしてメディアにとりあげられているというのは、おかしいんですよやっぱり。
 しかも、同じものを全店に掲示するのだとか。
 一瀬社長に、周りは何も言えなくなっている状態だとしか思えない。
 客の側から「このままじゃ『いきなり!ステーキ』がなくなってしまう!」という声があがれば効果があるのだろうけど、店側から「このままではお近くの店を閉めることになります」と言われると「閉店するする詐欺か?」って反発したくなります。このままだと実際に閉店する店もたくさん出てくるのだろうけど、「自分から言ったら逆効果になってしまうこと」ってあるんですよ。
 

 これはこれで、最近足が遠のいてしまった人たちに「いきなり!ステーキ」の存在を思い出してもらう、というだけでも、少しは効果があるのかもしれません。しかし、ここまで共感・同情してもらえないのも珍しい。


 これまで、インターネット経由で、「困っている会社やお店」が救われる「美談」が、たくさん生まれてきました。
www.itmedia.co.jp
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 これらの美談と「いきなり!ステーキ」の違いって、ざっくり言えば「本当に困っているんです。見知らぬあなたにお願いするのは心苦しいのだけれど、助けてください!」という、相手の顔が想像できるかどうか、に尽きるのです。
 そもそも、銚子電鉄の苦境はいろんな不運が重なって(+精一杯の企業努力をした末)のことで、商品の誤発注というのも、「自分もやるかもしれない」と想像できることです。
 「いきなり!ステーキ」は、「あんなに一気に大量出店したら、こうなるのはわかってたことじゃないか」と僕でも思います。このメッセージだと、店は一生懸命やっているのにもかかわらず、「来店しなくなったお客様」に責任が押し付けられている。
 これまで支えてくれたファンに「お願い」するのなら、もっと徹底的に弱みをみせたほうが良いのではなかろうか。

 
 「困っている規模」としては、生協のひとつの店や銚子電鉄よりも、「いきなり!ステーキ」のほうが、はるかに大きいはずです。
 ペッパーという会社が絶好調のときに8000円で株を買った人たちは、株価が6分の1になって息も絶え絶えのはず。
 これまで「大繁盛」していて、一瀬社長がメディアにガンガン露出して鼻高々だったために、ヘイトが溜まっていた、というのはひとつの理由だと思うんですよ。この貼り紙でも、「創業者一瀬邦夫からのお願いです」って、悪くとれば「この俺様がお願いしてやってるんだ」と感じてしまう。
 別に悪い人なわけじゃなくて、新しい事業を立ち上げる才能はあるけれど、目立ちたがりで自慢好きなおじさんなんでしょうけど、「マスコミの寵児」になるというのは、うまくいかなくなったときには、ここまで叩かれてもいい存在になるのか、と怖くもなります。
 
 とはいえ、個人的には、「いきなり!ステーキ」には、選択肢のひとつとして残っていてほしいのも事実なのです。
 僕の通勤途中のロードサイド店なんて、「無謀な出店戦略」のおかげで、できたのだろうとも思う。
 でも、一度こういう「急降下モード」に入ってしまうと、体勢を立て直すのは難しいのでしょう。
 

 結局のところ、「いきなり!ステーキ」の場合、「お客さんが何を求めているか」を考えずに、店側のポリシーや都合を押しつけ続けてきたツケを払う時が来た、ということなのかもしれませんね。


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