先日、大阪の国立国際美術館で、『ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展』を観てきました。大阪というのは新幹線で行くと、新大阪駅と大阪駅が微妙に離れていて、国立国際美術館はどう行っても駅から少し歩かなければならない立地。
春や秋なら、ちょうど良い散歩になりそうなのですが、猛暑のなか10分くらい歩いただけで、けっこうぐったりしてしまいました。
地方都市暮らしだと、車での移動がほとんどなので、かえって歩かないんですよね。
東京の新宿駅とかに行くと駅の中だけで一日分くらい歩いたような気分になります。
展覧会会場は、夏休み中ということもあって、平日の午前中でも(午前中だから?)まずまずの混雑っぷりでした。じっくり立ち止まって一枚一枚、ひとりじめできる、というほどではないけれど、人混みに圧倒される、というほどでもない感じです。
16世紀のネーデルランドの絵画や彫刻ということで、宗教画が多くて、あまり興味が持てないのではないか、という不安もありました。
宗教的なバックボーンがある人たちと同じ目線でみるというのはやっぱり無理だと思うし。
でも、ヒエロニムス・ボスという画家が、「宗教画」という枠を利用して、幻想的世界や異様な怪物、魑魅魍魎を活き活きと描いていて、それが当時すごく人気があったというのを知って、なかなか面白いな、と感じました。
ボスの絵をみていると、水木しげるさんを思い出します。
ボスさんって、宗教的な「聖なるもの」や「キリストの偉大さ」よりも、「異形の者たち」や「幻想的な光景」に惹かれてやまなかった人なんじゃないかなあ。
それでも、当時はそういう「悪魔的なもの」をメインのモチーフにして絵を描くことは難しかったので、「宗教画」という名目で、描きたいものを描き、それに多くの人びとが魅力を感じていたのではなかろうか。
「中世」「宗教画」というと、なんとなく堅苦しいイメージがあったのだけれど、そのジャンルの中にも、幻想的なものに惹かれたり、面白がったりする作家と見る人がたくさんいた、というのは、なんだかすごく親近感がわいたんですよね。
ああ、人間の本質って、そんなに変わらないんだな、って。
「宗教画」とはいっても、みんながそこに「宗教的なありがたみ」ばかりを求めていたわけでもないのだ。
そりゃそうだよね、500年くらいで、人間という生物の本質がそんなに急に変化するなんてことは、ありえない。
お目当ての『バベルの塔』は、別格、という感じで一枚だけ別に展示されていて、絵の近くで観賞するために15分くらいの行列に並びました。
数メートル後ろからなら、並ばずに通り過ぎることができるので、果たして、この距離のためだけに、そんなに並ぶ必要があるのか、とは思ったものの、たぶん、二度とこんなに間近に見る機会もないだろうし(来日したのは24年ぶりだそうです)、15分くらいなら、と、やっぱり並ぶことにしました。
2時間待ちだったら、ちょっと迷ったかもしれません。
この『バベルの塔』、美術の教科書(たぶん)でも見たことがあるし、すごく印象に残る作品なのですが、一生懸命眺めてみると、「神の意思に逆らって人間がつくった塔」という宗教的な側面よりも、ピーテル・ブリューゲル1世という人の「大建造物へのひたむきな愛情」みたいなものが伝わってくるのです。
教科書に載っているサイズの写真では「塔の全体図」としてしか認識できないのですが、絵を近くで見てみると、作業している人や塔の建造に使われている道具、さまざまな様式の窓に、背景に停泊している船まで、とにかくディテールにこだわり抜いている作品なのです。
ブリューゲルは、船の構造に詳しかったらしくて、背景の船も拡大してみると「こんなに小さいのに、ここまで精緻に描いているのか!」と驚くこだわりっぷりです。
「神の怒りをかった建物」というより、「想像力を駆使して、僕の理想のカッコいい巨大建造物を思いっきり描いてみました!」っていう感じなんですよ。
「工場萌え」の極み、とでも言えば良いのだろうか。
もちろん、これは僕の妄想の可能性も高いのだけれど、実際に作品を目の前にすると、「ホラー映画という枠組みを使って、自分のオリジナリティを作品化した映画監督」と同じような情熱を感じるのです。
「バベルの塔」を描いた絵画の歴史をみても、このあまりにも精緻すぎるブリューゲルの作品のイメージに、その後の画家たちの「バベルの塔」も影響を受けているのがわかります。
それまでに描かれてきた「バベルの塔」は、ピサの斜塔みたいな細長い、灯台みたいな絵が多かったのだけれど、この絵以降は「ブリューゲル基準」に準じて、どっしりとした巨大な塔ばかりになるのです。
この絵をみて、圧倒された人びとの気持ち、わかるなあ。
こうして、あらためて作品を目の当たりにすると、本当は「宗教的な動機」だけで描かれたわけではないのに、「宗教画」としてカテゴライズされていて、現在、それを見る側もその先入観にとらわれているものは、少なからずあるのだろうな、と感じました。
こういうのって、作品と一対一になってみないと、なかなか実感できないものだよね。
そして、こういうのは絵画や彫刻などに限らず、歴史上の人物の行動についても、「なぜ、そんなことをしたのか?」という真の理由って、後世の人の解釈とは全然違うものだということもあるのではなかろうか。
そもそも、人間が何かをするときって、本人にもうまく言葉にできなかったり、確固たる理由がなかったり、ということって、けっこうありますよね。
『バベルの塔』って、本当に「なんかスゲー絵」「巨大建造物愛が伝わってくる絵」だったんですよ、僕にとっては。
やっぱり、「目玉になる作品がある展覧会」というのは強いよなあ。
東京展はもう終わっていて、大阪展は2017年10月15日まで。
次に日本で見ることができるのは、また四半世紀後かもしれませんし、興味のある方は、ぜひ観にいってみていただきたい。
「百聞は一見に如かず」って、こういうことなんだなあ、って思いますよ、きっと。
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