いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「読書の秋」「行楽の秋」ということで、「旅」の本を10作選んでみました。

先週くらいまでかなり暑かったのに、なんだか急に涼しくなってきました。
気候的には、何をやるにも「ちょうど良い」時期でもあります。
そこで、「読書の秋」シリーズのひとつとして、「旅の本」を10作選んでみました。
僕自身は出不精で旅行とか冒険よりも、家でゴロゴロしているほうが気楽で好きなのですが、ときどき無性に出かけてビジネスホテルの机で本を読んで過ごしたいときがあるのです。
まあ、現実的にそんなわけには、なかなかいかないのですけど。
旅行は苦手だけれど、旅や冒険に関する本を読むのは好き、そんな「出不精な卓上冒険家」の皆様におすすめの10作です。


(1)パタゴニア

パタゴニア―あるいは風とタンポポの物語り (集英社文庫)

パタゴニア―あるいは風とタンポポの物語り (集英社文庫)


 パタゴニア南米大陸の最南端。
 『あやしい探検隊』シリーズなどで、ワシワシ書き続けていた椎名誠さんが、抑えた筆致でこのパタゴニアのことを書いておられるのがとても印象的でした。
 これまで「外で大人の男たちと遊ぶ姿」を見せてきた椎名さんの家庭人としての葛藤も描かれています。
 これを読んで以来、僕のなかには「辺境とは、風が強いところだ」ってイメージがあるんですよね。



(2)幻獣ムベンベを追え

幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)

幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)


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このコンゴ・テレ湖に棲息するという「怪獣・ムベンベ」を探す旅は、早稲田大学探検部+現地の人々によって、1988年に行なわれました。
 そして、この本は、翌1989年に「早稲田大学探検部」名義で上梓されています。
(のちに、高野秀行さんの著書として文庫化)
 高野さんといえば、『謎の独立国家ソマリランド』が大きな話題となりました。
 この『幻獣ムベンベ』を読んでいると、「まだ何者でもなかった」時代の高野さんの、現地の人と関係を築いていく能力とか、語学の才能は、大学時代から片鱗があったのだな、と「後世からの視点」でみてしまうところもあるんですよね。
 個性豊かな探検部員たちの描写には、椎名誠さんの影響がありそうで、でも、その個性をうまくネタとして書ききれていない「荒削りなところ」が、すごく瑞々しくも感じたのです。


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(3)旅の理不尽 アジア悶絶編

旅の理不尽 アジア悶絶編 (ちくま文庫)

旅の理不尽 アジア悶絶編 (ちくま文庫)


僕のなかでは、高野秀行さん、宮田珠己さんは「椎名誠さんの正当後継者」のような位置づけなのですが、その宮田さんのデビュー作。
「ちょっと好奇心が強い人が海外に行って開放されちゃうと、このくらいのことは起こるだろうなあ」と納得してしまう、でも面白い出来事ばかりなんですよ。


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(4)あの日、僕は旅に出た

この本を読んでいて驚いたのは、蔵前さんは「昔から旅が好きで好きでしょうがない人」ではなかった、ということです。
1956年生まれの蔵前さんが、はじめて海外旅行をしたのは1979年。行先は、アメリカでした。
その際には、旅そのものが目的ではなく、「アメリカのモダンアートが見たかったから」だそうです。

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(5)深夜特急

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)

深夜特急1―香港・マカオ―(新潮文庫)

深夜特急1―香港・マカオ―(新潮文庫)


僕にとっての『深夜特急』って、「こんなナルシスティックな本に影響されて旅に出ちゃう人がいるw」っていうような作品だったわけです。
食わず嫌いもいいところですね、まったく。
第1巻の単行本が発売されたのは、1986年。
こんな古い話、役には立たないだろうな、って思っていたのですが、役に立つとか立たないとかじゃなくて、「ひとりで旅をする人間の孤独と矜持」みたいなものは、25年前もいまも、そんなに変わらないんだなあ、なんて感動してしまいました。


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(6)いつも旅のなか

いつも旅のなか (角川文庫)

いつも旅のなか (角川文庫)


対岸の彼女』で直木賞を受賞された角田光代さん。
若い頃はバックパッカーとして世界中をめぐっていたこともあったそうです。
とにかく「自由」な人なんですよ、これを読んでみると。
僕も方向音痴なので、ちょっと共感しつつも、よく無事だったなあ、と。



(7)空白の五マイル


 この本を読んでいると、今の時代の「冒険」について、考えずにはいられないのです。

 どこかに行けばいいという時代はもう終わった。どんなに人が入ったことがない秘境だといっても、そこに行けば、すなわちそれが冒険になるという時代では今はない。

今の時代に探検や冒険をしようと思えば、先人たちの過去に対する自分の立ち位置をしっかりと見定めて、自分の行為の意味を見極めなければ価値を見いだすことは難しい。パソコンの画面を開き、グーグル・アースをのぞきこめば、空白の五マイルといえどもリアルな3D画像となって再現される時代なのだ。

「写真」が誰にでも撮れるようになって、絵を描くことが「実物に似せること」ではなく、「そこにあるものをどう解釈してみせるか」という「現代美術」になっていったように、「冒険」も、「行くことそのもの」ではなく、「それをどう意味づけるか」が問われる時代になってきたのかもしれません。


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(8)ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集


 この『ラオスにいったい何があるというんですか? 』を読んでいて感じるのは、「村上春樹という人は、『何もないところ』から、『何か』を掘り出すのが滅法うまい」ということでした。
 アイスランドって、本当に「何もない」ところみたいなんですよ。
 その国を旅行しても、書くことなんて、無いんじゃないか?
 ところが、村上さんは、「何もない」ありさまを、心に響く言葉にしてしまう。


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(9)冒険歌手 珍・世界最悪の旅

冒険歌手 珍・世界最悪の旅

冒険歌手 珍・世界最悪の旅

冒険歌手 珍・世界最悪の旅

冒険歌手 珍・世界最悪の旅


僕自身は、全然「冒険的な人間」ではないのですが、探検や冒険に関するノンフィクションを読むのは大好きです。
 そういう本は、大概、冒険好きの人たちが書いているので、挑戦する大自然の厳しさや美しさ、その中での人間の小ささ、などというものに多くのページが割かれています。
 ところが、峠さんは、もともと「ニューギニア探検」そのものにあまりこだわりがなかったためか、「さまざまな障害に阻まれて、予定の探検がなかなか進まない停滞した状況」であるとか、「食べものについて」とか「現地の人々との関係」の記述が多いのです。
 そして、いちばんの読みどころ(?)は、「日本ニューギニア探検隊」内での人間関係、とくに、峠さんと「隊長」との葛藤なんですよね。


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(10)ひとりたび2年生


世間の「旅行記」の大部分は、現地の人たちに積極的に話しかけて仲良くなったり、貴重な体験をしたりしたものなのですが、そういうのを読んで「すごいなあ」と思うのと同時に「でも、僕にはこんなことできないよなあ」という引け目を感じずにはいられなかったんですよね。自分の「旅」というものに関して、「やっぱりこんな旅のしかたじゃダメなのか、というか、こんなネガティブな生き方そのものに問題が……」というような。
でも、この『ひとりたび2年生』を読んでいると、「世間の大部分の人たちは、『不器用な旅人』なのかもしれないな」と安心できるのです。たかぎさんは、世界の秘境に行くわけでもないし、現地の人とものすごく仲良くなるわけでもないんですけど、そんな旅でも、たしかに本人にとって、いろいろと感じることはあるんですよね。普通の人の、普通の旅にも、けっこう感動があるし、それは他人の経験と優劣を比較するようなものじゃない。


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以上、思いつくままに、10作挙げてみました。
いちおう、ひとりの著者につき、一冊、ということで。
旅の本というのは、一人の著者がいろんなところを書いていたり、逆に、一か所をたくさんの人が描いていたりするので、読み比べてみるのも一興です。
インドに関する本とか、ものすごくたくさんありますし。


実際に、旅に出るというのはなかなか難しいという人、いつか行ってみたいところを探してみたい人、そして、出不精だけれど、旅の話を読むのは好きという人、もし気になる本があれば、手にとってみてくださいね。
せっかくの秋ですから。



こちらは随時更新中の僕の夏休み旅行記です。
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