いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「人工知能」の現在を知るための5冊


先日(2016年5月15日)、NHKスペシャルで、『天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る』という番組が放映されました。

www.nhk.or.jp


僕はマイコン黎明期に『Emmy』という「コンピュータの女の子と対話できるゲーム」を知って以来、「いつになったら、人間とスムースに会話できるコンピュータが完成するのだろう?」と思っていたんですよね。
当時は人類が火星に到達するのと同様に「いつかはわからないけれど、近い将来、確実にできること」だと認識していたのですが、こうして40数年生きてみても、まだまだ「人間とスムースに対話できるコンピュータ」は出てきていません。
iPhoneの『Siri』に話しかけている長男をみながら、まだまだ時間がかかりそうだよな、なんて、つい考えてしまうのです。


このNHKスペシャルの冒頭で、韓国のトップ棋士であるイ・セドルさんと、Googleが開発した囲碁ソフト、AlphaGoの対局の様子が紹介されています。
対戦前の記者会見で、「コンピュータが私に挑戦してくるなんて、10年早い」と豪語するイ・セドルさん。
囲碁は将棋よりも手のバリエーションが多く、複雑なゲームとされており、将棋でコンピュータがプロ棋士を好確率で打ち負かすようになった現在でも、まだ、囲碁では人間の名人に分があるのではないか、と思っていたのです。
ところが、蓋をあけてみたら、AlphaGoの4勝1敗。
イ・セドルさんは、コンピュータの誤動作といわれた第4局で、なんとか一矢報いた、という結果でした。
対局後、イ・セドルさんは「今まで自分が囲碁の常識だと思っていたものが揺らいでしまった」そして、「でも、コンピュータと対戦するのは楽しかった」と仰っていました。


対局中、大盤解説の人が「これは握手でしょう、何考えているんでしょうね」とAlphaGoをバカにしていたのが、しばらくして、AlphaGoの「真意」に気づき、「すみません、前の言葉を撤回させてください」と慌てていたのが印象的でした。
コンピュータの大局観というのは、いままでの人間の「定跡」を越えたものだったのです。


そのほかにも、自動運転の車の話や、ソフトバンクが開発した「感情を持つロボット」Pepper、人間の医者には見つけられない小さな癌を発見するコンピュータなど、「これはもう、近い将来、人間の仕事って、なくなってしまうのではないか」と考え込まずにはいられないくらいに進化しつつある「人工知能」の数々。

www.softbank.jp


そのなかで、「人工知能が暴走して、人間に害を与えるようになるのではないか」という話が出たのですが、ある技術者が、こう言っていたのが印象的でした。

人工知能の最大の問題点は、人間を敵視することではなく、人間に関心がないこと。


番組内では、学習し、自律的に行動するコンピュータが「クリップを最大限の効率でつくるようにしろ」という命令を受けた場合に、地球上の資源のバランスを無視して、クリップばかりつくりはじめてしまう、というのが実例として挙げられていました。
もちろん「人間に害を与えないように」「仲間のコンピュータを傷つけないように」というプログラムは開発されつつあるのですが、その一方で、世の中には、一筋縄でいかないことがある。
たとえば「人間の命を守る」というプログラムと「効率的な製品を製造する」という命令は、矛盾してしまう可能性があります。
「資源を採掘するために、作業員の命が失われる可能性がある」とか「苛酷な労働で部品がつくられている」という情報が入力された場合、「それでも作る」のか「それは作ってはならない」のか。
人間って、案外、そういうところを「考えないようにする」のが得意な生き物なんですよね。
だからこそ、日常生活を平穏におくれている、というのも事実なわけで。


大変興味深い番組で、羽生さんが花札でも容赦なく強く、NHKの番組でも「接待ゲーム」などする気もなくPepperに圧勝していたのが、個人的にはとても印象的でした。
もしかしたら、羽生さんというのは、「とてつもなく優秀な人工知能」に近い人なのかもしれませんね。


前置きがやたらと長くなってしまったのですが、僕が読んだ「人工知能」や「ロボット」「コンピュータ将棋」についての面白かった本を5冊あげてみます。
将棋にはあまり興味がない、という人は、最初の2冊だけでも読んでみると、「人間って、まだ未解析なだけのコンピュータみたいなものじゃないのか?」という気分が味わえると思います。
(ちなみに、冒頭の羽生さんの番組も、有料ですが、NHKオンデマンドで観られます。面白いので興味がある方はぜひ)



d.hatena.ne.jp

 「人工知能って、どんなものなの?」という、初学者にとってわかりやすく、それでいて手を抜かずに書かれている良書だと思います。
 「人間というコンピュータ」って、けっこうすごいのだな、とあらためて感じました。



d.hatena.ne.jp

機動戦士ガンダム』のジオングについて、技術者が「あんなの(手や足)は飾り物です。偉い人には、それがわからんのですよ」と言っていましたが、ロボットが「人間らしく」なるためには、「飾り物」が必要なのです。

 かなり知的好奇心をそそられる新書ですので、興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてください。



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 これを読んでいると「人間の『脳』とか『知能』とは、いったい何なのだろうか?」と、逆に考えてしまうところもあるのです。

 扱えるデータが多くなれば、「ルールを覚えさせて、それに応じて対応する」よりも、「統計学的、確率的なアプローチを行う」ほうが、それらしくなるのか……

 「人間の脳は、コンピュータとは違う、特別なもの」ではなくて、単に「これまでのコンピュータでは再現できないくらい、高性能、あるいは特殊なコンピュータ」なのかもしれないな、とか。



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 これからのコンピュータ将棋での「必勝法」は、「将棋の実力勝負」よりも、「相手のプログラムの隙をついて、エラーを起こさせること」になっていくのかもしれません。
 実際に、そういう戦略を追求しているソフトもすでにあるのです。
 この新書の最後のほうには、コンピュータ将棋の世界で、人間の棋士の世界よりもより早い周期で「世代交代」が起こっているということも書かれています。
 『Bonanza』や『ツツカナ』といった、コンピュータ将棋に大きな足跡を残したソフトの開発者たちの多くが「無期限休養」に入っているそうです。



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 この本では、米長さんが、コンピュータ将棋「ボンクラーズ」の挑戦を受け、対戦のために入念な準備をし、対戦し、そして敗れるまでの軌跡が語られています。
 驚いたのは、「ボンクラーズ」と対戦し、勝つために、米長さんが「コンピュータ将棋」そして「ボンクラーズ」を入念に研究していたことでした。
 考えた末にたどり着いたのが、後手番初手「6二玉」だったのです。



 人工知能って、こんなに進化してきているのか、というのと、それでも、大局的な判断が必要な状況では、まだまだ問題点が多いのだ、というのと。
 これからの時代は「人間対コンピュータ」から、「人間とコンピュータが協力して、『最強の棋士』を目指す」方向に進んでいくはずです。
 

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