いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「ネットでお金儲けをするのが悪い」のではなくて、「ネットで(他人を騙したり不幸にしたりして)お金儲けをするのが悪い」だけなのに。

obgyne.hatenablog.com


 僕はあまり積極的に「医療」について発信していない(できる自信もない)こともあって、冒頭のブログを書いている方の誠実さには頭が下がります。
 目の前のひとりの患者さんでさえ「相性」があるのに、不特定多数の人に対して、医療情報を発信するというのは、とても怖いことなんですよね。
 昔、病理学の研究室にいるときに、「病理は患者さんや家族と直接対面することがほとんどないから気楽だ、と思われがちだけれど、逆に、何かちょっとした間違いがあったとき、『あの人にはいろいろ良くしてもらったから』と大目にみてもらえることもない。だから、けっしてラクなことばかりじゃないよ」と言われたことがあります。
 世の中に、メリットばかり、デメリットばかり、ということは、とくに「仕事」に関しては、ありえないということなのでしょう。


 学会では「異端」であるとか「データ不足」として疑問視されているような健康法や治療法が、書店で大々的に宣伝されているのをみると、「なんだかなあ」とは思うんですよ。
 医師免許をもっている人間が、すべて高いモラルを維持できているわけではありませんし(他人のことは言えないけれど)、そもそも、医学部でのそれなりに過酷な勉強と実習に耐えて、国家試験に受かれる人ならば、誰でも医者にはなれるのです。
 もちろん、そんなに簡単なことではないし、プロセスそのものが「振り落とす作業」ではあるとも言えるのですが。
 人間には、経時的な変化というものもあるので、年齢とともに、良くも悪くも「初心」から離れてしまう。


 冒頭のエントリを読んでいると、キュレーションサイトでお金を稼ごうとしている人たちと、ネットで社会に啓蒙活動をしようとしている人たちというのは、きわめて相性が悪い、ということがわかります。
 ただ、読んでいて感じるのは、このキュレーションサイトの人たちも、最初は真面目にやろうとしていたのではないか、ということなんですよね。
 専門家にちゃんと監修をしてもらって、内容で差別化していこう、と。


 ところが、時間が経つにつれ、どんどん記事が粗製乱造され、「監修」されるのも煙たくなってくる、という変化がみられてくるのです。
 そんな変節を責めた際に出てきた言葉が「記事の目的は、読んでいる人に安心を与えることです」だった。


 そりゃ降りますよね、そういう危険なサイトの監修なんて。


 「安心を与える」というのは「建前」なのだと思います。
 本当に安心してもらおうというのであれば、病院に行って検査を受けたり、直に専門家のアドバイスを聞くのが、真っ当な解決策であることはわかるはず。
 「お金のためには、そんなことを書くよりも、センセーショナルな言葉を使ったり、検索対策のために記事を多発し、文字数を増やしたほうが効果がある」なんて、真面目な監修者に言えるはずもなく。
 実際に「わかりやすい言葉」「受け手にとって、都合がいい、めんどくさくない解決法」のほうが受け入れられやすいし、多くの人に見てもらえるのでしょう。
 「肩こりは幽霊のせい!」みたいなのって、バカバカしいのだけれど、それだけに、物見遊山で多くの人が見に来て稼げたりもするのではなかろうか。
 
 
 「ネットでお金儲けをするのは悪いことじゃない」
 そう多くの人が言っています。
 彼らは、それに反発する人に「嫌儲」とレッテルを貼ることもある。


 たしかに、嫉妬や自分の「ネットの理想的な姿との落差」から、「ネットで稼ぐな」という人もいます。
 でも、実際は「ネットでお金儲けをするのが悪い」のではなくて、「ネットで(他人を騙したり不幸にしたりして)お金儲けをするのが悪い」と考えている人が多数派だと、長年ネットをみてきた僕は感じています。


「ネットでお金を稼いで何が悪い」という人の大部分は、この()の部分を意図的に省略しているのです。


 Googleは、長年、行動規範として、"Don't be Evil."を掲げてきました。
gigazine.net
 これを公言しているのは、Googleが、自身を「邪悪化しやすい存在」とみなしている、ということの裏返しだと思うんですよ。


 「悪いことをしない」のは、至極あたりまえ、のはずなのですが、人間、それが「仕事」になると、悪いことをやるハードルが下がってしまいがちなのです。
 「食べていくには、仕方がない」「みんなやっていることだ」「騙されるほうが悪い」


 いろんな人のネットライフをみていて感じるのは、ゼロの状態から、稼ぐために人を騙したりゴミみたいな情報を検索テクニックだけでばらまくような人はほとんどいないけれど、一度ネットでPV(ページビュー)を稼いで、成功体験をしたり、大きな収入を得てしまうと、それを維持しようとして「邪悪化」しやすい、ということなんですよね。
 ゼロの人が稼ぐのに失敗しても、「自分には向いていないな」とあきらめることが多いのだけれど、一度「稼ぐ体験」をしてしまうと、当初は理想に燃えていたはずなのに、そこから収入を落としたくない、でもPVはなかなか伸びない、もしくは下がっていく、という状況を受け入れられず、「邪悪化」してしまう。
 生活のレベルって、一度上げてしまうと、なかなか落とせないものですし。


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WELQ』が無くなっても、同じようなサイトは、つくられ続けているのです。
WELQ』を生んだ土壌が改善されているわけではないのだから。
「自分は企業みたいに大規模にやっているわけじゃない」「お金がないんだから、しょうがないだろ!」と声高に主張する個人ブログも生まれつづけています。
でも、「他者を騙して稼ぐビジネス」には、問題も限界もありますよね。


 僕にとっても、お金は、「もう閉鎖してしまいたい、というときもあるけれど、とりあえずこのまま放置しておくだけでも、少しは稼げるんだよなあ」という「ネガティブなモチベーション」にはなっています。ひらたくいえば、「閉鎖衝動へのブレーキ」にはなっているのです。


 冒頭のエントリの方も、純粋な善意だけではなくて、「名前をアピールしたい」という動機はあったと思うのです。
(新たにクリニックを開業されたばかり、ということですので、クリニック名も含めなるべく多くの人に知ってもらいたいと考えるのではないかなあ。僕だったらそう考えます)
 そこから「勇気ある撤退」ができて、よかった。


 今の状況は「過渡期」なのか、それとも、「ネットはずっとこんな感じ」で続いていくのか……
 とりあえず、Googleの検索上位だからといって、あんまりアテにしないほうがいい、ということは知っておいたほうが良いと思います。


 個人的には、「ネットの誤った情報を病院で医療関係者にぶつける人」以上に、「がんは治療しなくていい、というのを信じ込んで、病院に来ない人(そしてある日突然、治療不能になって、救急車で運ばれてくる人)が増えてくるのではないか、と感じているのです。
 そういう、ネットの誤った情報を信じて、やるべきことをやらなかったことによって生まれる「サイレント被害者」は、これから増え続けていくのではないだろうか。
 何が「安心」だよ……


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