いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』が「中年ゲーマーには、ちょうどいいゲーム」である理由



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昭和後期の墨田区を舞台にしたホラーアドベンチャーゲーム[1]。本所七不思議の伝承に紐づけられた呪いを有した「呪詛珠」を手に入れた登場人物たちが、それによって魂を集めることで《蘇りの秘術》を得ようとするという群像劇。


 このゲームの新作情報を『ニンテンドーeショップ』で見かけたときには、「ああ、また安っぽいAボタンを連打するだけのDLCのみ発売の一山100円ゲームか」と思ったのです。
 ニンテンドーeショップの新作情報をみていると、タイトルがパワーポイントで作られたかのような粗製乱造ゲームがたくさんありますよね。あの一群は、なんだろうな、と。

 発売直後のゲームは6000~7000円台のフルプライスであることがほとんどのスクウェア・エニックスから、定価2000円弱(僕は発売直後に20%offで買いました)での発売というのは、よほど「しょぼい」のか「自信がない」のか、なんらかの戦略的な意図があるのか?

 スクエニアドベンチャーゲームといえば、去年出た『春ゆきてレトロチカ』は、新型コロナ療養中に遊んだ記憶がまだ新しいのですが、セールス的にはかなり厳しそうでした。

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 アドベンチャーゲーム好きの僕にとっては、けっこう面白かったし、桜庭ななみさんは綺麗だったし、横溝正史っぽい世界観も好きだったんだけどなあ。
 ただ、ミステリーアドベンチャーゲームとしては、肝心の「謎解き」要素が薄いというか、コマンド総当たりで「作業感」が強いという難点がありました。
 フルプライスで売るのなら、それなりにプレイ時間を引き延ばす必要があったのかもしれませんが、つまらない時間が増えてもねえ。
 実写絵、というか、動画の使い方とか、かなり画期的なゲームで、この系譜がここで途切れてしまうのはもったいない気がしました。

 この『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』は、現時点では、Nintendo Switch/Steam/iOSAndroid版が出ています。

 僕はSwitch版で遊んだのですが、操作はSteamでのマウスか、スマートフォンでのタッチ操作のほうがやりやすそうです。
 Switchというハードそのものは、画面の大きさや携帯性のバランスがとれていて遊びやすいけれど、スイッチのコントローラーでマウスのようにカーソルを動かすのには、ちょっとやりにくさがありました。
 あと、「音(BGMや効果音)」が雰囲気づくりに大きく貢献しているので、できれば、音を出せる環境でプレイしてほしい。

 昭和の後期が舞台になっているため、僕が子どもだった頃のオカルトブームとか、電話ボックスの存在感があった頃のことを思い出させてもくれます。
 このあいだ、川口浩探検隊に関する本を読んだのですが、あの番組で使われていたような、おどろおどろしいフォントのテロップで「呪い殺せ!」と画面全体に表示されると、もうゾクゾクしてきます。
ノストラダムスの大予言」をみんなけっこう本気で信じていて、学校では「コックリさん」が大流行していた、そんな時代があったのです。


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 アドベンチャーゲームとしては、「ちょっとニヤリとしてしまうような、テレビゲームらしいギミック」を味わえる一方で、「そんな要素を採り入れられると、プレイヤーの世界への没入感が下がってしまう」という印象もありました。最後は、そんな疑問もまるごと飲み込まれて「やられた!」と僕は嬉しくなってしまったのですが。

 登場人物が、発動するための「条件」がそれぞれ違う「呪い」を持っていて、いかに相手の条件を満たさずに、こちらの条件にはめ込むか、会話にも緊張感があるのです。

 あまり考えずにコマンド総当たりをやっていると、ちゃんとしっぺ返しを食らうことにもなります。

 各キャラクターがお互いに影響を与えあって、あるキャラクターが進行不能になったとき、他のキャラクターでその原因となっているフラグを解除すると先に進めるようになる、というのは、名作アドベンチャーゲーム『街』や『428』を思い出します。

 ただし、このゲームは、『街』『428』ほど登場人物が多くはないですし、先に進むための条件が複雑に入り組んでいるわけではありません。

 「なんで先に進めたのかよくわからない」「えっ、ここからラスボスとの対決じゃないの?」みたいな物足りないところもあったのですが、それでも、プレイ時間は10時間近くで(なるべく自力でクリアしたこともあり)、この価格なら満足感は非常に高いものがありました。

 フルプライスの5000円とか6000円で、プレイ時間も20~30時間とかであれば、「高い!」とか「冗長!」という気分になったかもしれませんが、「2000円で休日が1日あれば、あるいは平日の仕事終わりに少しずつ1週間かければ終わるくらいのボリューム」というのは、まさに「ちょうどよかった」のです。
 
 本編が長くて、クリア後のオマケ要素も満載、やっとエンディングを迎えても、「トゥルーエンド」のためには周回プレイが必要、みたいなゲームは、今の僕には、もうキツイ。いまは「安くて遊べるゲームが溢れている時代」で、僕は「テレビゲームが安上がりの娯楽になった時代の大人」なので。

 夜に遊ぶのはちょっと怖い(あるいは不気味)だし、こういうホラー、オカルトそのものが苦手、という人にはオススメできませんが、なんだかすごく「これでいいんだよ、これで!」と言いたくなるゲームでした。
 ツッコミどころは少なくないのですが、それも含めて、「昭和のオカルト話っぽい」し、「お得感のある良作」だと思います。

 個人的には、『シュタインズ・ゲート』みたいな「圧倒的なテキスト量なのに、読まずにはいられないアドベンチャーゲーム」も大好きなんですけどね。
 最近プレイした『魔法使いの夜』もすごかったな(フルボイスだと「声の力」は大きいです)。僕が『魔法使いの夜』を中高生のときにプレイしていたら、絶対ハマって「中2病」になっていたはず。


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