いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

2020年「ひとり本屋大賞」大反省会


www.hontai.or.jp
www.asahi.com


 第17回本屋大賞は、凪良(なぎら)ゆうさんの小説『流浪の月』に決まりました(東京創元社)。
 
 大賞『流浪の月』 
 2位『ライオンのおやつ』
 3位『線は、僕を描く』


 ちなみに、僕の順位予想では、
 1位『線は、僕を描く』
 2位『熱源』
 3位『流浪の月』
 としていました。
 

fujipon.hatenablog.com


 結果をみて最初に思ったのは、大変失礼なのですが、「ああ、『ライオンのおやつ』が大賞にならなくてよかった……」ということだったのです。小川糸さんは、書店員さんには人気がある作家みたいですが、僕はこの人のネーミングセンスや押しつけがましいスローライフや人を感動させるために登場人物を死なせるところなど、本当に苦手なのです。正直、「2位?こんな量産型スピリチュアルホスピス小説が?お前らの目は節穴かよ!」と思いましたし、フェブラリーSケイティブレイブ2着と同じくらい驚きました。


 僕の評価としては、『熱源』最高、『線は、僕を描く』『流浪の月』『medium』納得、『夏物語』すごいのは認めるが、読んでいて辛い。それ以外はちょっと……というノミネート作のラインナップでした。
 『ノースライト』は、秀作だけれど横山秀夫さんの作品としては、けっして良い出来ではない。これが「4位」ということは、全体のレベルも高いとは思えない。

 『熱源』は直木賞、『medium』は「このミス」1位など、すでにタイトルを獲っているものには票が集まりにくい『本屋大賞』の性格を考えると、受賞作は『僕は、線を描く』か、『流浪の月』。でも、『流浪の月』は、好き嫌いが分かれるとみて、前者の大賞を予想したのです。ちなみに『熱源』の2位予想は、自分にとって素晴らしかった作品に票が集まってほしいという、僕なりの「意地」です。
 恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』は、いかにすごかったか、ということですよね。


fujipon.hatenadiary.com


 『流浪の月』という作品には、「自分は他人(あるいは世界)から理解されていない」という違和感や叫びが詰まっています。世間が貼ってくる「レッテル」というものが、たびたび、「実状」とは違うということも。
 僕はこの作品は『天気の子』みたいだなあ、と思いました。
「世間や社会がどうなっても、自分は自分の幸せを生きる」ということ。
 これは『夏物語』でもそうなんですけど、「世間の空気」とか「常識」に圧迫感を抱いている人は、本当に多いのですよね。僕もそうだし。

 でも、これを読みながら、僕は考えずにはいられませんでした。
 この作品での2人の「関係」を支持する人たちは、「妻子を捨てて若い女優と不倫していた」という東出昌大さんを、「こんなひどい男は許せない」「杏ちゃんがかわいそう!」と責めてはいなかっただろうか?
 
 結局のところ、夫婦関係なんて、外部の人間にはわからないんですよ。恋人どうしもそう。
 報道されていることは事実なのかもしれないし、東出さんは「ひどい男」なのかもしれない。
 ただ、本当のところは、当事者にしか、あるいは、当事者にだってよくわからない。母親になったり、妊娠したりすることによって、変わる女性は大勢います。「家族なんだから夫は妻を支えるべき」なのだろうけれど、耐えられないような暴言を浴びせられたり、理不尽な扱いを受けたりした可能性だってある。
 だから不倫しても良い、と言うつもりはない。
 それでも、報道や伝聞を鵜呑みにせず、そういうことに至ったのには、他者からは計り知れない「背景」や「前提」があった可能性を考えるべきではないか、と問いかけているのが『流浪の月』なんですよ。
 しかしながら、「他人のことには口出しするな」と言われて、SNS時代のわれわれは、「そうですね」と引き下がれるのか。

 僕にとっては「純愛小説」「居場所を見つけた」なんてきれいごとではなくて、「人間が幸福になるには、他者を犠牲にしなければならないことがある。それでもあなたは、『自分の幸せ』を選びますか?」というのを突き付けられた小説でした。


 正直、嫌悪感もけっこうありました。
 こういう作品が支持されると、「感じの良い人」を盲信して付いていって傷つけられる子どもや若者を増やすリスクのほうが高いのではないか、とか、「魂が通じ合っている」という感覚と「洗脳」は紙一重ではないのか、とか。
 だからこそ、多くの人に読んでもらって、素直な感想を聞いてみたいとも思うのです。
 僕たちの多くは、たぶん、更紗をYahoo!ニュースのコメント欄で叩く人間だから(少なくとも、僕はそうです)。

 しかし、「誰を傷つけてもいいから、自分が好きなように生きる」っていうのは、実際はけっこうハードルが高いよね。大部分の人は、そこまでのことができるほどの「好き」を持てないまま死んでいくのではなかろうか。

 こういう賛否両論が分かれそうな作品が「大賞」に輝いたことは、『流浪の月』への「話題の本なら手にとる、ふつうの人々」の反応を知ることができるという意味でも、大変興味深いのです。
 個人的には、凪良ゆうさんが僕と近い年齢で、『銀河英雄伝説』の二次創作をやっていた、というのを知って、勝手に親近感を抱いております。


流浪の月

流浪の月

線は、僕を描く

線は、僕を描く

アクセスカウンター