いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

徳井義実さんの「想像を絶するだらしなさ、ルーズさ」が、他人事とは思えない。


https://news.goo.ne.jp/article/sanspo/entertainment/sanspo-sca1910240001.htmlnews.goo.ne.jp
hochi.news


 これはひどい……という案件ではあるのですが、正直、僕自身、これまでの人生で、「大事なんだけれど、自分にとっては面白くないこと」を「今日やらなきゃ……でも、今日はもう遅いから、明日にしようかな、明日なら間に合うよね……」と、先送りにしてきたことがたくさんあるので、あまり徳井さんを責めようという気にもなれなくて。
 だからといって、擁護しようもない、というのも事実なのだけれど。


 ネットでは、徳井さんはADHDではないか、という話も出ているようで、紹介されているエピソードも、「ああ、たしかにそうかもしれないなあ……」と思うようなものばかりなんですよ。

matome.naver.jp
ent.smt.docomo.ne.jp


 この「レンタルビデオは毎回延滞していて、MAX10万円」なんてエピソードも、芸人的には「面白いネタ」なのかもしれないけれど、売れていない時代であったことを考えると、信じられないような「ルーズさ」ではあるんですよ。

 ああ、でも、僕もこういうのはものすごく思い当たる節があって、期日直前になると、「返さなきゃ、返さなきゃ」って、すごくプレッシャーがかかるのだけれど、なんのかんので先送りにしてしまい、締切が過ぎると、「ああ、もう終わりだ……どうなるんだろう……怖いから、もうこのことは考えたくない……」と、「なかったこと」にしようと、放り出してしまう。
 だからといって、問題は「なかったこと」にはならないので、後でまとめてツケを払う、ということになるんですけどね。

 若い頃は、(携帯電話など無かった時代)誰かの家に電話するときも「今は、ご飯を食べている時間じゃないかな……」とためらい、「人気のドラマを観ているんじゃないか」と迷い、そのうち、「こんな遅い時間にかけたら失礼かな……」という気分になって、結局、電話をかけられない。
 それで本当に困るのは、自分自身と相手なのに。
 そういう「小さな気配り」のつもりだったもので、「大きな迷惑」を生んでしまうことが少なからずありました。
 人というのは、大きな理由で何もできなくなることよりも、「なんとなく今日じゃなくて明日に先送りしよう」としているうちに、いつまでも「明日」にならないで詰んでしまうことが、けっこうあるんじゃないかと思います。

 
 徳井さんの件に関連して、こんなエントリがありました。

shinjihyogo.hateblo.jp

 「面倒力」わかりすぎる……
 こういうのって、本人も、「そんな大事なことを先送りにしたら、後で痛い目にあう」ことは頭ではわかっているんですよね。
 でも、その場での「今は、面倒くさいことをしたくない」という心の声に負け続けてしまう。
 そして、いつのまにか時がたち、間に合わなくなると、もうそのことを考えないようにしてしまう。

 
 徳井さんの今回の件をみて、僕はこんな話を思い出してもいたのです。

fujipon.hatenadiary.com

 この本のなかに、売春をして、なんとか生活費を稼いでいるというシングルマザーの加奈さん(仮名)の話が出てきます。

 ショックだった。よくよく考えれば当たり前のことなのだが、シングルマザーで子供を抱え、誰からも経済的な援助の手を差し伸べられず、自らも稼ぐことができなければ、誰しもが加奈さんのような状況に陥りかねない。シングルマザーというものが、これほど社会的、経済的に崖っぷちの不安定な中にあることを、それまで僕は真剣に考えてこなかったのだと知った。
 いや、ここまで追い込まれる前に、なんとか仕事は探せなかったのか。これほどの困窮に陥れば、さすがに公的な支援を受けることだってできるはずだ。この時点ではまだ僕もそんな甘い考えをもっていたが、加奈さんを前に話を聞いていると、そんな正論が何の意味ももたないことを痛感する。


 ここまでの「加奈さん」の話を読んでいて、著者が書いている「甘い考え」って、日本の福祉行政は、ここまで困窮している人にも、援助してくれないのか……?と疑問になりました。
 そして、その「理由」を読んで、僕は絶句してしまったのです。

 まず彼女はメンタルの問題以前に、いわゆる手続き事の一切を極端に苦手としていた。文字の読み書きができないわけではないが、行政の手続き上で出てくる言葉の意味がそもそも分からないし、説明しても理解ができない。劣悪な環境に育って教育を受けられなかったことに加え、彼女自身が「硬い文章」を数行読むだけで一杯一杯になってしまうようなのだ。
 そんなだから、離婚して籍を抜くにしても、健康保険やその他税金などの請求について市役所で事情を話して減免してもらうにしても、なんと「銀行で振込手続きをすること」すら、加奈さんにとっては大きなハードルだった。18歳で取得した自動車免許も、更新手続きを怠って失効している。子供の小学校入学の手続きにしても、実質的に地域の民生委員が代行してくれたようだった。
 通常こんな状況なら、消費者金融などでさぞや大借金しているのだろうと思ったら、なんと彼女は借金の手続きすら苦手の範疇。唯一の借金は、サイトで知り合った闇金業者を自称する男から借りた2万円だという。
闇金さんね。貸してほしいって泣きながら頼んだけど、2万が限度だって。でもそれも、そのあとに3回ぐらいタダマンされたから、チャラかな」
 滔々とその生い立ちと現在の苦境を語る彼女を前にして、僕自身が思考停止になってしまった。


 徳井さんは、さすがにここまで「手続きができなかった人」ではなかったと思いますが、こういう人も実際にいるのです。
 
 徳井さんの場合は、「本当に手続き類が全然ダメで、まったく申告はせずに、指摘されたら言い値で払っていた」というわけでもなさそうですが。

 また同時に、2012年3月期乃至2015年3月期の税務申告において経費として計上していた旅費、衣服代等の一部が否認されるに至りました。なお、否認された経費の具体的な内容についてですが、チューリップ社としては税務調査に至った非を認め、修正申告の内容は国税局の指導に全面的に従ったものであったため、その否認された経費詳細については把握していないと税理士から伺っております。

 ちゃんと「節税対策」はやろうとしていたんですよね。個人事務所までつくっているし。
 まあでも、感覚的には理解できるところはあって、「自分にとって楽しいこと、やりたいこと、得になることにはやる気や集中力を発揮できるけれど、気乗りしないこと、やっても(気分的に)損だと感じてしまうこと」に対しては、「面倒くささ」のハードルが跳ね上がってしまう、というところは、僕にもあるのです(みんな大なり小なり、そう、なんだろうけど)。
 レンタルビデオとか、「借りるのは楽しい」けれど、「返すのは面白くない」。
 徳井さんは、「やりたくないことへの面倒くささのハードル」が、ものすごく高くなる人だったのではなかろうか。
 

 そういえば「新型うつ」っていうのもあったよなあ。一時期すごく耳にしたけれど、今はあまり聞かなくなりました。
 それが「病気」なのかどうか僕は専門家ではないので判断しかねるのだけれども、「仕事のための外出はできないけれど、自分が好きなこと、やりたいことなら、自由に外に出て楽しめる」というのは、本人にとっては「すごく苦しい」のかもしれないけれど、他者の理解を求めるのは難しいよね。


 これは、徳井さんという人が、性格的に「社会性」が欠落している一方で、妄想力というか発想力や「やりたいことをやる力」が突出して高くて成功してしまったことで生まれたトラブルではないか、という気がするんですよ。
 言い方は悪いかもしれないけれど、前述したような「手続きのできない女性」に関しては、世の中の多くの人は、「かわいそうに……」的な見かたをするのではなかろうか。
 でも、超高額収入者の人気芸人が「面倒くささ」に負けてしまうと、「納税の義務を果たせ!」と大バッシングされてしまう。

 率直に言うと、「この『脱税』は、あまりにも杜撰すぎて、なんだか悪意を感じにくい」ところもあるのです。
 みんな、もっとうまく「節税」しているだろうし、徳井さんにしても、何度も注意され、延滞金も払っていたのです。
 西原理恵子さんのような、「税務署と闘う!」という覚悟があったわけでもない。

 専門家にうまく任せて、マメに「節税」したほうが、よっぽどラクだったと思うし、本人もそれはわかっていたのではなかろうか。
 そこでまた、「税金という嬉しくないものをちゃんと払うために、信頼できる専門家をわざわざ探すなんて、面倒くさいよなあ、そのほうが良いことはわかっているんだけどなあ……」で、その年が終わり、また税務署に注意されて……だったのか……


 この徳井さんの件に関しては、「本人にとっては、やろうとしても、どうしてもできなかったことなのだ」という理由が受け入れられるのは難しそうなのは間違いありません。
 じゃあ、発達障害かどうかの診断を受けてみれば?という話になるのかもしれないけれど、「病気」という診断がついたら、「じゃあ仕方がないね」ということになるのだろうか。
 そう言い始めたら、世の中の全ての犯罪行為も「そういう病気なんだ、その人の性格だからしょうがないんだ」ということになってしまう、という怖さもある。

 ある人の「偏り」や「ルーズさ」をネタとして消費しながら、それが「脱税」となると、大バッシングされる。
 追徴課税でかなり余計に払ったのだから、それはそれでペナルティを受けた、ということにならないのだろうか。
 「レンタルビデオで延滞料金を払ったからといって、許されないぞ。なんでちゃんと返却日までに返さないんだ!」と責められる世の中というのも、ちょっときつい気はする。

 個人的には、徳井さんに関しては、今回はしばらくの謹慎にとどめて、復帰させてあげてほしい、と思っています。
 さすがに、もう1回同じ失敗を繰り返したらアウトでしょうし、そうならないためのサポートをする人なり組織なりを、ちゃんとつけるという条件で。

 僕は徳井さん、好きなんですよ。だから甘くなっているのは自覚しています。
 でも、「面倒くさい民」としては、他人事とは思えない……


fujipon.hatenablog.com

できるかなV3 (角川文庫)

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