いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「川淵ざまあ!」と言う準備はできていた、のだけれど。

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 最初に謝っておきます。僕はサッカー全然詳しくないので、ものすごく的外れなことを書く可能性が高いのですが、やっぱり何か書いておきたくてしょうがないので御容赦ください。


 正直、今回のワールドカップは、ハリルホジッチ監督の本大会直前での解任劇もあって、全く乗れないというか、「まあ、厳しいよね」と思っていました。
 ロシアに惨敗したサウジアラビアみたいなことにならず、少なくとも予選リーグの3試合くらいは予選突破の希望を残して観られればいいな、と。


 僕の中には、せっかくだから男子日本代表チームに頑張ってほしい、という思いと同時に、なんだかわけのわからない解任劇をやってのけたサッカー協会への不快感がずっとあったんですよ。
 予選を突破したのはハリルホジッチ監督だったのに、なぜいまさら「コミュニケ—ション不足」とかいう、曖昧な理由で監督を替えるのか、本大会前の練習試合をみてあれこれ言うのは、オープン戦だけをみてプロ野球の監督を替えるようなものではないのか。


 西野朗監督に恨みはないけれど、2か月でどうこうできるようなものとは思えないし、選ばれた選手は、本田、香川、長谷部、長友、川島と、4年前の惨敗したときのメンバーが、ただ年齢を重ねただけのようにもみえました。彼らは僕の見立てでは、4年前よりは確実に衰えていて、なんだか「無難であることを最優先にした選出」のようにしか思えなかったのです。他に選択肢が少なかった、というのもわかるけど。
 

 さすがに「負けろ!」とは思っていなかったけれど、負けたときに「やっぱりそうなると思った!」とドヤ顔でサッカー協会を批判する準備は万全だったのです。
 コロンビアには勝てないだろう、ものすごくうまくいって、スコアレスドロー、そんなものだろう、と。



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 さらに、今日はこんなツイートが流れてきて、僕は「日本代表には頑張ってほしいが、サッカー協会の偉い人たちは惨敗しろ!」と苛立っていました。
 もし日本代表が負けたら、「川淵ざまあ!」と言う準備はできていた。


 いやほんと、期待してなかったんですよ。これまでのワールドカップ本大会の中では、圧倒的な低信頼度。こんなんでコロンビアに勝つ可能性より、北斗無双でノーマルリーチが当たる確率のほうがよっぽど上だ。
 とりあえずお風呂に入って、せっかくのイベントだし、日本代表の闘いを見届けるか、今回は、初戦だけであとは消化試合になるかもなあ、と思っていたのですが……
 

 開始早々、いきなりコロンビアのハンドでPKをゲット。レッドカードで、コロンビアは10人になってしまいます。
 でも、ここでPKを外したりしがちなんだよな……
 そんなこともなく、香川がきっちり決めて1−0で日本先制!
 これって、圧倒的に有利な状況なのでは……もしかして、勝っちゃったりして……でも、こういう有利なシチュエーションで、最後に息切れして逆転負け、っていう、オーストラリア戦のことも思い出しました。
 前半は、1人少ないはずのコロンビアが積極的に攻めてきて、日本が守るシーンが多くなり、ついにコロンビアのゴールで1対1の同点に。川島、あとボール1個分前で取れなかったのか……うーむ。


 数的優位になりながら、逆転負け、という悪夢のシナリオが現実になるかと思われたのですが、後半になるとコロンビアもスタミナが切れてきて、28分、本田のコーナーキックから、大迫のヘディングで決勝点をあげ、長い長い残り時間をなんとかしのぎきって、2対1で、歴史的な勝利!
 いやもちろん、これで終わり、というわけではないのですが、まさか、あの強豪コロンビアに勝つとは!


 この試合をみて、僕がいちばん感じたのは、西野朗監督というのは、本当に「勝ち運」みたいなものを持っている人なのだなあ、ということでした。


 1996年アトランタオリンピック・男子サッカーグループリーグD組第1戦で、日本五輪代表がブラジル五輪代表を1対0で破った試合、僕も当時の職場のテレビで観ていたんですよね。最後はブラジルに攻められまくっていたものの、なんとかしのぎきって勝ったときには、狐につままれたような気分だったのです。
 日本がブラジルにサッカーで勝ってしまって良いのだろうか……
 このときの監督が、西野さんだったんですよね。
 監督として、人生で二度もこんな奇跡を起こす人がいるのか。
 この五輪予選は、ブラジルに勝ったものの、決勝トーナメントには進めなかったので、今回はなんとか予選を突破していただきたい。


 あらためて考えてみると、この試合は、なんといっても、試合がはじまってすぐのハンドで、コロンビアの選手が1人退場+PKでの先取点というのが大きかったんですよね。
 前半は、11人対10人でも押されてる……という感じだったのですが、85分間、10人で11人分動かなければならなかったコロンビアの選手たちは、試合の終盤ではかなり疲れていました。
 ゴール前でも、「攻める人数が足りない」状況だったのです。
 さらに、同点の時点で勝ち越そうとして、負傷が伝えられていたエース、ハメス・ロドリゲス選手を投入したのですが、やっぱりコンディションが良くなかったみたいで、あまり動けず、かえって他の選手の負担が増してしまったようでした。
 それでも、決定力がある選手であることは間違いないとは思うのですが、結果的には、数的不利にもかかわらず、積極的に勝ちにきたことが、日本代表にとっては幸いした感じです。今日はもう引き分けでいいや、というスタンスで守備重視でやってこられたら、勝ち越すのは難しかったはず。


 それにしても、西野監督の勝ち運というか、勝負勘はすごかった。
 大迫選手が素晴らしかった。ブンデスリーガでプレーしているだけあって、テクニックだけではなくて、当たり負けしない身体的な強さがありました。
 トップ下に起用され、PKを決めた香川選手は、「選考洩れするのでは」なんて話もあったんですよね。そして、香川選手に替わって入った本田選手がコーナーキックで大迫選手の決勝点のお膳立てをして、その後も本田選手のキープ力でだいぶ時間を稼ぐことができました。序盤の幸運によるアドバンテージ+打つ手がすべてうまくいったという、まさに「すべてが噛み合っての勝利」でした。
 

 試合後のインタビューで、「西野監督になってから雰囲気がよかった」というようなコメントをしていた選手がいましたが、「厳格なハリルホジッチ監督から、話が通じる監督になって息苦しさがなくなった」という感じだと思うんですよ。
 そういう意味では、今回の監督交代は、まさに絶妙な「緊張からの解放」のタイミングだったのかもしれません。もちろん、チームの下地をつくったのは、間違いなくハリルホジッチ監督だとは思います。
 そして、今日は、序盤からこんなスーパーラッキーが訪れるなんて!


 すごいものを観た!
 これぞまさに、ジャイアントキリング


 しかしながら、僕の中には、「やっぱり勝つと嬉しいな」という気持ちとともに、試合開始前まで、「こんなんで勝てるわけがないだろ、サッカー協会の偉い人たちざまあ!」と言う気満々だった、という負い目、みたいなものもあるんですよね。
 勝ったとたんに掌を返して、「日本代表、感動をありがとう!」とか言えるかというと、さすがにそこまで開き直ることもできない。
 むしろ、「ああ、川淵さんのドヤ顔が見えるようだ……」と、溜息のひとつもつきたくなります。
 でも、こうして強豪・コロンビアに勝つ、という圧倒的な実績を残してしまうと、世の中は「日本代表、西野ジャパン、感動をありがとう!」というムードに染まっていくんでしょうね。
 そして、「土壇場で監督を替えたサッカー協会の『英断』」が称賛されることになるはずです。


 勝負の世界は、結果がすべて。
 選手も監督も素晴らしい仕事をしてくれた。
 それはわかるし、負けるより勝つほうがはるかに良いのだけれども、もうしばらくワールドカップを出場国の人として楽しめそうな喜びとともに、世の中というのは、理不尽というか、割り切れないことが起こるものだよなあ、という、なんともいえないもどかしさ、も感じているのです。


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