いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

「PTAやばい」。でも、「PTA的なもの」を捨ててしまうのも難しい。

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 PTAの活動に対する疑問が、ここにきて一気にネットから噴出してきた、という感じですね。
 僕自身はそんなに深くPTA活動にコミットしているわけではありませんし、子どももそんなに規模が大きくない小学校に通っているので、多くの公立小学校とは状況が異なるのでしょうけど、ときどき垣間みる範囲でも、PTAって大変だよな、って思うのです。
 PTAそのものの活動もそうだし、PTAに付随する「親どうしも仲良くしましょう!」みたいなのが、人付き合いが苦手な人間としては、けっこうキツいのです。
 そういうのを「同じような職種に限定されがちな人間関係を拡張するチャンス」だと思えればいいのだけれど。


 ただ、僕の個人的なつらさはさておき、学校という組織と保護者の関係を考えると、どこかで接点は必要でしょう。
 いろんなイベントや問題に対して、保護者個人個人が学校と直接向き合っていくというのは、とくにトラブルが起こった際などに、お互いに負担が大きくなりすぎるのです。
 問題は、時代が変わっているのに、ずっと昔のままのPTAの活動内容にあるのかな、という気がします。


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 東京都の南端にあるA小学校(児童数約730人)では、PTAをやめ、PTOに改組してしまいました。会長と副会長を中心に、役員たちが各委員を束ねる従来の組織から、すべてをボランティアで運営するかたちに変えたのです。
 お堅い、こわ〜い印象があった「役員会」は「ボランティアセンター(ボラセン)」に、「PTA会長」は「団長」に名称を変えました。本書では、私がPTO団長として3年間、仲間といっしょに進めた組織のイノベーションを紹介していきます。


去年の春、この本を読みました。
PTA会長として改革に取り組んだ人が書いたものなのですが、著者は、みんながやりたがらなかったPTAから、「会議のための会議」の頻度・時間を減らし、役職を整理・統合し、PTA活動を、子どもたちと一緒に保護者も楽しめるものに変えていこうとしたのです。

そこで、やりたい人が企画し運営する「この指止まれ方式」を採用することにしました。重要度などを考えて役員会でプロジェクトを起案し、案件ごとに参加希望のボランティアを募る方法です。
 参加希望のボランティアが集まらないプロジェクトは、運営するのが困難なため、開催ができないこともあるというルールを設け、「夢プロジェクト」として保護者にもお知らせしました。
 新規のプロジェクトについては、学校・地域の行事や事情などを考慮して役員会で調整しますが、会員からの提案も受け付けることにしました。
 その第1弾として、5月のとある日曜日に「逃走中 IN A小学校」を企画しました。
 役員会で子どもたちに聞いたところ、テレビの人気番組『逃走中』をやってみたいという声が大きかったのです。
『逃走中』はいわば大がかりな鬼ごっこで、ハンターと呼ばれる鬼に捕まらずに一定時間を逃げ切れれば勝ち(高額の賞金を手にできる)。テレビでは芸能人たちが参加して、ハンターから必死に逃げ回るのですが、あちこちに仕掛けられたギミック(ハンターが増えたり、捕まった人に再挑戦のチャンスが与えられたりする)が絶妙で、見ているだけでもおもしろいものです。これをみんなでやってみようということになりました。
 A小学校の裏手には、河川敷が広がっています。そこを舞台にしました。ちなみにこのプロジェクトは、新しく副会長になった3人(男性2人、女性1人)が中心になって構想したものです。


 この『逃走中 IN A小学校』は大きな反響を呼び、350人もの子どもの申し込みと、50人のハンターをはじめとする、180人ものボランティアが集まり、大成功をおさめたそうです。
 「ああ、うちの子も、これ、参加したがるだろうなあ」と思いましたし、ニヤニヤしながら「ハンター」に扮している大人たちの姿も目に浮かんできます。
 もちろん、すべてのイベントが、こんなにうまくいくわけではないのでしょうけど、親というのは、子どもが喜ぶ姿を見たい、と思うものではあるんですよね。
 やっていることが「子どもの喜び」に直接繋がることであれば、協力したいという親は、けっこう多いのかもしれません。
 

 著者の改革のすすめかたを読んでいくと、ホームページの作成や、ボランティア登録をネット上で行なうシステム、メールでの連絡など、インターネットをうまく利用していることもわかります。
 僕も小学生の親になってみて、現代の学校の「IT化」に驚かされているのですが(子どものテストの成績も、パスワードを入れればネットで見られるんですよ、もう、のび太も0点の答案を隠せない!)、PTA(PTO)活動のような「都合がつく人の参加を広い範囲で求める」場合に、ネットというのは非常に有効なツールだと思います。


 最近では、多くの学校で、イベントが雨天中止になるかどうかもホームページ上で確認できるようになっていますし、親どうしがLINEで情報交換もしているようです。
 そういうのが鬱陶しいんだよ!っていうのも、理解できるんですけどね。僕もfacebookとか苦手だから。
 とはいえ、システムを効率化して負担を減らすことは可能だし、PTA活動が全部悪い、というわけではなくて、子どもを喜ばせるためなら協力したい、という親は少なくないみたいです。


fujipon.hatenadiary.com

こちらはフランスの少子化対策や子どもの教育事情について書かれた本なのですが、「親を日本のPTA的なものから解放すると、どんな感じになるのか」を考えるヒントになりそうです。
保育園の話なので、もちろん、小学校のPTAとは異なるところもあるでしょうけど。

 フランスの保育園は、「子供が健やかに発育するところ」であるのと同時に、「保護者の負担を軽減するところ」。お世話になってみると、その保育園運営の根本にあることを実感します。実際、求められる保護者参加は必要最低限でした。
 保護者は朝、子供を年齢別の保育室まで連れて行き、担当の保育スタッフと「その日の子供の状態」について話をします。夕方にお迎えに行くと、保育スタッフが食事や昼寝、排泄状況などを保護者に報告。これは口頭のみで行なわれます。
 子供が洋服を着替えるのは食事や排泄などで濡れてしまった時だけで、その場合は汚れた服がビニール袋(園配布)に入れて返されます。本人に不快感がない程度の汚れであれば、着替えずにそのままです。我が家の場合は1年間で数回、トイレトレーニング中はその回数が少し増えたかしら、という程度でした。
 保護者会はなく、他の保護者と交わす会話は毎朝毎夕のご挨拶程度。日々のやりとり以外の保育園とのつながりは年に1回の説明会、年1回の個人面談、年に2回の季節行事(クリスマスと年度末のお祭り)に限られます。その行事の運営にも基本的に保護者が参加することはなく、「ご招待」での出席でした。私の場合、保育料以外で園に貢献したのは、長男・次男合わせてティッシュ4箱と生理食塩水4箱。バカンス明けのお土産や、年度末に担任の先生へ感謝のプレゼントを渡す慣例がありますが、プレゼントも千円くらいの小さなもので、当然、渡さない保護者もいました。
 保護者に対して最低限のことしか求めない考え方は、フランスにおける保育園の始まりに由来しているようです。


日本では考えられないくらい、フランスの保育園では、親の負担が軽減されているのです。それは保育園が「保護者が働くことへの援助」であり、そこでは極力親の負担を減らすのが当然のことだ、という考えに基づくものなんですね。
 親と園との「連絡帳」もフランスには存在しないそうです。
 ああいう「義務的なやりとり」がないだけでも、だいぶ負担って、減りますよね。
 その一方で、入園式や卒園式、運動会やお遊戯会もない、というのには、日本育ちの著者は「素っ気なく感じられることも多々あった」と述べています。


 これ以上、学校の職員の負担を増やすべきではないし、親もやりたくない、というのであれば、こういう「学校行事を極力減らす」方向にシフトしていかざるをえないでしょう。
 運動会などのイベントの運営は、お金を払って、専門の業者に頼めばいい、という意見もあるのでしょうけど、それはそれで金銭的な負担もかかるし、全国どこでも、それを頼める業者がいるとも思えません。


 正直、僕はそんなにイベントにこだわらなくても良いんじゃないか、とは思うのだけれど、半強制的なPTAであれ、ボランティアであれ、学校行事での「子ども(との)思い出づくり」のためには、多かれ少なかれ、保護者がコミットすることが求められるのです。
 子どもの側は、けっこう「運動会なんて、無くてもいい」って思っているのかもしれませんが(少なくとも僕はそういう子どもでした)。


 個人的には、PTAをいきなり無くす、というような急激な改革よりも、ムダな会議や惰性で続いているイベントをやめてしまうほうが現実的だとは思うんですよね。
 IT化で、負担を軽減するための工夫は可能になっているし、いまのほとんどの保護者はスマートフォン、あるいは最低限のネット環境は持っているでしょうし、実際に、少しずつ変わってきてもいるのです。
 

PTA、やらなきゃダメですか?(小学館新書)

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フランスはどう少子化を克服したか(新潮新書)

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