特別お題「青春の一冊」 with P+D MAGAZINE
その本がものすごく売れている、ということは男子校の寮で生活していても、耳に入ってきていた。
学校の図書館で手に取ったのは、流行ものにとりあえず目を通しておこうか、というくらいの気持ちでしかなかったのに。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/09/15
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- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
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村上春樹『ノルウェイの森』。
あまりにも、ベストセラーになりすぎてしまった小説。
歴史小説や西村京太郎さんのトラベルミステリーばかり読んでいた17歳の僕は、主人公ワタナベと永沢さんが日替わりでいろんな女の子を口説いて寝る、というのを読んで、「大学生って、こんなに好き放やりまくれるのか……」ということに驚いたんですよね。
そもそも、こんなに売れている「純愛文学」が、そんな場面ばっかりで良いのだろうか、なんなんだ日本文学!
……とか思いつつ、「そういう期待」が、僕の大学受験への意欲を底上げしてくれたことも否めません。
その「期待」に関しては、結局、「ぜんっぜん、そんなことないじゃねーか、村上春樹の嘘つき!」と毒づきたいところもありますが、大学に合格したのは、ワタナベと永沢さんに騙されたおかげかもしれません。
田舎の頑なな高校生だった僕にとっては、なんだかすごく心がざわざわする小説だったんですよね。
直子の「こわれやすさ」はとても魅力的にみえたのだけれど、のちに直子と同じような病気の人と接するようになって、「直子のイメージと目の前にいる人がこわれているときのギャップ」に打ちのめされたこともありました。
ワタナベが「あんなこと」をしなければ、直子はあちら側へ行ってしまうことがなかったのかもしれない。
いや、ワタナベがいたからこそ、なんとか「つながりを保っていられた」のだ。
わからないよね、結局、よくわからない。
そういう「わからないことは、わからないままでしょうがないんだ」ということも、少し教わった気がするのです。
緑との火事を眺めながらのキス。
緑のお父さんとのキュウリを食べながらの「エウリピデス」。
直子が死んだあと、ワタナベが放浪する場面で、「母親が死んだから、悲しくて旅をしている」と嘘をついたら、それを信じて寿司と5000円札をワタナベに持ってきてくれた地元の男。
僕はこの場面が、けっこう好きなんです。ワタナベが「お前なんかには想像がつかないほど、美しくて大事なものが失われてしまったんだ」と内心この若い男に毒づきながら、ちゃっかりと寿司を食べ、お金ももらってしまうところが。
最初に読んだときは、この場面大嫌いだったんですが、今は、こういうのが「リアリズム」というか、人間のしぶとさなんだろうなあ、という気がします。
そして、ワタナベのアパートでレイコさんがギターを弾く「直子のお葬式」。
あれでギターを始めようと思って、大学時代に先輩にもらったギターの練習をしてみたのだけれど、あっさり挫折してしまったんだよなあ。
『ノルウェイの森』くらい、弾けるようになっておけばよかった。
のちにビートルズの『Norwegian Wood』という曲のタイトルは、「北欧製の家具」という意味だというのを知って、苦笑したこともあったっけ。
緑に対しても、初読のときには「直子を裏切ったワタナベ」みたいな気がしていたのだけれど、人というのは、こんなふうに心が移っていく生き物なのだな、とわかってきました。
それは、正しいとか間違っているとかじゃなくて、「そういうもの」なのだな、って。
あれから人生の節目らしきところで何度も読み返し、そのたびに違う印象とか発見(自分自身に対しても)がある小説なのですが、いつのまにか、僕は「ねえ、アレやらない?」のときのレイコさんよりも年を重ねてしまいました。
僕にとってのこの小説の「宿題」は、「突撃隊のゆくえ」なんですよね。
初読のときには「風景写真で自慰をやっている」とからかわれるような、ネタキャラという印象しかなかったのだけれど、彼は、ワタナベの前を、大学を去って、どこへ行ってしまったのか。
どこかに、自分の居場所を見つけることができたのだろうか。
突撃隊のような人たちを切り捨てることが「合理的」なのだと、あの頃の僕たちは、思いこんでいたのではないか。
そもそも、僕は「突撃隊側の人間」ではなかったのか。
「青春の一冊」というか、いまでも、僕に影響を与え続けている小説です。
最初に読んだときは「これがベストセラーってことは、みんなこんな性描写が多い本を読んでいるのか!」って感じだったのに。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/03/13
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