いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

ベニー松山さんの『隣り合わせの灰と青春』がKindle化された。

fujipon.hatenablog.com


 ちょっと前にこれを書いたとき、そういえば、と思い出したのです。
 「ウィザードリィ小説」といえば、ベニー松山さんの『隣り合わせの灰と青春』だよなあ、って。
 『ファミコン必勝本』に連載されていたんですよね、この作品。
 あれほどたくさんあったファミコン雑誌も、名前が残っているのは、いまや『ファミ通』だけになってしまったものなあ。
 リアルタイムで読んだときには「すごく面白いなこれ!」って、けっこう感動した記憶があったのですが、今読んだら、どうだろう?
 実在のゲームを題材にした小説のなかで、いまでも語り継がれている数少ないタイトルのひとつでもありますし、電子書籍をよく読むユーザーにも合いそうな作品なので、電子書籍化されているのではないか、と検索してみたのですが、Amazonでは昔の紙の本が見つかっただけでした。
 うーむ、もう一度読んでみたかったけれど、また今度にするか、思い出は美しいままにしておいたほうが良いのかもしれないし……


 ところが、一昨日、Amazon電子書籍ランキングをみていて、驚いたのです。
 なんと、1位から20位という最初のページに『隣り合わせの灰と青春』が!


隣り合わせの灰と青春 (幻想迷宮ノベル)

隣り合わせの灰と青春 (幻想迷宮ノベル)


 この時期にようやく電子書籍化されたのは、矢野徹さんの『ウィザードリィ日記』がけっこう話題になったから、なのかもしれませんね。
 

 早速購入し、25年ぶりくらいに再読してみたのです。
 でも、昔の小説だからなあ、あまり期待値あげすぎないようにしないと、なんて自分に言い聞かせつつ。


 一気読みして驚きました。
 「懐かしさ補正」を効かせなくても、面白かった。
 正直なところ、『ウィザードリィ』というゲームを何一つ知らない人が読んだら、「面白いとは思うけれど、この凄さは伝わりにくいかな」とも思うのだけれど。
 なぜかというと、この『隣り合わせの灰と青春』という小説は、『ウィザードリィ』というゲームの世界観だけではなくて、呪文の効果や使用制限、寺院で復活できるかどうか、「善」と「悪」(そして「中立)のキャラクターの属性、ダンジョンの構造など、さまざまな「ゲーム内の要素」を物語にうまく織り込みつつ、違和感のない世界をつくりあげているから、なんですよ。
 ファンタジー小説としての人物描写や世界観と、実際に『ウィザードリィ』をやった人なら、読んでいて、「そうそう、こんなことあったなあ」と思い出してしまうような迷宮での恍惚と不安。
 「1から10まで」書くのではなく、「冗長になりすぎず、それでいて、読みごたえのある」ボリューム。
 努力、友情、勝利、謎解き、そして恋。
 読んでいて、もしかしたら、これが日本のファンタジー小説の最高峰だったのではないか、とか考えてしまいました。
(少なくとも、「ファンタジーゲーム小説」の最高峰ではあると思います)


 読みながら、僕がまだ十代だったころのことも、ポツリポツリと頭に浮かんできたんですよね。
 そうそう、昔のゲームって、グラフィックもサウンドも今にくらべたら簡素の極みだったけれど、だからこそ、こんなふうに自分でストーリーを思い浮かべながら遊んでいたよなあ、って。
 「1本道でムービーを見ていくだけ」のゲームだって楽しいけれど、どうしても「やらされている」感じにはなるのです。
 なんのかんの言っても、そっちのほうがラク、というのも事実だはあるのだけれど。


ウィザードリィ』は、ちょっと油断すると、どんなに長時間かけて育てたキャラクターでも「ロスト」してしまうゲームだったから。
 ああ、当時の僕は、ワードナを倒して一旗揚げようとしている「まだ何者でもなくて、でも何者かになりたくてしょうがなかった若者たち」に、自分の姿を重ねあわせて読んでいたのだよなあ。
 僕にとっての「社会」ってやつは、ワードナの地下迷宮みたいなものだった。


 僕は「英雄」にもなれず、「灰」にもならず、こうして細々と生きているわけですが、あの頃は、こんな宙ぶらりんのまま、年を重ねていくなんて、思ってもいませんでした。
 そういうのを受け入れていくプロセスが、人生というものなのかもしれない。

 狂暴な君主として悪名高いトレボー王の城に隣接した広大な訓練場では、今日も日暮れ近くまでに十人程度の流れ者たちが、大魔導師ワードナを倒して魔除けを手に入れ、近衛兵に取り立ててもらうという半ば賭け事じみた冒険の新参者として名乗りをあげていた。しかしそのほとんどが二、三日中に尻尾をまいて逃げ出すか、そうでなければ死んでしまう。おかげで、この城塞都市がどうしようもないほどの冒険者の大群に悩まされる、などという事態は起きないのであるが。


 本当に、今読んでもこんなに面白いとは予想していなかったんですよ。
 そういえば、最初にこの『隣り合わせの灰と青春』を読んだとき、ベニー松山さんは、きっと売れっ子作家になって、どんどん作品を発表していくんだろうな、と思ったのですよね。
 結局、ベニーさんは作家としては寡作で、あまり表舞台に出ることもないまま、山下章さんたちとつくった「ベントスタッフ」で、ゲームのシナリオや攻略本をつくりつづけておられるようです。
 人生って、一筋縄では、いかないものだよなあ。


 僕は「灰」にはならなかったけれど、「青春」と呼べるようなものもなかったような気がします。
 でも、あの頃の僕には、テレビゲームと『隣り合わせの灰と青春』があったのです。



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