いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

スポーツの秋にオススメしたい、「スポーツノンフィクション10選+α」

僕は「ネタがない」「書けない」って思うことはほとんどないのですけど、なんとなく書くことがない秋の日なので、本の「10選」を。
今回は、「スポーツの秋」ということで、「スポーツノンフィクション10選」にしてみました。
僕はノンフィクションを読むのが好きで、とくにスポーツノンフィクションは「好物」なんですよね。
自分がスポーツの世界とは縁遠いだけに、そこで何が行われているのか、選手たちはどんなことを考えているのかに、すごく、興味と憧れがあるのです。
スポーツの世界って、みんな百戦百勝、というわけではなくて、勝つこともあれば、負けることもある。
そういう中で、いかにモチベーションを維持していくか、とか、負けたあとにどうしていくか、って、けっこう参考になると思うのです。
ありきたりなセレクトですが、今回も、「僕が実際に読んで、本当に面白かった」ものを集めてみました。



オシムの言葉 (集英社文庫)

オシムの言葉 (集英社文庫)

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川口能活は言う。「監督は先発を発表するときに出せない選手に必ず謝るんです。本当は全部出したいんだ、と。すごく僕たちを大切に考えてくれる。何より選手を見るときに、すごくいい表情をされるんです」そう、その笑顔をまた見てみたい。

 オシムさんは背景にいろんなドラマを抱えている人なのだけれど、この人は本当に「サッカーと、サッカーをやっている人間が好き」なんですよね。
 指導者にとって、それがいちばん大事な資質なのかもしれません。
 これは、次の本のザッケローニ監督にも言えることですが。


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 この『監督日記』は、「記録する」っていうのは、すごく大事なことなのだな、と、あらためて考えさせられる本でもあります。

 「ワールドカップで2敗1引き分けで、日本国民をがっかりさせたチーム」だと思っていた「ザックジャパン」への印象が、この本を読むと、大きく変わってくるのです。

 この本は、「そのなかで起こっていたこと」を語ることによって、「ザックジャパン」の歴史的な評価さえも、動かしてしまいました。


 ザッケローニ監督は、本当に日本という国を愛してくれていたのです。
>>
「大輔、もし何年か後に私のことを聞かれたら、こう言っていたと伝えて欲しい。代表戦を行うたびに超満員のサポーターが熱い声援を送ってくれる。こんなに素晴らしい国は、世界中のどこを探しても他にない」<<

 僕も、あの東日本大震災原発事故のあと、日本を離れる外国人も多いなか、すぐに日本に戻ってきたザッケローニ監督が、「ただ日本のためになりたい」って言ってくれたことを、ずっと忘れません。



4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ 涙の球団史

4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ 涙の球団史

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他球団ファンでも涙無しには読めない一冊です。
がんばれ、横浜! そして、横浜ファン!(ただし、カープ戦以外で!今年はかなりやられちゃったし……)
野球ファンなら、絶対に読んで損はしませんよ。
中畑清監督、本当に、おつかれさまでした。



「弱くても勝てます」―開成高校野球部のセオリー―

「弱くても勝てます」―開成高校野球部のセオリー―

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「グラウンドでやるのは『練習』ではない」


 監督は意味不明なことを言った。


――練習じゃない?


「『練習』という言葉は、同じことを繰り返して体得する、という意味です。しかしウチの場合は十分に繰り返す時間もないし、体得も待っていられません。それにそれぞれが繰り返すべき何かをつかんでいないわけですから、『練習』やダメなんです」


――それで何を?


 私がたずねると監督は明快に答えた。


「『実験と研究』です」

 開成高校の野球部を取材した、異色のスポーツ・ノンフィクション。
 弱くても勝てる(こともある)。



甲子園が割れた日―松井秀喜5連続敬遠の真実 (新潮文庫)

甲子園が割れた日―松井秀喜5連続敬遠の真実 (新潮文庫)

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この本を読んで、あの試合で、もっとも人生を狂わされたのは、明徳の選手や監督でも、敬遠された当事者の松井選手でもなく、松井の後、星稜高校の5番を打った選手だったのかもしれない、という事実に、あらためて気付かされました。



1985年のクラッシュ・ギャルズ

1985年のクラッシュ・ギャルズ


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「試合に負けることは快感だ」と千種は言う。
 負ければ、観客の視線を独占することができるからだ。

 プロレスの「本質」みたいなものに踏み込んだ傑作。


木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか

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「全盛期を過ぎていたとはいえ、史上最強の柔道家であった木村政彦が、相撲で関脇止まりだった力道山に、負けるはずがない」
 その思いから、この評伝は書き始められました。
 しかし、著者は「あの試合」について検証していくうちに「迷い」を感じることになるのです。
木村政彦は、力道山にだまし討ちにされたのか? 実力勝負なら、勝っていたのか?」
 「あの試合」について、著者が出した「結論」は、実際にこの本を読んで確認していただければ幸いです。
 この分厚さには、理由がある。読んで損なし、です。



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「どんどん強い相手、チャンピオンと闘わせればいいのに」と、観客席にいる僕は思うのですが、選手やジムの会長にとって、勝って、世界ランクが上がっていくことは、「その選手の限界に近づいていくこと」でもあります。
 ごく一部の「無敵の天才」を除いては、ボクサーの「選手寿命」というのは、マッチメイク次第。
 どんな相手と、どんな順番で闘っていくかによって、大きく変わっていくのです。



銀の夢―オグリキャップに賭けた人々 (講談社文庫)

銀の夢―オグリキャップに賭けた人々 (講談社文庫)


 この本だけ、ブログに書いた感想のリンクが無くて申し訳ないのですが、読んだのは僕が大学生の頃だったので、もうだいぶ前になるんですよね。
 あれから、競馬ブームがやってきて、僕もかなりたくさんの「競馬本」を読んだけれど、結局、この本ほど「競馬と、それに関わる人びと」のことを多面的に取材し、ドラマチックに描いた作品には出会えていません。
 出てくる騎手はほとんど引退し(いまも現役なのは、武豊さんくらい)、小栗孝一オーナーも先日亡くなられ、オグリキャップ自身も、2010年に鬼籍に入っています。
 オグリがまだ生きていた時には、「結局、種牡馬として血を後世に残すことはできなかった馬じゃないか(今後、母系で「こんなところにオグリの血が!って喜ばせてくれるのではないか、と夢想することはあるのですけど)」と思っていたのですが、オグリキャップほど、人々の「記憶」に残っている馬というのは、前にはハイセイコーシンボリルドルフ、後にはディープインパクトオルフェーヴルくらいしかいないんですよね。
 いや、競馬ファン以外の人にとっても、「社会現象」として認知されているのは、ハイセイコーオグリキャップだけではなかろうか。
 ある意味「血を残す」よりも「記憶に残る」ことのほうが偉大だよな、と思うんですよ、なんだかね。
 オグリキャップのことを知らない人が今読んでも面白いと思うので、興味を持たれた方は、ぜひ。
 


ラスト・ワン

ラスト・ワン

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「どん底」から、中西選手は這いあがろうとしていきます。
 一筋縄でいくような簡単なことではないし、人生には、必ずしも、感動のクライマックスが待っているわけでもありません。
 それでも、中西麻耶は、生きていく。


 以上、10作品を挙げてみたのですが、番外編として、2つの作品を挙げておきます。
 ひとつは、僕にとって「ノンフィクションとは何か?」を考えさせられた作品、もうひとつは、「破天荒モノ」です。


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このエントリのなかで触れているのですが、ランス・アームストロング選手のこの「自伝」、読んだときには涙が止まらなくなるくらい感動したんですよね。
それがあのドーピング疑惑……
僕の感動を返してくれ……と言いたいところではあるのですが、結局のところ、世の中で「ノンフィクション」と銘打たれているものは、必ずしも、すべてのことが書かれているわけではない、ということなんでしょうね。



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 中野渡進さんは、横浜ベイスターズの中継ぎ投手として短期間でしたが大車輪の活躍をしていて、「今日も中野渡投げるのか……」と、他球団の選手ながら、「ちょっと使い過ぎなんじゃないの?」と思いながら観ていました。
 この本、その中野渡さんが現役時代、そして、プロ野球を引退してからのエピソードを語っているのですが、これがもう、本当にすごい、というか、プロ野球の世界って、こんな「超体育会系」だったのか……そして、そこで戦っている選手たちは、こんなにも個性的で面白い人たちなのか!と驚かされます。
 スポーツ系のノンフィクションって、ストイック、ドラマチックに偏りがちなのだけれど、こういうのを読むと、なんだかちょっと安心します。



 以上、かなりベタなラインナップではありますが、どれも「本当に面白いスポーツノンフィクション」ですよ。
 あと、このジャンルって、意外と名著のkindle化率が低いみたいです。ちょっともったいない。

 ビジネス書も悪くはないけれど、「スポーツの世界で、頂点を目指して苦闘する人々の物語」って、実に「濃い」のです。

 

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