『本の雑誌』の2015年8月号(No.386)の特集は「人はなぜ本を返さないのか!?」でした。
僕は最近けっこう図書館で本を借りて読んでいるのですが、正直なところ、「他人にものを借りる」のは苦手です。
借りた瞬間に「返すときのこと」ばかりが気になります。
返却期日に間に合わなかったらどうしよう、とか、破損してしまったらどうしよう、とか、もっとシンプルに「返すのがめんどくさいな」とか。
返して終わりにしてしまえば、そこで解放されるのでしょうけど、一度「借りる」という習慣ができてしまうと、「せっかく図書館に行くのに、返すだけ、っていうのは、なんかちょっともったいないよな」と、結局また他の本を借りてしまい、返す日まで不安、の繰り返し。
やらなくてもいい自転車操業を、自分でやってしまっているのですよね。
僕の知人は、「他人からでもTSUTAYAからでも公共機関からでも、とにかく『借りる』ということそのものがプレッシャーになってイヤだから、本もCDもDVDも読みたい、聴きたい、観たいものは購入する」そうです。
それじゃお金がかかるだろ、と言うと、「いや俺は酒も飲まない、タバコも吸わない。他にカネがかかる趣味もない。本もCDもDVDも、欲しいだけ買っても、月に数万くらい。映画とかはCSで録画した分を観るだけでもかなり充実しているから」と説明してくれました。
たしかに、「借りて、返す手間」みたいなものまで考えると、借りるという選択は、人によっては「最良」とは言いがたいのかもしれませんね。
この『本の雑誌』の特集のなかにも出てくるのですが、本の場合、「他人に貸す」という行為には「布教活動」的な要素もあって、興味もないような本を貸してもらうと困るし、感想を求められると、さらに困る(教祖の著書とか、貸されてもどうすればいいのやら)。
こちらは、どんな本でも「知り合いから借りる」のは面倒なのに「貸したがる人」がいるんですよね。
「欲しかったら買うからいいよ」って言いたいのだけれど、それはそれで角が立ったりもするからなあ。
前述の知人のように「絶対に借りない主義」を徹底しておくというのは、ある種の護身にはなるかもしれませんね。
この『本の雑誌』の特集、たいへん興味深い内容だったのですが、その中で、興味深かったものをいくつか。
「本の貸し借りにまつわる法律Q&A」という木村晋介さんのコーナーより。
Q:本を借りていますが、返さないでほっておいてもいいのでしょうか。
A:そうはいきません。民事裁判を起こされて、本の返還や、本に代わる損害賠償を求められることがあります。
Q:その裁判では必ず借りたほうが負けるんでしょうか。
A:本の表紙は何色ですか。
Q:そんなこと関係あるんですか。青ですが。
A:じつは教えたくないことなんですが、ここだけの話ですが、強力なカウンター攻撃があります。それは、本の返還などを求める原告に対して「私は借りた覚えがない」堂々と突っぱねるのです。
この場合、貸主は、本を貸したことを客観的に証明しなければなりません。ええっ、そんな! ここで原告は、あなたが借りた本の表紙のように青ざめるのです。これは、悪魔にしかできない手法です。あなたには、こんな卑劣な方法は使ってほしくないです。使う場合でも、私に教わったということだけは絶対言わないでください。
これはひどい……
でも、私的な本の貸し借りのときに借用証をつくる人なんてまずいませんから、人間関係を犠牲にしてよければ、裁判にはまず勝てるのではないかと思います。
fujipon.hatenablog.com
このエントリを以前書いたのですが、今回の特集のなかで、千代田区図書館で借りた『仕事が人をつくる』(小関智弘著/岩波書店)という本を失くしてしまった編集部の松村さんが、同図書館にお詫びに行く、という企画がありました。
僕の場合は、「同じ本を入手してくるか、金銭による弁償」の選択肢があって、「お金」を選んだのですが、千代田区図書館では、どうなったのか?
——すみません、二ヵ月も放置してしまって。報告するとどうなるんでしょうか。
坂本香織さん(千代田区図書館フロアサービスチーフ):千代田区図書館の場合は、家の中で、もうちょっとがんばって探せば出てくるかもしれないという時には、お申し出の日から一ヵ月間お探しいただくというかたちにしています。それでも見つからなければ、基本的には同じ本を買ってお持ちいただきます。
ーー『仕事が人をつくる』はもう品切で、新刊書店にない本なんですが、古本でもいいんでしょうか。
坂本:次の方が気持ちよく使っていただける状態のものであれば、特に古本は駄目ということはないです。ただ、書き込みがあったり、劣化が激しかったりする本はお受けできませんが。
——古本でも見つけられなかった場合は……。
坂本:値段が同じくらいで、内容が近いものを代替本としてご案内して、お持ちいただきます。ガイドブックなら今売っている最新の版とか、小説なら同じ著者の最新刊というケースもあります。『仕事が人をつくる』なら、同じテーマの新書や文庫などでしょうか。
——すごく怖いホラー小説を失くしたけど、その著者の新刊は明るいユーモアミステリーだった時はどうなるんですか。
坂本:ホラー小説という部分にはそんなにこだわっていませんが、基本的には「この著者の本だから、この本を指定されたんだな」とわかるかたちでお願いしますね。
内容によっては、単行本を文庫化されたものでもOKだったり、医学書などでは、内容が旧い場合、改訂されたものが指定されることもあるそうです。
医学書ってかなり高価なものが多いですからね……失くすと大変だ。
ちなみに、千代田区図書館クラスの規模でも、「紛失は月に10件もない」そうです。
あと、借りる人へのお願いとして「水に濡れた状態で返却しないでね」と。
僕の事例(失くした、ではなくて、汚してしまった、ですが)もあわせて考えると、図書館にとっては「本の紛失や汚染は、もちろん望ましい事態ではないけれど、図書館側もある程度想定しているトラブルであり、フォローする方法も準備されている」のです。
それも、かなり柔軟に対応してくれるみたいですね。
古本の入手が容易であれば、定価よりも安く済むことも多そうです。
少なくとも「一冊の失くしてしまった本のために、ずっとスタッフは延滞通知の電話をかけ続け、借りた側は、いたたまれない気分で電話を無視し、新しい本も借りられなくなる」というよりは、きちんと「後始末」したほうが、お互いにとってプラスになるはずです。
ちなみに、アメリカのAmazonでは、電子書籍の貸し借りができるのだそうです。「2週間貸す」というようなボタンがあって、その期間は、貸した側は読めなくなり、借りた側だけ読める。期限が来たら、自動的に貸した側に読む権利が戻ってくる。
図書館とかもこんなふうにならないかな、と思うのですが……あまりラクに借りて返せるようになると、出版産業としては困るのでしょうね。
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