いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

どうなるんだろうなあ、『パルワールド』


www.itmedia.co.jp
news.denfaminicogamer.jp



 『パルワールド』というゲームが話題になっています。
 僕もほんの少し(数時間)くらい触ってみたのですが、なかなか面白い。その一方で、「キャラクターが『ポケモン』に似ている」と言われるのもわかります。
 というか、この冒頭のエントリにあるように、「『ポケモン』の世界では、子どもたち向け、あるいは万人向けでなければならないために、できなかった、避けていた(であろう)ことができるゲーム」になっていて、そのことがプレイヤーには「新鮮さ」と「後ろめたさ」を与えている気がします。

 
 ちょっと調べてみたら、1月22日に『ポケモン』からの新しい特許が発行されていました。

【7418935ゲームシステム、ゲーム方法、及びゲームプログラム】
https://ipforce.jp/patent-jp-P_B1-7418935


 僕はこの分野の専門家ではないので、流し読みした程度では「さっぱりわからない」というのが正直なところなのです。

 ただ、任天堂が『パルワールド』を訴えようと思えば、訴えることは可能ではあります(それこそ、勝ち負けを度外視すれば、どんな事例だって「訴えるのは可能」なのですけど)。


 ちなみに、任天堂は以前、『白猫プロジェクト』での特許侵害についてコロプラを訴えたことがあり、33億円の和解金を得ることで決着しています。
tokkyo-lab.com



 まだ記憶に新しい、というか現在も係争中のこんな訴訟もあります。
toyokeizai.net

では訴状におけるコナミの主張の一部を見てみよう。

例えばコナミは、①主人公キャラクターなどのパラメータを変更または設定し育成するパートや、②その育成キャラクターを用いたパート、などからなるゲームシステムに関して特許権を有している。

このシステムと、ウマ娘における①シナリオに沿ったトレーニングなどで能力を引き上げ、キャラクターを育成する、②育成を終えたキャラクターは「殿堂入りウマ娘」として登録され、ほかのプレーヤーと対戦させる「チーム競技場」というゲーム内レースに使用することが可能、などといった要素が一致するため、特許権侵害に当たるとの主張だ。

ほかにもウマ娘では、育成中のキャラクターを一定の条件を持つ別のキャラクターと一緒に練習させると、スピードなどの特定のパラメータが大きく上昇する「サポート効果」という仕組みがある。訴状では、これも特許権侵害の対象と指摘している。

コナミは今回の損害賠償請求などについて、その権利の一部を行使したに過ぎず、「追って請求の拡張を予定している」と警告する。

 この訴訟に関しては、「以前にも似たようなシステムのゲームは少なからずあったのではないか」と僕は思ったのですが、スマホメインのソーシャルゲームで限られたパイを奪い合うライバルである、ということもあって、コナミとしては訴訟に踏み切ったのかもしれません。
 
 ゲームの特許というのは本当に複雑だし、どこが「ルーツ」なのかわかりづらい。もちろん、どこが特許や商標登録をしているのか、というのが、裁判では問題になるのですが。


 スマートフォンの無料ゲームのリストなどを眺めていると、『ポケモン』のフォロワーというか、パクリっぽくて、任天堂の許可を取っていないゲームは少なからずあるのです。
 『スイカゲーム』も、本家がスマホ版をリリースするまで、「それっぽいゲーム」が乱立していました。
 
www.gamespark.jp

 こういうのも、じゃあ、「スイカ」は誰のものなのか?とは考えてしまいます。
 スイカをモチーフにしたゲームのキャラクターには権利が生じている、ということなのでしょうか。


 話を広げていくとキリがないので、畳んでいくことにしますが、任天堂は、パクリっぽいゲームでも、あまり売れていなかったり、話題になっていなかったりするものに関しては、費用対効果も考えて、スルーしているのかもしれません。


 『パルワールド』は、「売れすぎてしまったことで、訴えられるリスクが高まっている」可能性はあります。
 特許や著作権的にどうか、という法的な判断は僕にはしかねますが、明らかに「似ている」「『ポケモン』を想起させる」ものではありますし、狙ってやっているようにも感じます。そして、ユーザーも「あの、清く正しい『ポケモン』からはみ出してしまった部分」をニヤニヤしながら楽しんでいる。


 任天堂が提訴した場合、企業としての規模が違いすぎるため、『パルワールド』のメーカー側は、費用的に訴訟の継続に耐えられなくなり、和解やゲームの販売停止を選択せざるをえない状況になることも考えられます。


 あるいは、ユーザーが『パルワールド』にあまりに好意的で、任天堂が販売をやめさせようとするとヘイトが集まるような状況になれば、「あれはあれで、『ポケモン』とは無関係」と知らないふりをしたほうがいい、という判断もありえます。
 正直、アングラ作品として、細々と販売されていれば、任天堂も「みてみぬふりをした」のかな、とも思いますが、Steam売上1位で、これだけ話題になってしまうとねえ。

 訴えるにしても、「キャラクターの類似」か「システム面での特許侵害」なのか「世界観の毀損」か、あるいはその全てなのか。


 僕は昔からマイコンやテレビゲームに触れてきて、初期の業界はある意味「パクリ合い」みたいなもので支え合っていたような記憶もあるのです。
 昔のマイコンゲームは、ゲームセンターに置いてあったゲームの「勝手移植」のプログラムリストが雑誌にけっこう載っていたし、それで腕を磨いたプログラマーもたくさんいました。
 アドベンチャーゲームの「コマンド選択式」やロールプレイングの「キャラクターがレベルアップして強くなっていくシステム」も特許を取っていたら大儲けしていたかもしれませんが、ジャンルとしての隆盛はなかったかもしれません。
 テレビゲームというジャンルは、先人の遺産を上書きしていくことによって、進化していったのです。
 というか、文化とかって、先人からの文脈を完全に飛び越えたものは、まず存在しない。
 とはいえ、コピー&ペーストがあまりにも簡単になりすぎてしまった世界では、かなり厳しく権利が守られていないと、新しいものを作ろうという「活力」が失われてしまう。


 『パルワールド』、ここまで手間と時間をかけて、「アナザー『ポケモン』」を作ったことには、けっこう凄みを感じてもいるのです。
 パクリさえすれば面白くなる、なんてことは全くないのだから。
 もしかしたら、これは「アナザー『ポケモン』」ではなく、「より親しみやすくて売れる『ARK』」のために、『ポケモン』の皮をかぶせたのかな、とも思いますが、『ポケモン』の場合は、皮の部分の魅力が大きいのも事実ではあります。

 
 『パルワールド』に関しては、「ここまでやるのか」という思いと、「みんながやってみたかったことを、リスクを取って堂々とやってみせたことへの興味」「長年積み上げてきた『ポケモン』という優良(善良)コンテンツをぶち壊さないでくれ」が入り乱れている感じ、なんですよね。

 
 個人的には、「パクリでもなんでもOKにすれば、人類全体としての進化の速度が速まり、もっと面白いゲームがどんどん出てくるのではないか」と想像することもあるのです。
 かつてのインターネットに、そんなことを夢見ていたように。

 その一方で、いまの「読まれた数でお金がもらえるようになった『X(Twitter)』のトレンドワードがスパムだらけになってしまったのをみて、誰か、何かが交通整理しないと、「いま、お金を稼ぐこと」に最適化されたコンテンツで、そのメディアやジャンルそのものが価値を失ってしまうのではないか、とも考えずにはいられません。


ダ・ヴィンチ」(メディアファクトリー)2005年10月号で、恩田陸さんと鴻上尚史さんがこんな話をしておられました。
fujipon.hatenadiary.com

鴻上:たぶん、チェーホフは役者も選ぶんだよね。小津さんの映画と同じで。シェイクスピアは少々下手な役者がやってもそこそこ観られるものになるんだけど、小津作品もチェーホフも、名優たちがやんないと目も当てられないから(笑)。あ、今その話をしながら、今回ぜひ聞きたかったことを思い出したんだけど、恩田さんって、物語ることが好きなの?


恩田:好きというか、ストーリーというものに興味があるというか……。私には、ストーリーにオリジナルなんかないという持説があって。つまり、人間が聞いて気持ちいいストーリーというのは、ずっと昔からいくつかパターンが決まってて、それを演出を変えてやってるだけだと。でも、昔聞いて面白いと思ったストーリーは今でもやっぱり面白い。それが不思議で面白いから小説を書き続けている、という感じなんですよね。


鴻上:つまり、同じパターンなんだけど演出を変えるというところに今の作家の使命があると?


恩田:そうですね。だから、私は新しいことやってますという人は嫌いなんです。それはあなたが知らないだけで、絶対誰かが過去にやってるんだからと。以前、美内すずえさんのインタビューをTVで見ていたら、『ガラスの仮面』は映画の『王将』が下敷きになっていると。で、今なぜ自分は漫画を描いているかというと、小さい頃、一生懸命夢中になって観たり読んだりしたストーリーを追体験したいからだと。それは、すごく共感したんですよね。


 どうなるんだろうなあ、『パルワールド』。
 長年『ポケモン』を見てきた人間としては、これまで積み上げてきたもの、任天堂が守ってきたものを踏みにじるなよ、と思うけれど、こういうある種の「炎上商法」的な手法をとらなければ、新しいゲームがなかなか選択肢にもあがらない時代でもあるんですよね。
 正攻法で闘いたくても、正門の前は順番待ちの大行列で、しかも、門の中にも人がいっぱい。
 それが善いことだとは思わないけれど、あえてグレーゾーンを狙っていく人の気持ちも想像はできるのです。


fujipon.hatenadiary.com

アクセスカウンター