いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『電車男』と『稲垣早希のブログ旅』と「名無しさん」の時代



 稲垣早希さん、ご出産おめでとうございます。
 僕は稲垣さんが出ていた「ブログ旅」が大好きだったので、こうして結婚され、子どもが生まれて、というのを知ると、ああ、もうあれからだいぶ時間が経ってしまったのだなあ、と、なんだか感慨にひたってしまいます。

 『ロケみつ』という番組のなかで、稲垣さんの「ブログ旅」が放送されていたのは、2008年から2015年だそうなのですが、僕の住んでいる地域ではリアルタイムでのテレビ放送はなく、DVDをみて、「ああ、いい子だなあ」と和んでいたものでした。
 いや、いくらなんでも、いきなり海外に連れていかれた際に、「オーストラリアに行く」はずだったのが、着いたのが「オーストリア」であることにスタッフに言われるまで気づかなかった、というのはやりすぎだとは思うのだけれど、稲垣さんなら、もしかしたら本当かも……と信じてしまうんですよ。

 僕にとって、「インターネットやブログに、幸せや驚きが満ちていた時代」の象徴が、2004年に大ヒットした『電車男』と、この稲垣早希さんの『ブログ旅』なのです。
 前者では、「2ちゃんねる」で「電車男」を支える「名無しさん」たちの善意に感動し(「電車男」は当初から「話題になることを狙った」キャラクターだった、とも言われているのですが)、後者では、稲垣早希さんを応援する市井の人々や、ブログのコメント欄への書き込み数が旅の資金になるということで、どんどん書き込みが増えていったのが印象的でした。


fujipon.hatenadiary.com


 もちろん、あの時代(いまから15年~10年くらい前)にだって、「荒らし」はいましたし、ネットバトルもありました。
 ネットがアングラっぽい場所から、「老若男女問わず、みんなが使うインフラ」になってきた時期でもあります。

 日本でAppleスマートフォンiPhone 3G』が発売されたのが、「ブログ旅」のスタートと同じ年、2008年の7月11日だったのです。
 
 当時は、ブログにコメントするという行為にも、まだ、ワクワクする感じがあったのです。
 日本のSNSの代表格であるTwitterは、2008年4月に日本語版が使えるようになり、2009年10月には携帯電話向けサイトがはじまりました。

 SNSによって、ひとりひとりが「自分のこと」を発信することができる時代になったけれど、その一方で、「2ちゃんねる」や「ブログのコメント欄」の「名無しさん」文化は下火になっていきました。とくに「善意の名無しさん」は減ったような気がします。「ポジティブなこと」は、自分のSNSに書いても問題ないですしね。

 『電車男』や『ブログ旅』みたいな、ネットの向こうの不特定多数の善意頼みのコンテンツって、あの時期だからこそ成り立ったと思うのです。
 もう少し前、20世紀末では、ネット人口が少なかったし、2010年代になると、「これステマだろ?」「売名行為やめろ」というような批判が目立ったり、いろいろ「検証」されたりしたのではないでしょうか。あるいは、書き込みが多くなりすぎて、ブログ旅のルールがムチャクチャになっていたかもしれません。

 稲垣早希さんが、いま36歳というのを知って、「もうそんなに時間が経ってしまったのか」というのと、「たった10年あまりで、世の中もネットの風景も大きく変わってしまったなあ」というのを、あらためて感じています。



 それでも、育児への親の不安とかは、ずっと変わらないのだよなあ。早希さん夫婦、がんばれ!


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