国鉄がJRになるときに分社化された際、黒字になるであろうJR東日本、JR東海、JR西日本の本州3社に対して、JR九州、JR四国、JR北海道の3つの会社は、経営が厳しくなることが予想されていました。
補助金などで対応をする予定ではあったのですが、バブル経済の崩壊や飛行機や高速道路網の整備による「鉄道離れ」などで、JR北海道は、予想以上にきつい状況にあるようです。
人口がどんどん減っていくことも考えると、本州の3社はともかく、JR九州、四国、北海道は鉄道事業だけでの黒字化はさらに難しくなっていくでしょう。
fujipon.hatenadiary.com
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赤字でコスト削減が必要なため、新しい車両の導入も難しく、乗客へのサービス改善のために、客車の居心地の良さを追求したメンテナンスが最優先となってしまうため、安全面が後回しにされがち、というのがJR北海道の現状なのです。
JRに関しては、民営化でサービスも良くなったし、僕が利用しているJR九州は、ものすごくがんばっているな、と思うのです。
でも、すべてにおいて、民営化が善かというと、そうとは限らない。
民営化のメリットは、黒字化のためにコスト意識が高くなり、顧客サービスが改善されやすい、というところにあります。
ただし、それは競争原理がはたらく場合です。
九州でいえば福岡圏では、JR九州は西鉄との競争(共存共栄でもありますが)が、乗客にとってはプラスにはたらいているのです。
この「水道法の改正案」って、けっこう重要な法案だと思うのですが、あまり大きく採りあげられていないようにみえます。
水道と電気というのは、現代の生活では最低限のインフラにもかかわらず、「民間に運営権を任せる」リスクが軽視されているのではなかろうか。
衆議院のサイトで確認すると、水道料金を変更するためには、厚生労働大臣の許可が必要となるようなので、この法律が通ったら、日本でもすぐに「水男爵」がやりたい放題、というわけではなさそうですが。
(しかしこの衆議院のサイトこそ「民営化」したらどうか、といつも思うんですよね。ただでさえ読みづらい法律の文章が読みづらいレイアウトで並べられているのをみるたびに「うへえ」という気分になります)
この「水男爵」の話、町山智浩さんの本で読んで、僕は愕然としたのです。
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『フロウ〜水が大企業に独占される!〜』という映画の回より。
町山智浩:日本にいると飲み水には苦労しないですよね。でも、世界を見ると、そんな国は決して多くないんです。世界中で11億人もがきれいな飲料水がないことに困っていて、毎年200万人が水不足や汚い水による感染で死んでいる。そのほとんどが5歳以下の子供。
松嶋:かわいそうやね。何とかならんの? 水道つくってあげるとか。
町山:ところが逆に、水不足につけ込んで商売する連中がいるんです。フランスのスエズ、ヴェオリア、ドイツのRWEなどの多国籍企業なんですが、彼らは「水男爵」って呼ばれています。
松嶋:男爵、かっこいいやん。
町山:名前だけはね。何もしなくてもお金が儲かるから、貴族みたいだってことです。
松嶋:ある意味、ええとこに目つけたな。男爵たち。
町山:そう。彼ら、わずか5、6社の大企業が、全世界の水を独占しつつある。
(中略)
町山:ボリビアではもともと日本と同じように水道局が水を管理してたんですけど、アメリカのベクテルという会社が水道事業を完全に独占しちゃった。
松嶋:えー、でもそれ、アメリカの会社でしょ。
町山:そう。儲かるのは外国の会社。しかも、企業が水源を押さえたために、井戸からも水が出なく、川も上流で押さえて、下流に行かないようにする。そこで、水が欲しければ我々の会社から買え!って、すごい高い金額で売りつけた。1か月の水道代が3000円くらいになっちゃった。ボリビアは貧しい国で、年収2万円くらいで暮らしている人が多いの。
松嶋:水飲めないやん!
町山:貧乏な人たちはしょうがないから汚い水を飲んで、子供が死んで、悲惨なことになったんです。
松嶋:”人間の体は70%が水でできています”って、いうよね。そこを押さえられたら、生きることに困るやんか。水、大事やのに。
町山:だから空気と同じだから、絶対に営利団体の商売の道具にさせちゃいけないの。
松嶋:じゃあ、なんでボリビアは水道をアメリカの会社に任せたの?
町山:ボリビアは貧乏だから、世界銀行からお金を借りてるの。世界銀行というのは、貧乏な国に水道とか道路をつくるための資金を援助というか貸してあげるわけ。ところが、世界銀行はボリビアに、水道を民間企業に任せなければ金を貸さないぞと言ったんです。
松嶋:何それ?
町山:世界銀行は、水道に関しては、世界水会議の方針に従ってる。それは、世界各国が集まって世界の水不足対策を協議する「水の国連」ですけど、その水会議の役員は、さっき言った水男爵たちによって占められてるんです。
松嶋:グルやー。
町山:グルですよ。世界銀行で日本やアメリカから集めた大金は、貧しい国が水道をつくるために貸し出されるけど、その水道をやってるのは先進国の水男爵。お金は彼らのところに入るだけ。
なんて酷い話なんだ……
この本では、こういう「世界の裏面の事実」が描かれたドキュメンタリーが、たくさん紹介されています(けっこうバカバカしいものもありますけど)。
水が豊富な日本に生まれてよかった!なんて思ってしまう話なのですが、これが日本にとって他人事ではないというのを、椎名誠さんが『水惑星の旅』という本に書かれていました。
以下は、『水惑星の旅』からの引用です。
今、日本各地の山(森)がかつてないほどの規模で売れている。林業がふるわなくなったいま、日本の山はその持ち主にとっては「巨大なやっかいもの」になりつつある。そういう山を買い取る動きが活発化しているのだ。相手はダミー会社を使っているので明確にはわからないが、背後に外国の企業が存在しているケースが多いという(『奪われる日本の森』平野秀樹、安田喜憲著、新潮社)。
この本に書かれている内容は衝撃的だった。山林を買っていく企業の狙いはさまざなで、そこから伐採される木材もそのひとつだが、究極の目的は「水脈」というのだ。日本にはいたるところに「名水」がある。本章の冒頭書いたように山間部にはたくさんの川の源流があり、梅雨や台風が定期的にやってきて、水源が枯渇するということはまずない。質のいい水が安定供給されている「宝の山」に外資が目をつけているのだ。硬水が多いヨーロッパ各国にとって、「軟水」だらけの日本の水は文字通り「宝の源」であり、ウォータービジネスの最高の狙い目だ。国家的な水不足に悩んでいる中国はアジアの大河の源流がほとんど集まっているチベットから巨大な水路を作って中国の川に導き入れる工事を急ピッチで進めるいっぽう、日本の山の水脈にも手をのばしている。
長年、日本には、「このような外国からの水資源収奪を防ぐ法律が存在しなかった」のです。
いまに、「日本人が、目の前を流れている日本の水を飲めなくなる」日が来るかもしれない。
にもかかわらず、多くの日本人は、そんな危険があることすら、認識していません。
ボリビアの話は、本当に「他人事」ではないのです。
ただし、近年は危機意識を持った地方自治体が、外国資本の水源地買い占めを防止する条例を制定する動きもあります。
水資源保全条例 - Wikipedia
「水と安全はタダ」だという日本は、もう遠い話です。
世界には、「生きるために最低限必要なインフラを民営化したことによる弊害」に直面し、「再公営化」したところもあるのです。
bigissue-online.jp
こんなにいろんな地域で「答え」が出ているのに、いま日本で水道を民営化するのって、おかしくないですか?
税金が高くなって喜ぶ人はいないだろうけれど、それが「日常で安全に水を使えるためのコスト」だという理由なら、僕はオリンピックよりも水道に税金を使ってほしい。
「公と民」をやたらと比較して、「なんでも民営化が正しい」と主張する人は多いのだけれど、少なくとも、必要最低限なインフラに関しては、民営化はリスクが高すぎると僕は考えています。
fujipon.hatenablog.com
このエントリのなかでも紹介した、アメリカの製薬会社の話。
www.huffingtonpost.jp
まさかこんなことでお金儲けをしないだろう、というのは、こちら側からの「希望的観測」でしかありません。
情をかなぐり捨てれば、そういうところだからこそ、「稼ぎたい放題」にもなるのです。
人口が減少し、過疎化した地域が広がってく日本で、なんでも今までどおり、というわけにはいかないと思います。
でも、それを理由に「生命に直結するインフラ」を国や地方自治体が手放してしまうのは危険きわまりないことです。
こういう法案が、さりげなく衆議院を通過してしまうのは怖い。
国会内ではかなり異論が出ていたみたいではあるのですが、あまりメディアでも採りあげられていなかったようです。ワールドカップに比べたら、「面白くない話題」で、視聴率もPV(ページビュー)も稼げないのでしょうけど……
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