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カープファンのひとりとして、覚悟はしていたつもりでした。
ずっとカープの試合を、黒田のピッチングを観ていれば、今年の後半の黒田のピッチングが本来のものではないことはわかったし、そのことに本人ももどかしさを感じているということも伝わってきていたのです。
みんな、あえて口には出さなかったけれど、「今年で引退するのだろうな」と感じていたのではなかろうか。
僕も「たぶん引退だろうけど、万が一、来年も投げてくれれば嬉しい。今年も二桁勝ったのだし……」というくらいのスタンスで、例年のごとく、シーズン終了後に熟考するであろう黒田の答えを平常心で待つつもりだったんですよ。
正直、予想していたはずなのに、あらかじめ覚悟していたはずなのに、こんなに心を揺さぶられ、涙を流すことになってしまうとは……
でも、この涙には悲しいとか残念という成分はほとんど含まれていなくて、「やりとげた人」を目の当たりにしたときの感動と感謝が詰まっているんじゃないかと思います。
アメリカから「男気」で20億円を蹴って、4億円の年俸でカープに復帰した黒田は、去年、引退してしまう可能性が高いのではないかと言われていました。
前田健太とのダブルエースで、カープに久々の優勝を!と盛り上がったシーズンだったのに、チームは笛吹けど踊らず、優勝どころか、CS進出をシーズン最終試合に敗れて逃す、という体たらく。
マエケンはドジャースに移籍してしまい、黒田が現役続行を宣言しても、優勝というよりは、これでなんとか1シーズンたたかう「形」くらいはできたかな、という感じだったのです。
エース・マエケンが抜けたということで、チームの前評判も低かった。
2016年も前半戦、なかなか勝ちきれず、リリーフが打たれて接戦を落としまくるなど、不安定な戦いが続いていました。
しかしながら、交流戦の後半の赤松のコリジョンルール適用によるサヨナラタイムリー、そして、「神ってる」鈴木誠也の3試合連続決勝ホームランで一気に波に乗り、8月7日の巨人戦での奇跡の逆転サヨナラ勝ち以降は2位以下をぶっちぎっての優勝。
思えば、今年の黒田は後半戦、200勝くらいからなかなか勝てなかったのですが、前半戦のチームがなかなか勝ちきれないときに白星を重ねてくれていたのですよね。
あの200勝のときのピッチングは、本当にすごかったな。
一昨日の日曜日の夜の『情熱大陸』に黒田さんが出ていたのですが、誰よりも早くトレーニングルームに顔を出した黒田さんは入念に体のメンテナンスをしていました。
「注射も打ったし、いろんなことしたけど、なかなかね。上がってこないですね。今までやってきたなかで、一番あっちこっち(注射を)打ってきてるんじゃないかな。最後はみんなそうやってなっていくんだろうなあと思って」
この「最後」という言葉を聞いて、「ああ……」と感じていたのも確かです。
たぶん、引退のことをすでに知っていたはずの新井さんに対して、優勝決定後に収録されたこの番組のなかで、一緒に美味しそうにビールを飲みながら、「(新井選手には)このまま綺麗に終わってほしくないよね? ボロボロになるまでやるのが、受け入れてくれたファンに対しての……(恩返しだと思う)」と言っていたのも、けっこうムチャぶりだな、と。
でも、きっと綺麗に引退したように見える黒田さんも、それを見せないようにしているだけで(漏れ聞く話だけでも、壮絶なものがありましたが)、身体はボロボロだったのです。
寂しい、ものすごく寂しいけれど、その一方で、20億円を蹴ってカープに戻ってきて、ギリギリのところで「あと1年」と決意した、その「最後の1年」が、こんな素晴らしい年になったことに、僕は感謝せずにはいられません。
カープがベテランと若手の力が噛み合った素晴らしいチームになって、カープファンの長年の「悲願」を叶えてくれたのは、黒田さん、新井さんの力が本当に大きかったと思う。
力はあったけれど、その力を使いこなせなかった選手たちに、「生きた目標」を与えてくれた黒田さんと新井さん。
『情熱大陸』のなかで、鈴木誠也選手が、黒田さんに「試合中にガムを噛むな」と注意したという話が出てきました。「相手に舐められていると思われるととロクなことがない。そもそも、イチローや松井は試合中にガムを噛んでいるか?」と。
黒田さんは実際にイチロー、松井と一緒にメジャーリーグでプレーしていました。
その「レジェンド」が、そう言っている。
そして、その言葉は、鈴木誠也選手を「黒田さんは、自分に、まだまだそのくらいで妥協するな、イチロー選手や松井秀喜選手を目指せ、と言ってくれているんだ」と発奮させたはずです。
本当に、黒田が最後の年に、こうやって「優勝」という結果で報われてよかった。
黒田さんは、ボロボロになりながらも、やり遂げて、満足して、引退を決意したのだと思います。いや、そう思いたい。
この引退の報に、カープファンも、他の選手たちも「意外だ」と言う人はほとんどいませんでした。
身近なところでみていた人たちは、みんな、黒田さんの身体の状態をわかっていたのでしょう。
黒田は「終わった」のではなくて、「なんとか間に合った」。
ありがとうございました、はまだ日本シリーズがあるから早いけど(黒田さんは勝つつもり、抑えるつもりでマウンドに上がるはずだから)、最後の雄姿、しっかり目に焼きつけておきます。
それにしても、かっこ良すぎるよ、黒田さん。
わかっていた、わかっていたはずなのに、こんなに美しい引退なのに、なんで涙が止まらないのだろう。
- 作者: 黒田博樹
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