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いつか電池がきれるまで

”To write a diary is to die a little.”

『メタルギア』を知るための3つの物語

blog.hatenablog.com


メタルギア ソリッド V ファントム・ペイン』は明日、9月2日発売です。
僕は『メタルギア』シリーズが1987年にMSX2で発売されたときからの付き合いなので、「もう30年近くになるのか……」と感慨深いものがあります。
ドラゴンクエスト』シリーズとかもそうなんだけれど、今のゲーム界を支えているシリーズをずっと作ってきた人たちも、みんなそれなりの年齢になってきて、遊んでいる側の僕たちも、こんな年齢になってきて……いつまでこの「幸福な送り手と受け手の関係」を続けていけるのだろうか、などと考えてしまうこともあります。
小島監督は、コナミとの関係がギクシャクしているという説も流れていることですし……
まあ、小島さん自身がソリッド・スネークみたいなものなのか。


この『メタルギア』シリーズなのですが、最初に出たのがMSX2という「当時のマイコンの中ではメジャーだったものの、ファミコンやそれに続くゲーム専用機に比べればマイナーなマシン」だったこともあり、まさかこんな人気シリーズになるとは思いませんでした。


小島秀夫監督が、この『メタルギア』の開発時を振り返って、こんな話をされています。


ファミ通』(2007/7/20号)に掲載されていた、小島秀夫監督のインタビューより。

小島秀夫カプコンさんの『戦場の狼』が、当時アーケードで流行っていまして。そういうゲームをMSX2で作ろうと。そういう動きが何年も続いていて、何人もの先輩たちがチャレンジをしてはボツになっていたわけです。そんなものが僕のところに回ってきまして。


浜村通信あーなるほどなるほど。


小島:正直言って、戦争もののゲームを作りたいとは思わなかったんですね。でも作らないといけない。そのときに考えたのが『大脱走』みたいな”逃げるゲーム”です。武器も何もない状態で、とにかく逃げる。見つかると捕まって、そのエリアにある収容所に入れられる。そこからどうやって逃げるかを考えて、最後に国境を越えたら勝ちというのを作りたかったんです。でも、それを先輩に言うと、「そんな逃げるゲームなんて誰が買うんや」と(笑)。


浜村:なるほど(笑)。


小島:しかも、新人で1本もゲームを完成させていなかったわけですから、誰も協力してくれなくて。そのときは、本当に辞めようと決意しました。それが1986年の年末だったのですが、「辞める!」と言ったら、ある先輩に食事に誘われまして。その席で、「本当は何をやりたい?」と聞かれたので「本当に『大脱走』みたいなものが作りたいです」と話をしたら、年明けに企画書を書いて家まで来いと言われたんです。そこで、簡単な企画書を用意して持っていったら、「こんなゲームは見たことない。僕があいだに入るからがんばりなさい」と。


浜村:へー!


小島:その先輩は、『グラディウス』を作られた偉大な方だったのですが、上司に交渉してくれて、最終的にゴーサインが出ました。


 「戦争もののゲームは作りたいと思わなかった」小島監督が作ったからこそ、『メタルギア』のシステムは生まれたのです。もし小島監督がゲーム界の常識を乗り越えられない人だったら、「逃げるゲーム」なんて考えなかったはず。
 これを作るのを支援してくれた先輩もまた、見る目があったのですね。作品としてはさておき、ゲームという商品としては、「売れそう」には思えないものなあ。


 また、小島秀夫監督は、『メタルギア ソリッド 4』で、こんな「ゲーム界の革命」を起こしています。


バカタール加藤のアノ人に聞きたい!』(エンターブレイン)より。


(『週刊ファミ通』に掲載されていた、元編集長・バカタール加藤さんと有名ゲームクリエイターの対談記事をまとめた本の一部です。遠藤雅伸さんの回から)

バカタール加藤:学問的にもゲームを見ている遠藤さんから見て、日本のゲームというもののありかたと、海外のゲームのありかたの差で感じることはありますか?


遠藤雅伸日本の特徴的なことを言うと、日本人は、若い人になればなるほど、人より前に出てやろうという気持ちが薄いですよね。海外だと、人を出し抜くとか、人よりも点数を上げるというのが大好きなので、ルールの中でできることなら何でもやろうということがよく見られます。相手より1点でもいいから多く取って勝ちたいとか。僕は勝ち負けでどうこうしたいとは思わないので、あまりこだわらないんですけどね。


加藤:確かに、日本人には和を大事にするようなところがあるかもしれませんね。


遠藤:だからこそ、ほかの国にはないようなゲームが生まれるのかもしれないですけどね。日本人が作るゲームは、丁寧に作るという部分だけが取り立たされていましたけれど、いまは海外で作られたゲームも非常に丁寧に作られた作品が増えているんです。難易度設定もしっかりしている。でも、最後の最後で突き放すんですよ。


加藤:ああ、なるほど。


遠藤:最後の最後で、「やはりこの部分はこうじゃないとダメだ」と。最後まで遊ばせたくないというか、「これくらいのレベルは突破してもらわないと、このゲームを極めたことにはならない」という、驕りみたいなものがあるんでしょうね。そういう意味では、KONAMI小島監督が、『メタルギア ソリッド 4』でVERY EASY モードを作ってくれたのは、すばらしいことだと思います。


加藤:僕も思いました。アクションが苦手な僕でも楽しめましたよ。


遠藤:そのへんが日本人ならではの発想ですよね。本当に気持ちよく、最後まで映像が観られました。


加藤:メタルギア ソリッド 4』では、とくに感じましたよね。それだけユーザーに伝えたいものがあるんだな、と思いました。


遠藤:ゲームが下手な人を許容してくれるという姿勢が、すごくうれしかったです。


加藤:任天堂さんも、ユーザーがクリアできないようなゲームを作らないようにしているな、というのをヒシヒシと感じますね。


遠藤:とにかくみんなにクリアーしてもらいたいので、クリアーの基準を低いところに設定していますよね。そしてクリアー後にも、やり込み要素として続きをしっかり遊べますという作りかた。僕は、これがいちばんいいと思うんですよ。


 セガサターンに、『エネミー・ゼロ』(1996年)という超絶難易度のゲームがありまして。
 見えないモンスターを音で判断して倒すゲームなのですが、あまりにも難しい&セーブとロードに回数制限があるという修羅の国だったのです。
 あまりの難しさに、1997年に発売された廉価版では「イージーモード」が追加されたんですよね。
 それでも難しかったんだけど……


メタルギア ソリッド 4』は、『エネミー・ゼロ』(って何度も名前を出してますけど、みんな知らないよね……)に比べると、「普通の難易度」なのですが、にもかかわらず、最初から「VERY EASY」が選択できるようになっていたのです。
ゲームって、作る側になると「あまりにもラクにクリアされたら、面白くない、あるいはコストパフォーマンスが悪いと思われるんじゃないか」「なかなかクリアできないストレスも、ゲームの楽しみの一部なんじゃないか」とか、思ってしまうのだろうか。
小島監督は、そんな先入観にとらわれませんでした。
「プレイヤーは、それぞれその人にとって適切な難易度を選ぶだろう」と思っていたし、「なるべく多くの人に、ストーリーを楽しんでほしい」とも願っていたのでしょう。
よほど「物語」に自信があったのでしょうね。



最後に、スネークと言えばこの人、声優・大塚明夫さんの話。

桜井政博のゲームについて思うことX』(桜井政博著・エンターブレイン)という本のなかで、『大乱闘スマッシュブラザーズX』制作時の大塚さんのエピソードが紹介されていました。


 スネークの声を演じるのは、大塚明夫氏。大物です。代表作は『ブラック・ジャック』、日曜洋画劇場のナレーションなど。シブくて太い声で、ゲーム関連にも多数出演されています。スネークは、氏の声あってのものですよね!!
 夏のころ、渋谷のスタジオにて。『スマブラX』は対戦型のアクションゲームなので、各キャラクターのセリフは短く少なめです。だから、声優さんを全員集めて何日もかけて収録するということはありません。ひとりずつ時間単位でスケジュールを割り当て、短いセリフを数十テイク収録し、はい、おつかれさま、という淡白なもの。でも、後日再収録、なんてことはできないから、よーく聴いておかしなところがないか判断しなければなりません。わたしも、ここぞとばかりに音に集中します。
 そしてついに大塚さんが登場。事前に台本を読んでいただいているので、準備万端。諸処説明後、大塚さんは録音ブースへ。わたしは指示を出すために編集スタッフ用のマイクの前へ。
 順調に収録が進んでしばらく。大塚さんの発声が少しつかえたように聞こえました。ん? と思いながら、「もう1テイクお願いします」とお願いしたところ、なにやら怪訝そうなお顔。あれ? 悪いことを言ったかしら……。
 ここでのお話、コラム連載中には具体的に書くことを伏せていましたが、いまなら書けます。
 スネークの”スマッシュアピール”において、ルカリオ波導の色を語る描写がありました。
「メイ・リン、奴の手から出ている”紫”の炎はなんだ?」と。そこが、ちょっとつかえていたと。
 大塚さんに話を伺ってみると、どうやら”色を形容するときに言葉を捜すさま”を演じていたのだとか。「色を言葉にするとき、すぐにその色の名前が出る人は少ないでしょ? それで、色の名前を考える間を入れてみたんだけどね」。なるほど……!!
 これは感服。たしかにそのとおりです!
 目の前に広げられた台本。氏はそれだけにとらわれず、情景、あるいはスネーク本人の思考をリアルに頭に浮かべながら演じているのだと感じました。空気のように自然に演じられているかもしれないし、よく考えてのことかもしれない。いずれにせよ、声優なり役者なりの熟練の成果なのでしょう。
 声優さんに限らず、シナリオを書く人も、頭の中でいろいろなキャラクターが語り、叫び、吠えているものだと思います。
 そこにないものをあるように見せること。それに賭けている人には、いろいろな方向性があれど、経験や情感が活きていくのだろうと思います。それが重なって作品性がにじみ出てくるのだろうと。

 

 小島監督の「個人的な思い入れ」からはじまった『メタルギア』は、いまや世界中の人々が待ち望むビッグタイトルとなりました。
 ゲームとしてのスケールはものすごく大きくなりましたが、そこに込められている「思い」や「プロの仕事の数々」は、昔も今も変わらないはずです。



声優魂 (星海社新書)

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